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「デザインシステム」の活用をどう推進する? 品質向上を目指した“ネクストステップ”とは

SMBCインハウスデザインチームが発足してから6年 。私たちはデザインを通じてサービスおよびプロダクトの品質をさらに高めるべく、日々さまざまな活動に注力しています。

特に2021年以降、継続的に取り組んでいるプロジェクトの一つが「SMBCデザインシステム」の構築と運用です。私たちはこのデザインシステムが、当行をより多くのお客さまに選んでいただくために必要不可欠なものだと考えています。

デザインシステムとは
サービスやプロダクトに関するすべてのデザインに対し、一貫性をもたせて提供するための考え方や仕組みのこと。デザインの共通パーツのルールを定めたもので、対面・非対面を問わず各チャネルのアウトプットで統一した体験の構築を目指すものです。
デザインシステム設計・構築のプロジェクトをご紹介した記事はこちら

「お客さまに対して、SMBCのどのサービスを利用いただいても一貫した体験をご提供できるようにする」——その実現を目指し、2020年ごろからデザインシステムの設計・運用に取り組んでいます。
そして現在、このデザインシステムの活用をさらに進めるための施策に取り組んでいます。今回はその内容をご紹介します。


「どうやって社内に浸透させるの?」デザインシステムリリース後に寄せられた問い

昨年、SMBCデザインシステムの設計・構築を含むインハウスデザインチームの活動を、一冊の書籍にまとめて発表する機会にめぐまれ、社内外から大きな反響をいただきました。

書籍「銀行とデザイン」

ただ、書籍を読んでくださった方々(おそらくその多くは、私たちと同じ課題に取り組まれているみなさんでしょう)から、ある質問が多く寄せられました。

それは「デザインシステム構築などの取り組みは素晴らしいが、これからどうやって社内に浸透させていくのか?」というものです。
 
当然のことながら、デザインシステムは「完成すればそれで終わり」というものではありません。構築したデザインシステムをグループ全社およびパートナー企業に正しい形で活用してもらうには、越えなければならないハードルがまだまだあります。

リリース後、細かなバージョンアップや改善を重ねながら、私たちは次のフェーズ、次に取り組むべきことを模索していました。

その結果、2022年7月から取り組むことになったのが「デザインシステム浸透施策プロジェクト」です。

デザインシステムの設計・構築に引き続き、UI/UXデザインを専門とするアジケさんの協力を得てプロジェクトを進めていきました。

ここからは、チームメンバーによる座談会をお届けします。

今回のプロジェクトに携わっているメンバー。写真左から リテールIT戦略部 チーフデザイナー・金澤洋、UI/UXデザイナー・森川沙紀、岡崎隼也(SMBC)ディレクター・甲斐祐美さん、UIデザイナー・山本琴子さん(アジケ)

※デザインシステムの活用の推進に一緒に取り組んだデザインパートナーのアジケさんのnoteでも紹介していますのでぜひ

少しずつ認知が広がり「デザインシステムを使いたい」と相談が増えるが…

金澤:リリースしてから約1年、少しずつではありますが、デザインシステムの認知は着実に広がっていると感じます。窓口をお願いしている岡崎さんが、一番それを感じているのではないですか?

岡崎:社内の各部署から「デザインシステムを使いたい」と、声がかかることは確かに増えています。

あるとき一人の担当者から相談を受け、いい機会だと思って説明会を行ったところ、最終的に50人もの関係部署の人たちが参加してくれたことがありました。デザインシステムに対する関心の高さを感じ、うれしく思いましたね。

森川:私も同じグループの企画担当者(非デザイナー)の方から、制作物のデザインに関して「デザインシステム上、この変更はOKですか?」と質問を受けたことがあります。小さなことではありますが、デザインシステムというものが存在すること、それは会社として守るべきものであることが認識されはじめているのだな、と感じました。

金澤:認知は広がりつつあるものの、このデザインシステムを実際に活用してもらい、サービスやプロダクトの品質向上につなげていくためには、まだまだ課題は山積みです。

あるプロジェクトでは、関係各社にデザインシステムの情報を渡したものの、私たちが意図した使われ方をせずに、デザインに使用するカラーや雰囲気が何となく合っているだけの仕上がりになってしまったことがありました。

決してそのときの担当者が悪いわけではなく、私たちの伝え方に課題があると痛感した出来事の一つです。

岡崎:社内からの問い合わせを受けていても、デザインシステムがどんなプロジェクトで必要で、どの粒度で活用したいのか、そもそも現バージョンのシステムを活用してもらえるのか……など、ヒアリングを重ねて丁寧にコミュニケーションを取る必要があるケースが多かったんです。

そのため次段階として、活用方法を正しく理解してもらうための施策が必要だな、と。

森川:その課題感は、チーム全員が持っていましたよね。

デザインシステムは「システム」と名が付いている通り、仕組みとして機能することが大前提です。だからこそ、活用してもらうための施策も、デザインシステムを構成する大事な要素だと考えていました。

「みんなの当たり前」を目指すために。理想とする状態を言語化

金澤:デザインシステムをリリースして以降、約1年をかけて細かなバージョンアップデートを重ねてきました。

それが一通り落ち着いたところで、アジケさんとも相談し、次はアップデートではなく社内での活用を進めるための施策へと移行しよう、という話になりました。

甲斐(アジケ):長くデザインシステムのプロジェクトをご一緒する中で、アジケとしてもみなさんと同じ課題感を持っていました。ただ一口に「社内への浸透施策」といっても、対象が非常に広く、ゴール設定も難しいんですよね。

岡崎:本当にその通りで、今回の施策ではまずは何を目指すのか、どういう状態をゴールとするのかをしっかり言語化することから着手しましたね。

最終的に、私たちはデザインシステムが「みんなの当たり前」になることを目指しているのですが、その「みんな」とは誰か、「当たり前」とはどのような状態なのか——今回の施策では、SMBC内の各部門と社員に加え、開発・制作に携わるパートナー各社とそのメンバーを対象とすることにしました。

その人たちがデザインシステムについてしっかり理解しており、デジタルプロダクトやサービスを作っていく工程の中で正しく活用されること。デザインシステムの活用によって、設計開発プロセスが効率化されること。そして、最終的なアウトプットの品質が担保されること。この3つの状態の実現を目指しました。

金澤:明確な正解がないゆえに、アイデアや実施方法はそれこそ無限に考えられるプロジェクトです。施策を絞って具体化するため、チーム全員でワークショップを行いました。

甲斐(アジケ):全員で施策のアイデアを出し合い、その中から成果につながる見込みがあるもの、影響力がより大きいもの、そして今回の場合は、工数ができるだけ少なくすぐに実行できるものを優先的にピックアップしていきました。

森川:そのディスカッションの中で、「いずれはグループ会社や各部署に専任のデザイナーが配属されるようにしたい」など、将来的な理想のあり方についてもたくさん話しました。それをチームメンバーと共有したうえで、具体的な施策を絞れたのがよかったと思います。

浸透施策のアイデア発散のワークショップで実際に使用した資料

対象者・目的別に2段構えの説明資料を制作

金澤:今回は第一弾の施策として、デザインシステムをはじめて使う社員、パートナー企業などを対象とした「オンボーディング資料」と、実際のデジタルプロダクト・サービスの制作に携わる人たちを対象とした「SMBCデザインシステム UIコンポーネント始め方ガイド」の2種類を制作しました。

森川:誰に対してどの情報を出すべきか、対象となる人たちのリテラシーを想定して、細かく整理を重ねていきましたね。

甲斐(アジケ):慎重にすり合わせた結果、この2段構えの資料になりました。

『オンボーディング資料』1ページ目

岡崎:資料そのもののリリースはまだこれからですが、オンボーディングの一つとして考えた、デザインシステム利用案内メールをテスト的に活用する機会があったんです。

デザインシステムのURLをただ送るのではなく、まずはSMBCにおけるデザインシステムの原則や役割、UIコンポーネントの利用ルールなどを記載して、最低限どこを見ればデザインシステムを正しく使えるようになるか、作成した案内メールです。

それを実際に使ってやり取りしたところ、解釈の違いが生じることなく、コミュニケーションがスムーズに進みました。やはり、次の段階へと進むために必要なものだったのだと実感しています。

山本(アジケ):制作側の当事者として見ても、こうした資料があるとデザインに取り掛かるハードルが下がると感じています。

金澤:実際に作業をするデザイナーの中にも、Figmaを使い慣れている人、そうでない人がいます。「SMBCデザインシステム UIコンポーネント始め方ガイド」ではそうした人たち向けに、環境設定から操作方法などの細かい部分までフォローしているので、作業効率アップが期待できそうですね。

『SMBCデザインシステム UIコンポーネント始め方ガイド』TOPと目次

山本(アジケ):作業する人が途中で迷い、手が止まってしまうことがないように、資料の中に「FAQ」と「トレーニング」の項目を設け、丁寧な説明動画を作成しました。ここは特に、チームで活発な議論を交わしたところでもあります。

実際の説明ページ

岡崎:今回作成した2つの資料は、インハウスデザインチームにこれから新たに加わるメンバーの教育・オンボーディングにも、とても役立つと思います。

これからも、デザインを通じたサービス・プロダクトの品質向上を目指す

金澤:最後に今後の展望について、それぞれ考えていることを話してみましょうか。

森川:今回は施策の第一弾として2種類の資料を作成しましたが、今後はさらに活用を進めるため、「システム(仕組み)」の部分のアップデートを検討していきたいですね。

データの配布の仕方、作業の自動化などを含めて、組織的な運用をスムーズにできる仕組みの構築を目指したいです。

岡崎:私としてはこのデザインシステムの活用が進み、デジタルサービス・プロダクトに自然に取り込まれる状態を理想として描いています。

そのためには今のデザインシステムを発展させ、より柔軟でシンプルなあり方を模索することも必要だと思っています。

金澤:今回のプロジェクトはあくまでも、デザインシステムの活用によるサービス・プロダクトの品質向上を目指すための一つの通過点にすぎません。

新たなメンバーの力を加えながら、今後もチームでさらに議論を重ねていきましょう。


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