西九州新幹線の「妄想的解決策」をまじめに考える(1)【未着工区間は佐賀空港経由の一択だと思う理由】
西九州新幹線が開業して1年が経ちました。それなりの経済効果はあったようですが、問題も山積しているというのが現状なのかなと理解しています。
開業から1年が経ち、武雄温泉~長崎のみの閉塞新幹線状態を解決すべく、長崎県、佐賀県、JR九州、国土交通省と関係機関がいろいろ動いているようです。
メディアの調査報道もそれなりに活発化したこともあり、一部で見られた「佐賀県がごねているから、未着工区間問題が解決しない」という雰囲気も和らいできたように思います。
当初から佐賀県の主張は、理にかなっており、冷静な議論が進展することを期待したいところです。現状のシナリオありきの動きは問題が多すぎると思うからです。
九州に住むものとして、JR九州や長崎県(選出の国会議員も含む)のあまりに酷い対応に、怒りが爆発したこともあり、1年前に↓の記事を書きました。
私も1年が経過したこともあり、この問題の解決策はどうあるべきかをいろいろ考えていたこともあり、記事として書いてみたいと思います。
鉄道素人の妄想ですので、その点はご容赦ください。
さて、今回は、佐賀県が佐賀空港を経由する南回りルートを主張するようになっている点に注目します。
私は、この案が一番いいと考えています。
JR九州もそうですが、世間一般の解決案は、佐賀駅を経由するルートなのでしょう。それはそれで合理的な側面がある常識的な意見だと思っています。
私は、それでも佐賀駅ルートに悲観的な理由は、西九州新幹線の「特殊性」にあると思うからです。
西九州新幹線の終点は、長崎駅ですが、長崎市(の都市圏)の抱える地理的な問題と経済的問題があまりに脆弱である点は、西九州新幹線を考える上で、欠かせない要素だと思います。
九州新幹線の終点の鹿児島中央駅との違いを比較しても、それは明らかです。鹿児島中央駅は、九州新幹線の新幹線の終点でありますが、県内移動の拠点駅でもあります。鹿児島中央駅から、指宿枕崎線へのアクセス、大隅半島へのアクセスなど、ここから人の流れがあり、それが鹿児島中央駅の、ひいては九州新幹線の集客力になっている。
JR九州が発表している駅の利用人員を見ても鹿児島中央駅と長崎駅では、1日当たり、1万人近い差があります。
https://www.jrkyushu.co.jp/company/info/data/pdf/2022ekibetsu.pdf
長崎駅は、地理的にも長崎県の端っこに位置しています。このことは、長崎県の交通ネットワークの中心に位置しない構造になっていることを意味します。これが問題として大きい。
また縦に長い長崎県を西九州新幹線が南北に分断する鉄道となっており、このまま武雄温泉から佐賀駅を経由するルートを設定しても、長崎県内の高速移動のネットワークとしての役割を十分に果たせる機能となっていない。
それでも、長崎市に経済的な強さがあり、人を引き込む力があれば別ですが、長崎市は地滑り的に人口が減少しています。基幹産業の造船の苦境やエンジニアリング事業も含めた三菱重工業の低迷など長崎市に立地する長崎駅が新幹線のターミナル駅(※)としての機能を果たすことは難しいと思われます。
※ターミナル駅とは
そのため、西九州新幹線は、このまま佐賀駅を経由するルートを設定しても、中長期的視点では従来の日本の新幹線役割である(中・大)都市間の大量輸送を果たせない可能性が高いとみています。
そして、佐賀県が懸念する在来線が広範囲でJR九州から経営分離され、最低限の都市間輸送の機能を失う懸念は極めて大きいこともあり、佐賀駅を経由するルートは、常識的あるけれど未来の暗い選択だと私には見えています。
そのような観点からみると、西九州新幹線は新しいコンセプトが必要な新幹線であると思っています。従来の考え方にあらたな経済的な付加価値をつける必要があると思うのです。
そのコンセプトと考えられるのが、鉄道と航空の融合です。
仮に西九州新幹線が山陽新幹線へ乗り入れても、設定される路線は、九州新幹線と同様に新大阪駅までが限界であり、集客は日本の半分に限られる。
しかし、鉄道と航空の融合を目指すと事情はことなります。
佐賀空港経由する南ルートならば、飛行機を使った関東以東からの集客であったり、中国、韓国、香港からの集客も可能となり、九州の玄関口として佐賀空港に人を集め、それを西九州新幹線経由で九州広域に人を運ぶことが可能になる。
可能であれば、JR九州がLCCに参入すれば、シナジー効果は計り知れない。自前で飛行機を飛ばして佐賀空港に乗り入れ、そこから西九州新幹線で人を運ぶのです。
そうすれば、収益の先細りが予想される佐賀駅を経由するルートより未来があると思うのです。
もちろん、妄想的解決策であることは十分理解しています。ただ、今の議論は佐賀駅を経由するルートという結論からロジックを組み立てている。それでは、少なくとも、問題は解決しないでしょう。
JR九州や国土交通省も佐賀空港経由の南ルートを最初から否定する思考ではなく、柔軟に検討してもいいのではと思います。
確かに佐賀駅を経由するルートはもっとも現実的な解決策であり、誰もが非難されないメリットはありますが、未来が明るいとは言えない解決策である現実にも目を向けてほしいかなと思います。
実は、この佐賀空港経由をする南ルート、別のメリットがあるのです。それは、その2で書きます。