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可視化できない従業員の健康コスト

先日、経済産業省から2024年の「健康経営」優良法人の認定発表があり、認定各社からプレスリリースがありました。今年は大企業部門に2,988法人、中小企業部門に16,733法人が認定されています。

経済産業省ヘルスケア産業課が令和4年6月に発表した「健康経営の推進」についてという資料では下記のように示されています。

  • 「健康経営」とは、従業員等の健康保持・増進の取り組みが将来的に収益等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実施すること。

  • 健康投資とは、健康経営の考え方に基づいた具体的な取り組み

  • 企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へつながることが期待される。

このような政策の背景には、日本が世界でも類をみない超高齢化社会にあって、ひとりひとりが心身の健康状態に応じて経済活動や社会活動に参画し、役割を持ち続けることのできる「生涯現役」を前提とした、経済社会システムの再構築があります。

健康は個人の心身の状態であって、良い状態だと高いパフォーマンスを発揮することができます。当然ながら、生涯現役を実践するためには常に良い健康状態をキープすることが個々に求められることになります。

健康経営の重要性が意識されるようになって、企業経営の視点から個人の健康状態を評価する新たなワードも聞かれるようになりました。それが、プレゼンティーズムとアブセンティーズムです。

プレゼンティーズムは、出社しているもものの健康状態があまり良い状態ではなくパフォーマンスが低下していることで、経営的には可視化しにくい損失です。

アブセンティーズムは、何らかの健康上の問題があって、仕事をしていない状態(欠勤)を言います。欠勤などで休業状態なので可視化しやすく、人員を補給するなどの対応ができますが、出勤している人の負荷が高まります。

厚生労働省保健局 コラボヘルスガイドライン(平成29年より)

上の図は、米国商工会議所によるパンフレット(Healthy Workforce 2010 and Beyond, 2009)に掲載されている概念図で、企業における従業員の健康関連コストを示しています。

Medical & Pharmacy というのが、一般的に企業が従業員のために負担している医療費で金銭的に可視化されているのですが、可視化しにくいプレゼンティーシズムのコストが非常に大きいことがわかります。これにより、企業の生産性が著しく低下していることが推察されます。

健康不安は加齢とともに高まるため、従業員の平均年齢が高まるとプレゼンティーシズムのコストが増加していると考えるべきです。また、若い世代で身体的な健康状態は良好でも、精神的、社会的にはあまり良い状態とは言えずプレゼンティーシズムの状態にある場合もあります。

「健康経営」に関する取り組みは世界的に実施されています。「健康」というと病気や怪我など身体的な状態をイメージしがちですが、「ウエルビーイング(Well-Being)」の意味として捉えられています。Well-Being、すなわち、「健康で幸福感が高い状態」のことで、身体的な健康だけではなく、精神的、社会的、経済的に幸福な状態で、個人が自らの生活にポジティブかつ充実感の高い感情を持っていることを示します。

健康経営の実践によって従業員のウエルビーイングが向上すると、直接的な医療費が削減されるとともに、可視化できないプレゼンティーズムのコストも低下します。心身ともに健康な状態で、従業員は集中力やモチベーションが向上しパフォーマンスを発揮しして生産性があがり利益率も向上するという結果も得ることができます。

健康経営の認定に寄って企業のブランドイメージも高まり、採用活動に貢献し、離職も減るとされています。その結果、さらに生産性が高まり、市場や投資家からの評価も高まると言われています。

企業経営の視点からみた「健康経営」の本質は、可視化できる従業員の健康維持や増進はもとより、健康関連コストの多くを占めるプレゼンティーズムへの対応が重要です。

従来の福利厚生事業にありがちな、スポーツクラブや保養所との契約と行った賃金以外の報酬といったコンテンツも良いと思いますが、企業の生産性を高めるためには、これまで可視化されていなかったプレゼンティーズムの削減に取り組むのも効果的です。

特に高齢者雇用が多い職場では、腰痛不安を抱えながら仕事をする従業員を減らすということも福利厚生コンテンツとしては有用です。