データ連携の基本的な考え方(第5回定例会のまとめと振り返り)
滋賀県内の自治体や企業らが集まり、スマートシティのあり方を一緒に考える研究会、第5回となる定例会はこれまでと雰囲気を変えて、「データ連携」というテーマを取り上げることになりました。
このテーマを取り上げた背景は、この研究会のスピンオフ企画としてスタートした「夏のFIWARE道場(滋賀)」にあります。これは「FIWARE」というデータ連携基盤を実際に触ってみて、データ連携とはいかなるものかを体験してみる、研究会有志のハンズオンセッションです。
スマートシティのあり方を考えるうえで、パーパスやウェルビーイングというテーマも当然に大事ですが、そもそもデータ連携の基礎的なことについては、この研究会できちんと押さえておく必要があります。政府がオープンデータ取組率100%を目指すなどと言っているけど、それとデータ連携の話ってどう関係してるの?など、現在の仕事との関係についても整理して進めないと、色々振り回されてしまいかねません。
そして、データについて学ぶのなら、実際にデータを作ったり使ってみるのが一番、ということで、データ連携基盤を活用したサービス開発支援などに取り組んでいる一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアム(SCSI)の皆さんの協力を得ながら、定例会とはまた別に、ゼミ的に運用を始めることになったのが、「夏のFIWARE道場(滋賀)」になります。
ただ、せっかくなので1回ぐらいは定例会の一環でこのFIWARE道場の取組みを扱ってもいいよねという話になり、今回のテーマと相成りました。そしてなんとSCSIの皆さんが滋賀にお越しいただけることになり、初のリアル(ハイブリッド)開催に。
データ連携基盤とデータ構築
前半はインプットセッションとして、まず県内のオープンデータの取組みとその課題について共有した後、SCSIの永野善之さん・土屋俊博さんから、データ連携基盤とは何か、そしてどのようにデータ構築に取り組んでいけばよいのかについて、お話いただきました。
ここではその中でお二人からいただいたお話の一部を紹介します。
(お話はここから)
都市OSとデータ連携基盤
「都市OS」とは、都市で扱われるデータ・システムすべてを総称したもので、データが繋がり、流れ、続けられる、という3つの仕組みが特徴です。
OSと聞くと「Windowsと同じようなもの?」と思われがちですが、そういうわけじゃありません。イメージとしては、いろんな都市にあるデータやサービスがネットワークハブで繋がっている、その都市ごとのノード(結び目)という感じの方が近いんじゃないかなと思います。国という大きい単位ではなく、地域など小さい単位で個別に都市OSを作りながら、それらが繋がっていくようなイメージです。
既に国内でもいろんな地域で都市OS・データ連携基盤が作られています。でもバラバラなものが作られるとデータやサービスが繋がらないため、2020年3月に「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」というものが内閣府から発行されています。
図のとおり、このアーキテクチャでは、サービスを中心にして描かれているんですよね。つまりサービスを実現するための「都市OS」であり「都市マネジメント」を考える必要があるのです。
これらに基づいて、デジタル庁では地域で都市OS・データ連携基盤を構築する際に活用する推奨モジュールを定めています。デジタル田園都市国家構想のデジタル実装TYPE2/3でもこの推奨モジュールを使ってくださいと言われていて、この辺りはDSA(一般社団法人データ社会推進協議会)で構築支援がされています。
デジタル庁が定めたエリア・データ連携基盤の推奨モジュールは3つあります。「Kong Gateway」というAPIゲートウェイ、「FIWARE Orion」という非パーソナルのブローカー、そしてパーソナルデータ連携モジュール(ブローカー)です。アプリケーション(サービス)はKong Gatewayを通してそれぞれのブローカー(データ仲介機能)にアクセスして、必要なデータを取得するという仕組みです。
FIWARE
FIWAREとは、スマートシティで使われる共通的なオープンソースモジュールの集合体の基盤です。相互運用性、データ流通、拡張容易性という3点を特徴としています。
「相互運用性」については、「NGSI」という標準規格化されたAPIやデータモデルでやりとりすることになっています。
データモデルは「エンティティ(Entity)」と「属性(Attribures)」と「付加情報(Metadata)」という3つの情報の構造を定義し、これをまとめて「コンテキスト」と呼んでいます。これがFIWAREデータモデルの基本構成になります。
このモデルを基礎として、様々なデータモデルが作られ、公開されています。温度を表示するときはこれでやりましょうとか、自然環境を測るときはこうしましょうとか、標準のセットがウェブ上に公開されているので、基本的にはこれで揃えるとデータの利活用がうまくいきますよということです。
「データ流通」については、FIWARE Orionというブローカーが基盤の根幹となっていて、デジタル庁の推奨モジュールでも採用されています。
そして「拡張容易性」については、FIWAREではビルディングブロック方式というものを採用しています。FIWAREは様々なモジュールの集合体の基盤と言いましたが、オープンソースでいろんなモジュールが作られていて、そのモジュールを自由に組み立てていろんな機能を実現することができるようになっています。
データ連携基盤の利活用事例
これは交通事故の多いエリアで取り組まれた事例なんですが、県警の交通事故データや、ドラレコ、映像解析データ、急ブレーキのセンサー情報といったものを地図上や時間軸上に落とし込んでいく。そこに、例えば公共福祉施設データとかけあわせると「学校付近で事故が多い」というのが分かったり、登下校時間帯とかけあわせると登下校との関係性が見えてきたりとか、そのようなデータ可視化ができるダッシュボードを作って、みんなで危険箇所を特定して対策を考えていこうという事例です。
こちらは観光施策の事例です。レンタサイクルの利用者がどこを通ったのかという経路情報と、レンタサイクルを借りた方の属性情報から、「こういう人がこういうところに行ってるんだな」ということがダッシュボードでわかると、お店の出店を考えたりエリアの案内を考えたりするきっかけにできるかも、というものです。
どのようにデータを構築していくか
データモデルについては、公開されているものがありますので、もし似たような形式があればそれを参照して、ないものは新しく作り、それをまたコミュニティで共有して、ということになると思います。
また、国内でもデジタル田園都市国家構想TYPE2/3で採択された事業に対しては、APIカタログとしてスマートシティ官民連携プラットフォームのWebサイトで公開されています。これらを見ながらデータモデルを考えるのも有効です。
なお、データモデルを考える際、MIMs(Minimal Interoperability Mechanisms)という考え方を国際標準にしていく動きがあります。これは、最初から全てのデータを合わせにいこうとするのではなく、必要最小限、まずはこれだけ繋がればできるよねというところから始めましょうという考えです。最初から完璧なデータ構造や約束事などを決めようとすると、立場上の軋轢が起きたりしてうまくいかないものですよね。
完璧なルールから入るのではなく、まずは小さなところから作ってみて、その成果・知見を共有していくというところが、都市OSを動かしていくうえですごく重要じゃないかなと思います。
(お話はここまで)
今後研究会で扱うテーマについて
定例会の後半は、今後この研究会でどのようなテーマに取り組んでいくか、ディスカッションを行いました。詳細は端折りますが、ひとまずの結論として、今後この研究会では「子育て」をキーに、モデルを検討していくことになりました。
ただし子育てという言葉どおりに物事や課題を解釈するのではなく、地域における子育てそのものの価値を捉え直し、「当事者」として、この地域に暮らす人々の関係性を再定義できないか?そんなことを考えていきます。
これまでの学びや気づきを踏まえつつ、より具体的な検討を進めていく予定です。
振り返り
以下、参加者の皆さんの振り返りです。