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#63「意義」を感じる - ポジティブ心理学 -
ここでは、ポジティブ心理学の「人生の意味」の一側面である「意義」について、一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では、人生の意味の別側面である「人生の目的」について、どのように明確にしていけるかを一緒に学んでいきました。
自分の人生の最期を考えることで「自分はどう在りたいのか?」が明確になり、その自分の在り方を人生の羅針盤として生きていくことで、目的が見えてくるというお話でしたね。今回の記事では、「人生の意味」の3つ目の側面である「意義」に移り、自分自身の人生に意義を感じるためにはどうすればいいかということに関して、一緒に見ていきたいと思います。
「自分の人生には価値がある」と感じるとき
ポジティブ心理学の研究で扱われる「人生の意味」には、一貫性、目的、そして意義の3つの側面があるというお話を以前の記事で書かせてもらいました。(詳しくはこちらの記事をご覧ください)
ここで言われている「意義」とは、「自分の人生には価値がある」と感じることを指しています。「自分の人生は意義深いなぁ」「意味があるなぁ」と思えることですが、ここで重要なのは、この評価を下せるのは他でもない「自分自身」であるということです。誰の人生にも価値があることは疑いようのない事実ですが、それを「自分が」実感できるかどうかが大切ですよね。皆さんは、これまでの人生の中で「自分の人生には意味がある」と強く実感したのは、どのような瞬間でしたか?
「人生の意味」は関係性の中にある
「自分の人生には価値がある」と感じる瞬間は、人それぞれ異なるかもしれません。しかし、ポジティブ心理学の研究によると、多くの人が「誰かに貢献できたとき」や「自分の存在が誰かにとって大切だと感じたとき」に、人生の意義を強く実感していることが明らかになっています。例えば、人やチーム、社会といった自分より大きな存在のために行動し、その結果、感謝されたり「あなたがいて本当によかった」と言われたりする経験は、「自分の存在は無意味ではない」という確かな感覚を与えてくれますよね。このように考えると、「意義」というものは自己完結するものではなく、他者や社会との関係の中で深まっていくものだと言えるかもしれません。「誰かに必要とされている」「自分も誰かに貢献できる」という感覚は、人生を肯定的に捉えるうえで非常にパワフルです。
僕は日本にいたとき、ひきこもりの青年たちの訪問支援を行っていましたが、多くの子たちが狭い部屋の中で「こんな人生に意味なんてあるんだろうか」と悶々と一人で悩み、苦しんでいました。その一方で、今僕が住んでいるフィリピンでは、貧富の差が極端に激しいにもかかわらず、墓場の横でゴミ拾いをしながら暮らしているスラムの人たちと話すと、驚くほど自分の人生に意味を感じているんです。「何がそう感じさせるのか?」と尋ねると、十中八九、「子どもの存在」「家族の存在」という答えが返ってきます。
家族主義のカルチャーを持つフィリピンでは、どんなに劣悪な環境で暮らしていようとも、人とのつながりがあれば、そこに意味を見出すことができるんだと、彼らから学んだわけなんですが、日本で苦しむ青年たちと、スラムで生き生きと暮らす人々の姿を見てきたからこそ、「人生に意味を感じるためには他者の存在が必要である」というこの知見は、個人的にとても腑に落ちるんです。自分以外の誰かとつながり、貢献することで、自分の人生に意味を感じられる。人間とは、そんな生き物なのかもしれません。
一方で、ここで注意したいのは、他者の承認を求めすぎると本末転倒になってしまうということです。最終的に、自分の人生の価値を評価するのは自分自身である。この点は、ぜひ大切にしたいポイントですよね。そのことを忘れずに、日々の生活の中で少しずつでも「貢献感」を積み重ねていくことで、自分の人生に意義を感じられるようになるのかもしれません。
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「時間」という贈り物を人に与える
ちなみに、この考え方に関連して、ポジティブ心理学を臨床に応用した「ポジティブサイコセラピー」では、「Gift of Time(時間という贈り物)」という実践が推奨されています。
これは、カウンセリングの面談中に、人を助けることの良さを示す心温まる動画を観た後、利他的な行動についてクライアントと話し合い、その後のホームワークとして実践を促すものです。具体的には、あらかじめ一定の時間を確保し、その時間を誰かのために使う というワークで、意図的に利他的な行動を取ることで、自己の意義を深く実感することが目的とされています。(こちらがその心温まる動画です)
また、ポジティブサイコセラピーでは、特に自分の「強み」を活かして貢献することが奨励されています。これは、自分の持ち味を生かして他者のために行動することで、より充実感や意義を感じやすくなるためです。(「強み」とは何かに興味がある方は、こちらの記事をご覧ください)
このワーク、心が不調な人にこそ実践してもらうことが大切なんです。本来は「助けられる側」「与えられる側」にいると思われがちな人に対して、あえて「助けること」「与えること」を経験してもらうことで、心の健康を促すという考え方に基づいています。
もちろん、「無理をせずに、できる範囲で」というのが前提なんですが、このワークを通じて「誰かの役に立っている」という実感を得ることができ、それがやがて「自分の人生には意味がある」という感覚へとつながっていくという発想は、まさに、ポジティブ心理学ならではのアプローチです。
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いかに「与える側」になってもらうか
この発想は、親や先生をはじめ、人を育てる立場にある人にはぜひ大切にしてもらいたい考え方です。なぜなら、目の前の人のことを思って「何かを与え続ける」のではなく、「いかにこの人を貢献者に育てるか?」という視点こそが、その人自身に「人生の意義」を与える鍵となるからです。
自らの強みを活かして他者に貢献できるようになることが、その人の「意義」を深め、ひいてはより充実した人生を築く助けとなる。このことを、ぜひ心に留めておいてほしいなと思います!
"The meaning of life is to find your gift. The purpose of life is to give it away." - Pablo Picasso
(人生の意味とは、自分だけのギフトを見つけることだ。そして、人生の目的とは、それを他者に与えることだ - パブロ・ピカソ)
さて、ここまで人生の意味の一つの側面である「意義」を感じるためにできることについて、一緒に考えてきました。
どんなに些細なことでも構いません。仕事で後輩をサポートする、家族や友人の相談に乗る、ボランティア活動に参加するなど、自分ならではの「強み」を見つけ、それを活かして他者に貢献すること——それこそが、「意義」を感じるための大きな鍵となります。
人生の意味という「花」を育てるために、ぜひ自らの「強み」という種を見つけ、それを誰かのために活かしていきましょう。(つづく)
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【参考文献】
Gander, F., Proyer, R. T., Ruch, W., & Wyss, T. (2013). Strength-based positive interventions: Further evidence for their potential in enhancing well-being and alleviating depression. Journal of Happiness Studies, 14(4), 1241–1259.
Martela, F., & Steger, M. F. (2016). The meaning of meaning in life: Coherence, purpose and significance as the three facets of meaning. Journal of Positive Psychology, 11(5), 531–545.
Seligman, M. E. P., Rashid, T., & Parks, A. C. (2006). Positive psychotherapy. American Psychologist, 61(8), 774–788.