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【インタビュー】お互いの成長を願うフィードバックのためにーSmartHRのフィードバック研修に迫る
SmartHRでは、2024年上期からフィードバック研修を実施しています。フィードバックに対する共通のマインドセットを作るために、フィードバックの手法、理論を体系的に学ぶほか、ロールプレイングも組み込んだ参加型の研修です。
この記事では、フィードバック研修を設計した社員に加え、研修の講師をした社員と受講した社員にインタビューを実施。研修の背景や狙い、日々のフィードバックに対する課題感に迫りました。

【画面右下:人事統括本部 人材・組織開発本部 人材育成部 鈴木 睦央さん(@marumarism)】
2018年にプロダクトエンジニアとして入社。プロダクトエンジニアグループのダイレクターを経て、2023年10月に人事へとキャリアチェンジ。人事統括本部ではミドルマネジメントの育成をメインで担当しており、2025年人材育成部のマネージャーに就任。今回のフィードバック研修の設計者。
【画面左上:グロースマーケット事業本部 インサイドセールス本部 第2インサイドセールス部 マネージャー 坂本 直人さん(@Naoto)】
2021年入社。新卒で人材業界に勤務。SmartHRにISとして入社後、エンタープライズユニットでのプレイヤーやユニットチーフを経て、2024年1月からインサイドセールス本部 グロースマーケット事業本部 第二インサイドセールス部のマネージャーに就任。
【画面左下:技術統括本部 労務プロダクト開発本部 労務コア開発1部 にしはら ちひろさん(@16bit_idol)】
2019年入社。プロダクトエンジニアとして基本機能と呼ばれる部分の機能開発を行う。 2人の子供を子育て中。最近は、CSR(Corporate Social Responsibility)やCRE(Customer Reliability Engineer)にも関心あり。
バリューの体現に向けて ーフィードバック研修の背景
ーまず、フィードバック研修を実施した背景について教えてください。
鈴木:現在のVP of HRの宮下さんが入社当時CEO室で人事戦略を担っていた際に、CxOやVPなど経営陣にヒアリングを行い、ギャップフィードバックの弱さが見えてきたことが発端です。そこから、「会社として取り組むべき課題」として、事業成長のためのフィードバックの必要性が明らかになってきました。今後の成長につながる指摘、特に言いづらいことを伝える弱さが見えてきたタイミングだったんです。
―研修を受講したおふたりは、フィードバックについて課題を感じていたことはありますか?
坂本:僕の所属するインサイドセールス(以下、IS)部は、人数も多く、新入社員が毎月5〜10人入ってくるという特徴がある部署です。社員のみなさんの顔はもちろんわかりますが、しっかりコミュニケーションを取ったことがない方も増えてきていることもあり、フィードバックの難易度が上がっていると感じていました。さらに、入社される方の年代が広く、色々なバックグラウンドを持つ方にご入社いただいているので、フラットな文化があるものの、フィードバックに対してのハードルの高さを感じる場面もありましたね。
にしはら:私は、そもそもフィードバックをするのもされるのも得意ではないと思っていました。いわゆるギャップフィードバックをする時に意図せずダメージを追わせてしまうことがないか不安もありましたし、いろいろな年代やバックグラウンドの社員がいる中で、伝える難しさを感じることもありました。
―2024年にバリューがアップデートされましたが、そのうち「ためらうときこそ口にしよう」というバリューの体現について、フィードバックと関連して意識することはありましたか?

坂本:今のSmartHRに対して納得感があるバリューだと思いました。前段で話したような課題感は元々あったので、全社として課題感があり、全社としてやっていくもの、という認識が明確になりました。
にしはら:バリューにもフィードバックの要素が入り、フィードバックをさらに頻繁にやっていこうという方針を受けて、フィードバックをする側だけでなく受け取る側としてもフィードバックの意図をもっとちゃんと汲み取らなければ、という気持ちが強くなりました。せっかく言ってもらっているのに受け止められない自分がいるのはもったいないと思い、受け止めに対する課題感が明らかになった気がします。
「相手の成長を願ってフィードバックする」ために。SmartHRのフィードバック研修の特徴
―フィードバック研修はSmartHR初の全社員が対象の研修ですが、なぜ全社員を対象にしたのでしょうか。
鈴木:にしはらさんがおっしゃっている通り、フィードバックはする方も、受ける方にもスキルが必要です。
「相手の成長を願ってフィードバックをする」という前提・理解がないと、特にギャップフィードバックに対してギスギスしたり、言う方も「言いたいことだけ言う」ような、一方通行になってしまう場面が懸念されます。
スキル、基礎知識、マインドセットが全社的に揃っていることで、誰もがフィードバックしやすくなり、フィードバックが日常的に行われている環境ができると考え、全社員を対象に研修を行うこととしました。
また会社としてもフィードバック文化の醸成を本気でやっていきたいという意思を込めて、全社で実施する宣言をしました。
にしはら:今までの会社も含めて、フィードバックをする人・受ける人が全員受講する研修って意外となかったなと思います。マネジメント層だけの研修や、独学に任せられていたことも多く、その場合フィードバックをする方と受け取る方でマインドセットが違ってギスギスが起こることもあった気もして。全員が同じ研修を受けることで、双方の思い違いなどがなくなりとてもいいなと思いました。
坂本:僕はキャリアの中でもマネジメントの経験が長く、フィードバックする機会はよくあったのですが、受け手のスキルもすごく重要だと感じていました。全社研修という形を取るからこそ、そこに必要な前提が揃いますよね。フィードバックに対する心理的安全性も高まるし、文化を作っていくという上でみんなでやる、というのは本当に良かったなと思います。
―SmartHRのフィードバック研修の特徴について教えてください。
鈴木:研修はフィードバック文化を作るためのものというのが前提にあり、それが特徴に表れています。文化を作るために、受講者に対してWHYをしっかり伝えることを意識しました。自分にも会社にも得があるよと。

鈴木:また、理論だけでなく、途中でロールプレイを挟むなど、実践を盛り込んだ内容にしたことも特徴です。
ボリュームはややパンクするくらいを狙い、持ち帰って復習できるような前提で設計しました。フィードバックを体系的に詰め込むとどうしてもボリュームが大きくなってしまうので、限られた時間内で完璧に理解するのは難しくなってきます。なので研修内ではまずフィードバックにアンテナが立っているような状態になってもらい、その後日々の業務のなかで実際にフィードバックを行ったときに、都度立ち返れるようなハンドブックを用意するなどの工夫をしました。
独自性で言うと、マネジメントレイヤーもメンバーレイヤーも全員同じ内容の研修を受けていることも特徴ですね。全員が共通認識を持っているという前提のもとで、安心感を持ってフィードバックができることを狙っています。また、メンバー・チーフに研修を届ける際は、現場のマネージャー・ダイレクターに講師をしてもらいました。文化を作る上で中核を担うことになるのはミドルマネージャーです。そのため、普段から深い理解を提示し、フィードバックを実施してくれる人を各部署に作る狙いで、講師候補を募りました。
―坂本さんは研修の講師に立候補をされたとのことですが、なぜ今回講師に手を上げたかを教えてください。
坂本:まず組織やマネージャーとしての観点になりますが、自分が所属するISはセールスやマーケティングなど、他部署とのコミュニケーションが多い部署です。KPI達成のために日々の積み重ねが大事な部署であり、ピープルマネジメントがとても大切だと捉えています。それもあって、今後のフィードバック文化をISから醸成し、発信していきたいという思いがありました。そのために、自分自身がフィードバックについてちゃんと落とし込み理解したいと思ったし、講師をすることでメンバーに機会の提供が正しくできると考えました。
にしはら:人に教えるのは自分が理解していないと難しいと思いますし、より強いマネジメント力が求められるマネージャー以上の方が講師だと納得感は増しますね。
坂本:マネージャーとしての自己成長の観点もありました。マネージャーはプレイヤーと違い定量で測れる成果が見えにくいです。たとえば組織の数値が良くなったとしても、自分の成長ゆえの数値かどうかはわかりにくい。そのため普段から自己成長を意識していかないと、成長しないと思っています。SmartHRはやってみたい人は手を挙げて、という機会が全社的にもあるので、自分も何か機会があれば挑戦していこうと思っていて。もちろん研修の講師は初めてでしたが、やったことないことへのチャレンジが自己成長につながる、という思いから緊張で震える手で講師募集のSlack投稿に「やりたい」スタンプを押しました(笑)
鈴木:会社によっては、講師のリソースを割いてもらうことに現場からネガティブな声があがることもあると聞きます。強制することなく立候補をしてくれた人で講義を実施できたのはSmartHRらしさであり、強みだと感じましたね。
研修を受けて―フィードバック研修にフィードバック
―実際にフィードバック研修を受けた率直な感想はどうでしたか?
にしはら:特にギャップフィードバックに対して、する・受けるの両方に苦手意識があったのですが、フィードバックをする側の意図やそれを踏まえた受け取る側のマインドセットを知り、また逆に自分がフィードバックする際の伝え方も体系的にわかったことで、フィードバックに対する共通認識が持てたと思います。
全く苦手じゃなくなった!と言うと嘘になるのですが、研修前よりもフィードバックをする・受けることに対する壁は低くなったと感じます。
私生活でも活かせる場面がありました。私には子どもがいるのですが、フィードバック研修にあったフレームに照らし合わせてコニュニケーションをとったりして(笑)
坂本:研修内容は1回の研修ではインプットしきれないボリュームに感じ、人によってインプット・アウトプットの差はあるんじゃないかなと思ったので、実際にご家庭で活用しているのはすごい(笑)
実際に研修を受けてみて、フィードバックって言葉自体は身近だけれど奥が深いと思いました。体系的にSmartHRでの目線を揃えられたのが良かったです。あとは……ロープレは緊張しましたね。
にしはら:職種も異なる初対面の社員の方とだったということもあり、私もロープレは緊張しました。「積極的な聞き手と消極的な聞き手」を行うロープレでは、「消極的な聞き手」をやるのが難しかったと社員同士で話していて、SmartHRの社員は一定は「積極的な聞き手」の基礎があるのかなと思いました。

鈴木:「積極的な聞き手と消極的な聞き手」についてはアイスブレイク的な面もあるのですが、受け手と伝え手の両方が大切だと伝えたい意図がありました。一定の聞く姿勢があっても、怖いのは無意識にやってしまっていることです。特に大人数のMTGなどで無意識に「消極的な聞き手」となってしまうことはあるので、そこにフォーカスを当ててみたというのもあります。
ロープレはあまり接点のない社員同士で行った方が多いと思うのですが、今後全方位へのフィードバックをしていくことを考え、あえてハードルは高めに設定していたので、そう感じてもらえて良かったかなと思います。
実は、ロールプレイで違う職種や経験を持った人とのコミュニケーションから新たな気づきを得たという声もあり、嬉しかったですね。
―研修を受け、業務の中で変わったことはありますか?
坂本:全社的に共通言語ができ、フィードバックをする際の前提共有ができたと思いますね。僕の場合、チーフのみなさんにフィードバックの仕方をフィードバックする機会が多いのですが、研修で学んだフレームワークを用いることで、そこでの解像度やコミュニケーションの質が高まったと思います。
一方で、研修を受けてすぐに全員ができることではないなとも思いました。特に上向きのフィードバックは特にまだまだ難しいんだなと感じますし、実践を重ねていかなければと思っていますね。
にしはら:今まではフィードバックを貰いに行くことに二の足を踏んでいるというか、受け身だったことが多かったのですが、フィードバックに込められた思いや自分の成長につながるという点で、抽象的だった部分を実感を持って理解でき、自分からギャップフィードバックをもらいに行くアクションが増えたと思います。定常の1on1と別に、上長にフィードバックを受ける時間を設けたりするなどの変化もありました。研修後、チーム内でホメや意見が更に盛んになった気もしますね。
人によってはフィードバックに対するマインドセットがずれている部分がまだあると聞くこともあるので、そこが徐々に揃っていけばいいなと思いました。
―研修をもっとこうしたい・こうだったらいいかも、という点はありますか?
坂本:今後も定期的に研修を受けたいなと思いました。持ち帰り前提ではあるとは思うのですが、やはり時間が経つと忘れちゃうのでコンスタントにやれるといいなと。
あとは、誰がフィードバックうまいのか選手権、こんなときどうする?というケーススタディ、フィードバックをとにかく身近なものにするような研修以外の仕掛けがあってもいいかもしれません。カードバトルゲームとか(笑)
鈴木:なるほど(笑)
にしはら:今でもしっかりボリューミーな研修ではあるのですが、もっとコアに知りたい人向けの研修があるといいなと思いました。更にディープな理解を求める方向けに、心理学的な話なども含めて理解できると面白そうだと思います。自分も興味があります。
鈴木:アンケートでも定期的に受けたいという声が多かったので、定期的に受けられる状態を用意していく予定です。「より上級なレベルを目指すには」というテーマの研修や、実際どのくらいレベルアップしたかの定期的な観測も今後行っていく予定ですね。
―最後に、フィードバックについてこれからこうありたいなど、目標をお聞かせください
坂本:会社として文化を作っていくには一人ひとりの意識が大事だと思いますし、フィードバックは「ギフト」だなとも思います。ギャップフィードバックもポジティブフィードバックも「もっとこうしていきたい」という前向きな力が働いているので、SmartHRで行われるフィードバックが事業成長につながるものになるように、マネージャーとしても浸透に貢献できるといいなと考えています。
にしはら:フィードバックを「適切に」できる人になりたいと思っています。体系的な理論の理解を踏まえてですが、最終的には相手は人になると思うので、しっかり人と向き合いながらコミュニケーションできる人間になりたいですね。
―ありがとうございました!