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「やっぱり世の中は美人に都合よくできてやがる!」/『嘆きの美女』柚木麻子
あーこれこれ。
『私にふさわしいホテル』で主人公の加代子に感じたアグレッシブな感じ。怒りとか憎しみ、卑屈みたいなのを原動力にして、周りを押しのけるようにぐぐぐっと鈍く進み続ける戦車みたいな行動力。
(『私にふさわしいホテル』の感想はこちらからどうぞ↓)
本作の主人公でもある耶居子にも、その魂を感じざるを得ないんです。
表題の「嘆きの美女」とは、ネット上にある掲示板のこと。
そこでは、「お高くとまっていると妬まれる」「同僚からのアプローチがしつこい」などといった美女特有の悩みを抱えた美しき女たちが、日々寄り合ってはその悩みを共有している場所。
そんな彼女たちとは縁の無い世界に住む無職引きこもりの耶居子(やいこ)は、掲示板にねちねちと荒しコメントを書き込むことを生きがいにしていた。
それなのにある日、耶居子はサイト管理人の恩人となってしまい、美女4人が住む家に居候することになってしまう。今まで敵意を向けてきた美女達との共同生活によって、徐々にお互いの心に変化が現れて…
みたいなお話。
すさみきった耶居子の心には、美女達が悩みなど知らない脳天気な存在にうつります。
「どうせ得ばっかりしてきたんでしょ?」と、もうそれはそれは劣等感の塊みたいな感想がぽんぽん浮かんできます。
でも、ともに暮らす美女4人の抱えるそれぞれの悩みを聞くにつれ、徐々に態度を軟化させていきます。
ある者は女らしい振る舞いを強要されることに疲れて髪を短く切ったり、またある者は、その美貌を整形によって手に入れたことにコンプレックスを抱いていたり。
美女には美女なりの悩みがあることを知る度に、耶居子は素直は「いい人」になっていきます。
<本当はひょうきんなのに、取っ付きにくいと思われ、友達ができない>
<美人だ、ともてはやされるのに、男の人に告白されたことが一度もない>
<気付けば、職場で孤立してします。男性上司にひいきされていると噂されてしまう>
おぼろげながら、理解する。美しいことも、美しくないことも、それぞれに不自由な側面はあるのかもしれない。
でも、そんなふうに変わっていく耶居子を内心快く思っていないのが、実は美女のほうだったりして…。
というのが本作の面白い部分なのですが、そこはぜひ本を手に取って楽しんでいただければ。
冒頭でふれた『私にふさわしいホテル』でもそうでしたが、柚木麻子作品に出てくる女性主人公の行動力の源泉は、「怒り」です。
自分より恵まれていてむかつく…
容姿だけでチヤホヤされやがって…
そうした他人への劣等感を、なんらかの行動に変換して発散する。
(まぁそれが耶居子の場合はネット荒らしというわけで、その行動自体の賛否はあるわけですが…)
そうした行動の裏に見え隠れする感情って、「他人に認められない」「他人と関わり合いたい」という部分な気がするんですよね。名が売れて嬉しいとか、リアクションをもらえて嬉しいとか。
それって、すごく人間くさいと思うんです。もちろん、いい意味で。
誰かに振り向いてほしいと思って、もがく。
いじらしくて、素敵だなって。
耶居子の場合は、最終的に料理という武器を得て、社会的にも認められていくようになります。
持ち前のアイデア力やプレゼン力、好きなもの(本作ではスナック菓子)への強い情熱を生かして、どんどんと成長していく。
その描写において、見た目をどうこうという話はほとんど出てきません。
耶居子は最後まで、自分の好きなことを貫いて、社会的に認められたのです。
引きこもりのころから実は抱いていた「認められたい」という感情。
それを変にこねくりまわさず、表に出すことができた。
それが耶居子が変われた理由なのかなぁと。
美女たちは「世間に理解してもらえない」と嘆き、ネットの掲示板で美女同士のコミュニティを作り傷を癒やし合う。
耶居子はそのネットの世界に土足で踏み込み、惑い不快感をあらわにする相手を攻撃して楽しむ。
どちらも、リアクション欲しさの行動に見えます。
うーん、自分はどうかな。
みたいなことをふと思いました。
誰かに認められたいという感情、ないがしろにしてないかなぁ、と。
そりゃ私にだって誰かに認められたい欲望はある。
スキの数だって多い方が嬉しいにきまっている。
自分のためよとnoteを更新し続けているのも、やっぱり本音を言えば、誰かが読んでくれて、共感してくれたら嬉しいから。
とか思うんですけどね、それを素直に表に出せていないんじゃないかなと。
しばらく連絡を取り合ってない友人に連絡してみようかな。
久しぶりに話がしたい、と甘えてみようかな。
なぁんて思った日曜日。
まぁゴールデンウィークはずっと仕事なんですけどね。それはそれで。