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ブランディングを“実行”していくために大切なこと【クリエイティブディレクション研究所】 | Vol.01 wannaさん

SmartHRのクリエイティブディレクション研究所の活動として、SmartHR BXディレクターのwannaさんにインタビューした模様をお届けします。
※社内用に公開したドキュメントを、好評につき再編集して外部公開しています。


クリエイティブディレクション研究所とは?

クリエイティブディレクション(※クリエイティブによる課題解決スキル全般)にまつわるスキル・知見を収集・可視化する研究所。SmartHRのクリエイティブ組織を中心に、会社のスケールアップに向けてみんなでもっと強くなるための、ちいさくはじめた活動です。
→ 詳しい概要はこちら| SmartHR クリエイティブディレクション研究所へようこそ

プロフィール|wannaさん 

クリエイティブエージェンシーで多業界のビジュアルコミュニケーション制作に携わり、組織マネジメント職を経験。その後、ブランディング会社でブランドストラテジストとして、VMV策定や浸透を含むブランディングプロジェクトに従事。現在SmartHRではBXディレクターを務め、ブランド戦略の構築からタッチポイントのデリバリーまで、ブランド体験全般に関わるプロジェクトを幅広く推進している。

インタビュー|ブランディングを実行していくために大切なこと

:質問シートに事前に記入していただいたwanaさんの回答の画像(インタビュー記事と同じ内容が記載されている)
事前に質問シートを用意し記入していただき、その内容に沿ってインタビューを進めました。

1. 良いクリエイティブディレクションとは?

良いクリエイティブディレクションについての回答の画像。内容:①全責任を持つ「覚悟」を決める ②「このチームだからここまでやれたよね」を大事に ③メンバーのモチベーションやパッションを大切にする

■ 全責任を持つという「覚悟」と「チームでやっていく」ことを大事に

ーー 良いクリエイティブディレクションとはなんだと思いますか?

クリエイティブディレクターとは、アウトプットの総合責任者になるということを認識しています。そのため、その人の立てる旗次第でPJが変わっていくと思っています。期待値を超えていくということに対して、クリエイティブのアウトプットで依頼者の期待値を超えることを「覚悟」してやるべきだなと考えています。
とはいえ一人ぼっちではできないので、いろいろなタッチポイントの制作物をいろいろな職能の人とチームを組むことになりますよね。関わるメンバーのスキルやモチベーションを高めるための情報提供やプロセスへのフィードバックを適切にして、「みんなが道に迷わないように」ということを重要視しています。自分はカリスマ的なクリエイティブディレクションをやるというよりは、それぞれの専門領域の人のアイディアを「それいただき!」と思ってやっているので、「このチームだからここまでやれたよね」ということを大事にしたいと思っています。

wannaさんが話している姿のスクリーンショット

ーー 覚悟を持つとはつまりどういうことだと思いますか?

「覚悟を持つ」って大事なんですが、意外に忘れてしまうことだとも思っています。例えば、チームのアウトプットを見て最初のブリーフを変えてしまったりとか。覚悟がないと、チームを振り回してしまうことが絶対あります。原点であるし、覚悟を常に持ち直すことは大事だと思っています。

ーー なぜ「覚悟」を忘れがちになってしまうんでしょうか?

頼れるメンバーがプロジェクトに入っていたりすると、適当でもまわっちゃったりすることも多いと思うんですよ。今これを話しながら、自分でも改めて覚悟を決めるということをしています(笑)。
責任を取っていくということは、周りに対しての誠実さだし、みんなのモチベーションやパッションの着火点でもあるので、クオリティもガラッと大きく変わるものだと思います。
「このクリエイティブディレクターと一緒にやりたい」「このクリエイティブディレクターなら信用できる」というリーダーシップが、一緒にたたかう仲間たちのエネルギーのために重要だと思っています。メンバーが優秀だからあぐらをかいてしまうことはしがちなんですが、甘えないということが大事だと思っています。

ーー wannaさんが一緒に働くメンバーに目を向けているんだなと感じます。どうやってメンバーのモチベーションを着火させていますか?

信頼関係ができる前は発注側も不安なんですよね。だからコントロールしようとすると、ブリーフがほぼオペレーション指示みたいになってしまうことがあったり。それで焦ってマイクロディレクションになってしまい、結局上手く進まないということがありました。
逆に、概念のようなものをふわっと渡して「力をお借りしたい」「腕の見せ所です」というようなスタンスで渡すと、自分が想像していた1.5倍、2倍くらいのアウトプットが出来た経験がありました。「自分の成果だ」と焦って指示を出すよりは、巻き込んで力を引き出しあった方が遠くに行けたんです。自分の中で価値観が変わった瞬間でした。オペレーションを細かくしてしまうと、メンバーが受け身になったり指示待ちになってしまったり、さらにどんどん自分も孤立したりしてしまって。そこで反省して、自分の人生の経験で今のかたちがいいなと思いました。

オペレーション指示だとモチベーションが上がらず、巻き込んで力を引き出し合うとチームが上手く回る図

ーー 「力をお借りする」方式に変えるきっかけはありましたか?

そのプロジェクトでは取り戻せなかったので、次の案件からやり方を変えることにしました。周囲からも「ディティールにこだわりすぎたんじゃない?」と言われたりして、反省しました。

ーー ディティールを詰めることと任せることって、塩梅が難しいと思いますが、どうやって探っていくといいでしょうか

今は、自分の好みや方向性はラフなどで伝えるけれども「あなたを全面的に信じています」「全部の責任は取るので存分にやってみてください」「遊んでみてください」と伝えるイメージでやっています。範囲や最低限守りたいところは伝えて、再現してほしいというわけではないよと伝えたりしています。

2. クリエイティブディレクションする上で大事にしていること

クリエイティブディレクションする上で大事にしていることの回答のポイントを説明した画像。内容:①クリエイティブディレクターである自分の言葉に矛盾がないようにする ②責任を明確にする。明確にしづらい状況では、自ら責任を取りに行く ③信頼を貯金していく

■ クリエイティブディレクターである自分の言葉に矛盾がないように

ーー クリエイティブディレクションをする上で大事にしていることはありますか?

クリエイティブの最終決定と予算管理を一緒にしてしまうと、ジャイアンになってしまうんですよね。場面によってセリフが変わってきてしまうので、予算管理は別の方に任せたりして、自分はクリエイティブの話だけする人になるように徹底していました。
でないと、メンバーが混乱してしまうんですよね。役割を分けないと、一方では予算の話をしていて、一方ではクリエイティブの質の話をして「矛盾の内包パーソン」になってしまう。PJの中には矛盾の内包があるものではありますが、自分の言葉に矛盾をできるだけなくして自分の言葉の信頼度を下げないように気をつけていました。
クリエイティブディレクターが全部ひっぱっていく成功事例もたくさんあると思うんですが、自分のパーソナリティには合わなかったと感じて、今の考えややり方が一番いいのかなと思っています。

ーー 役割の明確化が難しい場面もあると思います。wannaさんは入社して3ヶ月が経とうとしていますが、弊社ではどうしていくといいと感じていますか?

まだ試行錯誤中ではありますが、領域や責任などのセッティングが難しいなと思っているんですね。でも、今思っているのは、アサインを待つというよりは「自分が責任を持つのでこれをやらせてください」と言った上でアクションしたほうが良さそうなのかなと感じています。
いずれにしても責任が曖昧なものは絶対に成果が出ないと思っているので、誰かが行動してやっていくのがすごく大事だな、必要だなと思っています。メンバーをリスペクトをしながら、自分で責任を意識してアクションしないことには、デザインの力で事業貢献していくのは後ろ倒しになってしまうのかな…と感じています。待っているよりも「自ら責任を取りに行く」のが大事なのではなかろうか、と3ヶ月で思っているところです。

■ 信頼を貯金していくことが大事

ーー チームで責任を持ってやっていくときに大事にしていることは?
レポートラインが違うメンバーでやるプロジェクトも多いかと思います。

一個一個、信頼を積み重ねていくのがいいのかなと思っています。事業会社って、信頼貯金が大事なのかなと思っています。「案件単位じゃないんだな」と今、感じています。
当然メンバーみんなスキルが高いので、そこは頼りながら、バリューが発揮できそうだったら自分はサポートに回ったりとかリード取ったりするなど、切り替えをしていく感じですかね。難しいですよね(笑)。

3. ブランディングという抽象的で広い概念を作り進行していく工夫

ブランディングという抽象的で広い概念を作り進行していく工夫の回答のポイントを説明した画像。内容:①ブランディングのための活動が難しいときは「組織課題」があるとき ②経営レイヤーを巻き込んで、施策に血を通わせる ③「仲良くする」ことが大事

■ ブランディングのための活動が難しいときは「組織課題」があるとき

メタ的な話になってしまうのですが…ブランディングを他社に依頼するとき、つまり「自社でできていない」というときは 必ず「組織課題」があるときなんですね。
ブランディングというものは 「どうやって世界に存在して」「なにを成し遂げて」「どう振る舞って」「どういう価値を提供するかを言語化して」「浸透して」「実装する」というもの。
これができないということは、過去の経験から「組織課題がある」ということでした。ブランディングのプロセスをと、組織の改善を並行して行うことが、色んな案件に共通することでした。一言で言うと、ブランディングで組織を一枚岩にしていく、という行為ですね。

ブランディングと組織の課題の解決はセットを説明している図

ーー 組織を一枚岩にするとは、どんなステップを踏むのでしょうか?

組織を一枚岩にするステップ(受託の場合)を説明した画像。内容:①クライアントの該当部署が予算を取ってきて依頼(この時点では組織課題に気づいていないことも多い) ②①の状態でブランディング活動をしても機能しないので、組織課題を洗い出すためにエビデンス(アンケートやインタビュー)を集める ③エビデンスを元に最初のスコープを決める ④該当部署だけでなく、その上の経営層が組織課題を把握できる状態を作る ⑤根本的に組織を解決していくという動きをする

ブランディング会社時代の話ですが、上記のようなイメージです。少しメソッドみたいになってしまっていますが(笑)。  これらをやることでブランディングの価値が本当に発揮されていくと思っています。
ブランディング活動をしても経営層の意思にならないと意味がない。経営層にたどり着いて浸透して施策に反映されないと、血が通わないんですね。いかに経営層の方たちに納得してもらうかを1個1個やっていって、巻き込んでいきました。この経験を通して、1個のクリエイティブでイノベーションは起きるものではないと感じましたね。

ーー 具体的なプロジェクトではどうでしたか

クライアントの広報部長から「ブランドポートフォリオを作りたい」と話が来たのですが、「そもそも今の状態でブランディング活動をしても浸透しないのではないか…」という状態でした。そのため、依頼されたブランドポートフォリオは整理しつつ、並行して「今のバリューについてどう思いますか?」という内容をアンケートやインタビューで調査しました。調査をしたら、当時のバリューは浸透していなかったし、スピードにも課題がありました。そこで代案を持っていったら社長に繋がり、一気に状況が変わりました。
このプロジェクトでは当初予定していたサービスブランディングだけでなく、組織改善や新しいブランドを立ち上げるプロセス、組織委員会などの横断組織などを作ったり…かなり幅広く関わることができました。そのクライアントの社内の情報は縦割りで、社員間ではなかなか伝わりづらかったので、自分たちがクライアントの中の情報を一番知っている状態になり、クライアントと良い意味での依存状態になりました。結果、浸透する環境を作ることができた上で、新しいバリューなどを策定することができました。
広報やマーケなどの社員ががんばっていても、社長がキャッチしないとなかなか機能しないのでどう経営層を巻き込んでいくかに尽きるのかなと思っています。

■ シンプルに「仲良くなる」ことがとても大事

ーー クライアントの社員たちに頼られるようになるために、どういった工夫をしたのですか?

クライアントの社員たちに頼られるようになるための工夫の詳細を書いた画像。内容:①クローズド1on1で本音を引き出す ②引き出した本音を元に課題をマッピングして、致命的な課題を特定 ③異名的な課題について話し合えるワークショップを開催 ④クライアントの社員たちが仲良く慣れる環境をつくる ⑤積極的に頼り頼られる関係を築く

クローズド1on1などを実施して、本音を引き出したりしました。他社だからこそ本音を言ってくれたりするんですよね。そこで話してくれた課題をマッピングすると、どこが致命的な課題なのか見えてきたりします。その課題からワークショップを開催して、仲良くできるようにしました。
「仲良くする」というのはブランディングにはとても重要で、「なんだ、こんなことで誤解していたんだね」ということがわかったりします。お互いのミッションを応援し合う状態を作るのは些細なことに見えるかもしれませんが、とても重要なことでした。自浄作用では難しいのかなと感じることも多かったです。また、レポートラインが違うことも大事だったりします。利害関係ができはじめたり、1000人を超えるとより「仲良くすること」が必要な気がしますね。そしてそれは、私たちも例外ではないなと思ったりしています。積極的に「頼り頼られる関係を築く」ということが大事かもしれないですね。扉を開いていくというか。人として仲良くなるのもだし……なかなか難しいことですよね。全世界の人が悩んでいることだなと思います(笑)。

■ 例外的に1個のクリエイティブでイノベーションが起きることもある

先ほどは1個のクリエイティブではイノベーションが起きないと言いましたが、実は一度起きたことがあります。その仕事でのイノベーションは、1個のブランドムービーでした。内容としては「要するにこういうことでしょ」と見せるようなもの。クライアントの全ステークホルダーが見て「これこれ!」と逆転したんですね。クライアントは共同ベンチャーの新規事業で、100人規模の企業だったと思います。ステートメントができていない状態でしたが、そのブランドムービーの内容がステートメントになりました。半年はかかるようなことを覆せるくらい、デザインやクリエイティブには力がある、これは本当にすごいことだなと思っています。

4. 苦労したエピソードと、その経験から得たもの

苦労した経験から得たものの回答のポイントを説明した画像。内容:①スコア化することの大事さ ②デザインの力で良くなったことを体感してもらう ③デザインの民主化のために、自分たち(デザイン組織)が諦めない

■ スコア化することの大事さ

苦労したエピソードは、定義フェーズで費用対効果を問われてかなり苦戦しました。その際、改めてBefore/Afterできちんとスコア化することが大事だと感じました。「このブランディングプロジェクトでなにかしらポジティブに変えたよね」というエビデンスを残す動きを取らないといけないなと思っています。

ーー ブランディングのROIって難しいと思うのですが…

ROIを言っている時点で、ブランディングの重要性が言語化しないと伝わらない組織体制なのかな…と思ったりします。CDOが不在というか。ただ、当たり前にROIから逃れるわけにはいかない、というのはありますね。スコア化する以外にも丁寧に「ブランディングはこんなに大事なことなんですよ」と資料などを用意してわかってもらうだけでもいいと思うんですが。価値を言語化・具現化するということをとにかく意識して丁寧に進める必要があるのかなと思います。難しいことではありますよね。
前職でのプロジェクトでは、ブランドリフトしたスコアは出せたので良かったと思っています。その調査は最後に実施したので、置き土産的な感じになりましたね。契約継続のときにはイシューに関するエビデンスばかり出していて、終わるときにはハッピーエンドで終われるようにしました(笑)。

■ 「デザインの力で良くなった」ことを体感してもらう

ーー 弊社では長期的なブランディング施策や定量調査もしていますが、数値で測れないこともあるかもしれません。そして今後さらにアカウンタビリティは求められていくと思います。弊社ではどう行動するのが良いと思いますか?

弊社でも定義フェーズにデザインを入れていく動きもあると思います。地道に意図を伝えていくことも大事ですし、その他には、言葉で話していることを図式化すると「こんなにわかりやすいんだ」というようなことを体感してもらうことも必要だと思います。
デザインから遠い部署こそ「デザインの力で早くなった」「わかりやすくなった」体験してもらうことが大事なのかなと思ったりします。デザイナー側からも、依頼された範囲外のことも積極的に提案して、改善につなげていきたいですよね。

wannaさんが微笑んでいる姿のスクリーンショット

■ 「デザインの民主化」をしたい

ーー ブランディングの重要性が浸透するにはどうしたらいいんでしょうか?

弊社のアウトプットは他社の方から褒められることも多いと思うんですね。その際に、デザイナー以外のメンバーが「デザインチームががんばっているんです」というよりも、意図やプロセスを当事者レベルで話せるようになるといいのかなと思ったりします。
クリエイティブの良さを理解するということもあるし、プロセスへの理解があることの証明なのかなと思います。ゆくゆくは深い自社への理解にも繋がると思っています。

ーー デザイナー以外の職種の方々の理解が深くなるとどう変わると思いますか?

細かいプロセスまでわからなくてもいいとは思うんですが、理解が深い状態になると「任せている」ではなく「この事業においてのデザインの重要度が伝わっている」状態と言えるのかなと思います。そうすると一緒に事業をさらに良くする言語を持てるのではないかなと思います。「デザインの民主化」をもっと前進できるのではないかなと思いました。そしてそこに至るには、自分たち(デザイン組織)が諦めてはいけないのかなと思います。自分たちが「みんなわかってないよな」という状態にならないことが大事だと思います。これだと話が終わってしまうので、諦めないで続けることは大変だけども、とても大事だと思います。

デザインの民主化のための3ステップをピラミッドの図で表した画像。ステップ1:地道になぜこのクリエイティブが良いのか・悪いのかを伝える&成功体験を一緒にする。ステップ2:クリエイティブ職以外の人が自分ごととしてデザインを語れる状態。ステップ3:会社全体がブランディングを大切にしている

5. 普段使っている考え方・ツール・影響された本や人など

■ 「Brand Experience Design」の考え方に影響を受けた

Goodpatchで提唱しているBX(Brand Experience Design)の考え方はすべてのビジネスモデルに通ずると信じています。マーケットで勝っているサービスはこれが出来ていると考えています。
BXは「すべての体験はすべてのユーザーと繋がっていく」という考え方。すべての体験や考え方は中心のビジョン・ミッションから外側に放たれていくもので、「1個のタッチポイントもサボるな」という考え方なんですね。これは、ビジュアルに留まらず、振る舞いや話し方だったり、テキストも…なんですね。BXは自分の哲学においては一生の付き合いになると思っています。

BX(Brand Experience Design)を説明している画像
引用元 : 🔗 Brand Experience Design|Goodpatch 


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