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「人事が」使うサービスから、「HRのデータを」使うサービスへ。情シス領域進出の背景と、目指す未来
2024年7月16日、SmartHRは情シス領域への参入を発表。約10日後の7月25日に第一弾としてIdP機能の提供を開始しました。
SmartHRの情シス領域への進出は、2023年10月に株式会社メタップスより「メタップスクラウド」を事業譲渡していただくところから始まりました。現在は、情シス部門の生産性向上に向けて、さらなる機能開発・拡大を進めています。事業を牽引するCOO倉橋さんと、IdP機能のPMM古川さんに、SmartHRの情シス領域のこれまでと今後の展望について話を聞きました。
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倉橋 隆文(Takafumi Kurahashi)
取締役COO
2008年、外資系コンサルティングファームであるマッキンゼー&カンパニーに入社し、大手クライアントの経営課題解決に従事。その後、ハーバード・ビジネススクールにてMBAを取得。2012年より楽天株式会社にて社長室や海外子会社社長を務め、事業成長を推進。2017年にSmartHR入社、2018年1月より現職。
古川 和芳(Kazuyoshi Furukawa)
IDポータルユニット PMM
上場企業のマーケティング事業領域の子会社役員などを務め、2020年より情報システム事業者向けの事業の責任者として事業の立ち上げや組織づくりに従事。2023年10月、株式会社メタップスからの事業買収に伴いSmartHRに入社。
メタップスクラウドの事業譲渡は「強くてニューゲーム」を実現した
古川:まず、SmartHRが情シス領域への進出を決めた背景からお話しいただけますか?
倉橋:SaaS領域ではよく語られる話ですが、労働力人口の減少が進む日本で豊かさを保つためには、働く一人ひとりの生産性を高めることが言うまでもなく必要です。企業が「人的資本経営」や「DX」を推進する重要性がますます高まっています。SmartHRは、働くすべての人のwell-workingを実現することを目指して、まさに「人事 × DX」の領域で事業を展開してきました。その中で、DXの担い手である情シス部門の圧倒的な人手不足と投資不足を痛感するようになったんです。
古川:DXが進めば進むほど、その問題は深刻になりますよね。
倉橋:そうなんです。そこで、DXの加速を支えるためにも、情シス部門のリソース逼迫に関する課題を解決する必要があると考えるようになりました。
情シス部門の業務の多くは、人事情報の変更がトリガーになっています。たとえば、入退社や異動、昇格など。労務管理を祖業とし、従業員データベースを提供するSmartHRでは、これらのトリガー情報を正確に管理・把握することができます。この特徴を活かして、人事と情シスとの情報連携をスムーズにすることで、シナジーを生み出せると考えました。たとえば、人事がSmartHR上で従業員の退職手続きを行うと、その情報が情シス部門に自動で連携され、各SaaSアカウントの削除予約を行うなど、業務効率化と抜け漏れ防止を同時に実現することができます。
古川:私自身、メタップスにいた頃から、ID管理を行うのであればSmartHRが保有する従業員データや従業員ライフサイクルのデータとの組み合わせができると相乗効果を生み出せるのではないかと考えていました。事業譲渡の話を聞いた時は、なるほどなと。
事業譲渡する前、SmartHRの情シス事業立ち上げはどんな状況でしたか?
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倉橋:先ほどの話とも繋がりますが、まずはID領域でサービスを展開したいと考えていました。企業のSaaS導入が増加する中で「従業員のパスワード忘れへの対応」が増えることは明らかだったので、ここに大きな負が存在するなと。しかし、ID領域の専門知識を持つメンバーが社内にはほとんどおらず、なかなか動き出せずにいました。
古川:そこで、本格的に事業譲渡の話が進むわけですね。
倉橋:そうですね。専門知識の問題は、まさにメタップスクラウドの方々にジョインいただくことで解決しました。本当にありがたかったです!
実はもともとは、メタップスクラウドをそのままSmartHRと連携する構想を練っていたんです。しかし事業譲渡を検討する中で、IDというシステムの根幹に関わる部分なので、SmartHRの中で作り直してもらったほうがいいという判断をしました。心苦しい気持ちもありましたが、メタップスクラウドはサービスを終了させていただきました。
振り返っても、これはかなりいい決断だったと思います。
メタップスクラウドのみなさんの知識と経験が存分に発揮され、想像以上にいいプロダクトができている実感があります。また、買収のタイミングで開発部門だけでなくビジネス部門の方々にも移籍していただき、リリースに向けた準備やリリース後のカスタマーサポートの準備を進めていただきました。こちらも、みなさんの経験のお陰で準備〜提供までのプロセスが非常にスムーズに進んでいます。社内では、こういった動きを「強くてニューゲーム」と呼んでいて、勝ちパターンの一つだと感じています。
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古川:事業譲渡から1年が経過し、率直に満足度はいかがでしょうか。こんな風にストレートに質問する機会はなかなかありませんが(笑)。
倉橋:まずは、とても感謝しています。時系列を振り返ると、SmartHRにジョインいただいて約11か月でIdP機能をリリースし、約1か月経過したところですね。IDという領域の特性上、セキュリティ対策を慎重に進める必要もあり、妥当なスケジュールだったと思っています。
反対に、メタップスクラウド側の感想も聞いてみたいです。サービス終了の判断など、どのように捉えていたんでしょうか。
古川:サービスを終了するかどうかを決める議論に参加していたこともあり、判断はすんなり受け入れることができました。それに、ID管理機能とSmartHR上のデータを組み合わせることへの期待があったので、SmartHRの中に新たにID機能を作るという判断には、私たちもわくわくしていました。
実際に開発を進める中では、SmartHRの既存ユーザーに考慮すべき点も多く苦労しましたが、絶対に必要なことなので実直に進めてこれました。
人事と情シスの情報連携をますますスムーズにしていきたい
倉橋:IdP機能の提供をスタートして、古川さんはどんな感触を持っていますか?
古川:まず状況としては、100社以上の企業にすでに利用いただいています。無償で利用できる点や、SmartHR上の従業員データを利用した管理ができる点を高く評価いただいており、利用者数も好調に増加しています。
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実際に情シス部門の方にヒアリングを行う中で、SmartHR上の従業員データ・従業員ライフスタイルデータとIdP機能の親和性は、当初想像していた以上に親和性が高いと感じています。足りない機能もまだまだありますが、今後の開発予定をお伝えすることで期待をいただいている状態です。少しずつですが、SmartHRが情シス部門の業務効率化を実現し、価値を提供していける確証を掴みはじめています。
直近では、IdP機能を通じてお客さまの社内で利用されているSaaSへのログインをSmartHRに集約できるよう、さまざまなSaaSを登録できるカスタマイズ機能の開発を進めています。また、SmartHRのアカウントのセキュリティを強化するために、多要素認証の選択肢の増強や、その他必要な機能の開発を進めて行く予定です。ゆくゆくは、IdP機能だけでなく、プロビジョニングや自動連携機能などの開発・提供を行い、SmartHRでIDを管理する未来を早く実現したいですね。
倉橋:SmartHRが情シス部門のお役に立つには、やるべきことがまだまだ山のようにあります。一つひとつ仕掛けているところですね。
まず、SmartHR上でID管理をストレスなく行っていただくために、雇用形態別の課金は必須です。たとえば、業務委託の方のID管理も行いたいが、労務手続きなどが不要なためSmartHR上にデータがないというケースもよく聞きます。そういったケースに対応するプランの準備も必要ですね。
また、別の課題として「従業員からの問い合わせ対応」が情シス部門の業務を逼迫しているという現状も痛感しています。LLM等を活用し、この分野でもサービスを提供していきたいと考えています。SmartHRには、導入企業の全従業員がアカウントを持っているという特徴や、申請・承認機能を使ってSmartHR上でワークフローを完結できるという強みがあります。こういった特徴を応用して、情シス部門の方がワークフローを自由に組めるような機能も提供していきたいですね。
最終的には、人事が新入社員の入社をSmartHRに登録したら、配属部署に応じて事前に組んだワークフローが配属先の管理者に届き、承認されたら各種アカウントが自動で発行され、PC手配のチケットが切られる……そんな世界を実現したいです。
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SmartHRは「人事が」使うサービスから、「HRのデータを」使うサービスへ
古川:そろそろ締めに向かっていこうと思います。まずは倉橋さんから、実現したい世界に向けて、具体的にどんな取り組みをしているかと、ぜひ採用の宣伝をお願いします!
倉橋:ここまでにお話ししたように、情シス領域でやりたいことはどんどん具体的に見えてきています。私や古川さん、CPOの安達さんや関係するPM、PMM、そしてSmartHRの情シスメンバーが集合する週次定例では、やるべきことの具体化をどんどん進めています。
ただ、情シス領域の事業を推進する仲間が、圧倒的に足りません。この領域への知見や想いを持っている方にぜひ力を貸していただきたいですし、領域によってはM&Aも検討したいと考えています。
また、DXは進みはじめているが情シス部門そのものへの投資はなかなか増えない、という課題もあります。人事領域では、人的資本経営の流れもあり、SmartHRのようなサービス提供者も積極的なマーケティング活動を行い、人事部門への投資が少しずつ増えてきています。その動きと並行する形で、DXの担い手である情シス部門への投資も増やせるよう、市場を盛り上げる一助になりたいと考えています。
では古川さん、最後に熱いメッセージをお願いします!
古川:僕自身が事業立ち上げに何度も携わってきたこともあり、SmartHRのことは長年外から観察していました。そこで感じたことを実践し、SmartHRの今のやり方にとらわれず付加価値を生み出していきたいです。
情シス領域に関しては、これから新機能を具体化していくフェーズに入ります。散々理想を語りましたが、情シス部門の方々に利用していただき、ちゃんと価値を感じていただけるサービスを、着実に育てていきたいです。そして、SmartHRは、「人事が」使うサービスではなく、「HRのデータを」使うサービスだと感じていただけるよう、チーム一丸で頑張ります。
おわりに
1. 情シス領域のプロダクトチームの記事もご覧ください!
情シス領域のプロダクト開発を牽引するメンバー(PM岸、プロダクトエンジニア齋藤・小林)の対談記事をも公開しています。こちらもぜひご覧ください。
2. 情シス領域の採用を加速します!
最後のメッセージの通り、情シス部門の業務効率化・投資増強を実現し、誰もが働きやすい社会に近づけていくために、私たちには仲間が必要です。ご興味をお持ちいただいた方・少しでも呼ばれた気がした方は、ジョブディスクリプションもご覧いただけますと幸いです。
その他のポジションでも採用加速中です!まずは、カジュアル面談でポジションのご相談をさせていただくことも歓迎です。
3. M&Aもやっていきます!
領域によってはM&Aも検討したいと考えております。少しでも興味を持ってくださった企業さまは、問い合わせフォームよりぜひご連絡いただけますと幸いです。
かつて、スタートアップのExitといえば、IPOほぼ一択でした。しかし、昨今は市場の不確実性が高くなり、上場後に成長が伸び悩んでしまう例も後を絶ちません。だからこそ、M&Aという選択肢を前向きに捉えて視野に入れていくことには、大きな意義があると考えています。
手前味噌ではありますが、私たちは、スタートアップの成長を後押しできる自信があります。当社に集まっているのは、「顧客のためのモノづくりがしたい」という思いを持つ社員ばかりなので、方向性を同じくする企業にとっては最適な環境のはずです。少しでも興味を持ってくださった方は、ぜひお気軽にご連絡ください。(芹澤)
当社には、起業家出身の社員もいます。当社に入社した理由を尋ねたところ、「自分でゼロから立ち上げると10年かかることが、SmartHRなら3年でできると思ったから」とのこと。まさにこれこそが、私たちが提供できる最大の協業メリットだと考えています。
もちろん、自ら開発したプロダクトには強い思い入れがあるだろうと思います。ただ、自社という枠にとらわれず、できるだけ多くの人に価値を提供していきたいという企業であれば、当社の顧客基盤やプロダクト基盤をレバレッジすることによって、よりスピーディーにその夢を実現することができるはず。社会課題の解決に意欲的な企業からのご連絡をお待ちしています。(安達)