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メディアあれこれ 18 富山県の山村の野外劇場、永六輔のベストセラー『大往生』でマクルーハンがわかる?!
◆25年ぶりの鈴木忠志
昨年(2024年)、JR吉祥寺駅近くの吉祥寺シアターというところで、鈴木忠志演出の芝居をひさびさに見ました。なんと25年ぶりです。
鈴木さんは劇団SCOT(元早稲田小劇場)の代表で、国際的に評価の高い独自のメソッド創始者です。今作は「世界の果てからこんにちは」という1時間くらいの短い芝居で、全員が車椅子で登場という“奇妙な”芝居にひたりました。
※鈴木忠志・SCOT
連日、終演後に鈴木忠志さんのトークがありました。SCOTは富山県利賀村(広域合併で現在は南砺市)が本拠地ですが、東京での公演は、ウィークリーマンションに団員が泊まって行うので、採算が厳しいと語っていたのが印象的でした。
◆髭を生やした男優3人が、リア王の姫
利賀村にSCOTの劇場ができたのは1976年(昭和51年)でした。鈴木忠志さんは、村長や区議会の要人にしぶとくアプローチし、宴会のつきあいも16回に及んだそうです。
それからおよそ12年後、今からは35年も前になりますが、1980年代末のぴあ総研時代、利賀村に国際フェスティバルの芝居を見に行きました。まだ所員が数人という頃で、全員で行きました。利賀村は文字通りの山村で、マイクロバスに乗ってたどりつきました。テレビの「ポツンと一軒家」によく出てくるような崖沿いのヒヤヒヤする道でした。そこに世界各地から役者が集まるのです。
合掌造りの劇場のほか、野外劇場もあります。あの空気感。舞台の後方に風に揺れる木々、そのまた向こうに浮かぶ月。「もう少し詰めましょう。はい、お尻をあげて・・・ドン!」のかけ声で、みんな一斉に腰を浮かせて、立っていた人が座れるようにしました。そのかわり隣同士の密着度がぐんと高まりました。
◆劇場というメディア、そして「メディアはメッセージ」
そこで見た「リア王」は、3人姉妹の姫たちを演じるのがみんな男なのです。髭まではやしています。写実性がないのに、リアリティが迫ってくるのは新鮮な驚きでした。感激して、後日、水戸芸術館で同じ芝居を見に行きました。水戸にも行って本当によかったと思いました。
ただし、利賀の野外劇場のリア王と、水戸芸術館のリア王はやや別の作品世界だとも感じました。マクルーハンの「メディアはメッセージ」という有名な言葉を思い出します。劇場=メディアが異なれば、同じ芝居でも別の世界を生み出すということを実感しました。
吉見俊哉さん(社会学者)は「メディアはメッセージ」の意味を「メディアはメッセージとは異なる次元で受け手の身体に作用する」と語っています。
◆廃刊間近な雑誌の連載が本になったら200万部のベストセラーに
「メディアはメッセージ」でもうひとつ思い出すのは、永六輔さん(2016年没)の著書『大往生』(岩波新書、1994年刊)です。
『大往生』は200万部を越すベストセラーになりましたが、この本の中身は矢崎泰久さんが編集長をつとめていた雑誌「話の特集」に連載されていたものです。その「話の特集」はなんと『大往生』発刊の翌年に廃刊になりました。
「話の特集」に載っていたコンテンツと、岩波新書『大往生』の中身は同じです。地味な雑誌に連載していたコンテンツが、新書という装いでまとめられると思わぬベストセラーになりました。つまり同じ内容が岩波新書という別のメディアにくるまれたとたん、別のメッセージを発するようになったと言えましょう。