平成上方落語台本『天龍寺~目は口程に物を言う~』【前半】
(かなり長い作品になりますので、前半と後半に分けて投稿させていただきます。)
平成上方落語台本『天龍寺~目は口程に物を言う~』
作 せおりつひめ。(代筆:小林栄)
※この作品は2012年~2013年頃に創作したもので、些か言葉遣いがよろしくありません。(苦手な方はご遠慮して頂いた方が無難かもしれません。f(^_^;)
そして、実在する世界遺産の天龍寺 並びに、画家の鈴木松年さんと 加山又造さんとは、何の関係もありません。おもいっきりのフィクションです。すんごいフィクションです。もう、すんごい すんごぃ嘘です。その為、一部登場人物の名前を『加山又創』としております。あしからず。重ね重ねのあしからず。
※ナレーターは(N)と表記
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(N)「京都の嵐山にある天龍寺には、直径9mもの、巨大な龍の天井絵というものが存在する。
この絵が「八方睨みの龍」として有名になったのには、ちょっとした訳があった。
それは、時代の年号が平成に変わって、十年以上経ったときのこと。
五月の嵐の朝だった。
文化遺産に登録されて6年目というなんともまぁ、中途半端な節目を迎えた天龍寺に、一人の画家がやってきたことから始まる…。」
(加)「あぁ~もう、めっちゃ濡れた。なんちゅう雨の日や。嵐やないか。靴下まで濡れてるし。…靴の中もグジュグジュや。こんな日くらい、休ましてくれたらええのに…(天井の龍の絵を見て) まぁ、そうも言うてられへんけど。」
(N)「雨の中やって来たこの男は、名前を加山又創(かやままたぞう)と言って、年齢は五十二歳。絵画の世界ではかなり名の知れた画家である。
天龍寺ではそのむかし、誰かが大堰川で龍を舞うのを見たとか見ないとか。
それがきっかけで、寺の法堂(はっとう)。…つまりは 僧侶が、毎朝経を唱える建物には、天井一面に、直径9mもの巨大な、丸い “円”の中におさめられた、“龍の絵”というものが存在する。
因みにこの円の中に龍がおさまっている状態が、“平和の証” ということらしい。
平成の時分。この龍の絵というのが、保存状態が非常に悪く、とにかくボロボロで、もはや修理も難しいほどの状態にあった。
何故これほどまでに、修理も難しいほどボロボロだったのか。
それは話を遡ること、明治時代…。
日本には、ピカソよりも四十年ほど早く、鬼才と呼ばれる画家がいた。
名前は、鈴木松年(しょうねん)。
松年(まつねん)と書いて、『しょうねん』という。
松年の父親は、百年(ひゃくねん)という。
どうやらかなり親子の関係はよろしくなかった。
だから自らを“松年” と名付けた。松というのは耐久性があり、百年以上はもつ。自分は “百年より長い千年”の松なのだと、主張した。
この鈴木松年という人物が、天龍寺に、龍の天井絵を描いた。
しかし。絵の描き方が少しまずかった。
明治時代とはいえ、それなりに絵画の技術も、はるか大昔と比べたら、発展していたであろうにも関わらず。
鈴木松年という人は、
わざわざ『和紙』を選んで、
『和紙』に絵を描いて、
そのまま天井に…『和紙』を貼り付けた。
…もっと良い材質があっただろうに。
自ら付けたその名のように、本来ならば、千年以上ももつ絵を描けたはずだ。
それなのに。
何故、あえて『和紙』を選んだのか。
この点に関しては、今となっては分からない。
しかし。松年がこんな不思議なことをしなければ、これから起こる“不思議なこと”も起こらなかった。
鬼才・鈴木松年の描いた龍の絵が、不覚にも
“たかだか百年程度しかもたない絵”だったからこそ、時代は新たな天才に白羽の矢を立てた。
その人物こそが加山又創。
先程からずっと、靴の中まで雨で濡れてしまったと嘆いている男である。
これまで数多くの作品を世に送り出してきた加山にとっても、これが自身の集大成、後々の世に受け継がれる代表作になる予感がしていた。
今日、多くの人がそうであるように、世界遺産に関わる仕事をするというのは、そういうことなのである。
加山は、世界遺産・天龍寺の法堂、直径9mにも及ぶ、巨大な龍の天井絵を新たに『描き替えに来た』のである。」
○加山・天井を見て
(加)「しっかし、勿体ないなぁ。鈴木松年先生の絵を張り替えるやなんて。自分がここに、新たな龍を描くなんて。恐れ多いわ。」
○加山・まじまじと天井の絵をみて
(加)「…でもまぁ このまま置いといても、どんどん傷んでいくしなぁ。」
【雷の音】
(加)「あぁ。言うてる間に 早よ作業しよ。頼むからこの状況で雨漏りだけはやめてくれよー。」
○加山・なんとなく、手を合わせて神頼み。
(加)「あ"ああぁ! …」
(加)「えっ、停電…?」
(加)「 あ"あぁ!」
○加山・驚く
(加)「なんや!?」
○加山・少々パニック。暗闇の中、
(加)「懐中電灯…ないか。とりあえず…どうしよう、外出ようか」
(男)「懐中電灯やったら、ここにあるでぇ。(顎下を照らして登場)」
(加)「あ"ああああぁ!!」
(男)「あ"ああああぁ!!
…こっちがびっくりするわ!」
(加)「心臓飛び出るかと思ったわ、びっくりしたぁ。だれや…寺の子か?」
(N)「焦る加山の前に現れたのは、懐中電灯を顎下に当てて、わざと驚かしにきたかのような男。」
(加)「電気…配電盤どこや。」
(男)「そんな焦らんでも、すぐ元に戻るって」
(加)「のんきなこと言うてる場合か、」
(N)「のんきなことを言っていると、電気はすぐに復旧。
辺りが明るくなって、目の前に現れた男に、加山は、眉間にしわを寄せる。」
○加山・警戒心、眉間にしわ。
(加)「 …なんで裸?」
(男)「ちゃんと履いてるわ」
(N)「男は上半身裸に、素足で丸坊主。黒のスエットを履いている。見るからに若い。歳は 22、3歳といったところ所だろうか。
目つきも柄も非常に悪く、腕を組んで、まじまじと加山のことを見ている。」
(加)「…(警戒心)…。」
(男)「(加山に顔を近付けて、) …どや?」
(加)「はっ?」
(男)「良い筋肉やろぉ、(見せびらかす)」
(加)「(困惑)…? 」
(男)「なめられたら、あかんな思て。」
(加)「なめへん。誰もなめへん。」
(N)「男は、持参していたのか、床に置いてあった上の服を羽織った。そして加山は、少し落ち着いてこう尋ねる。」
(加)「君、見慣れへん顔やけど、ここの子か?」
(男)「ここの子ぉ(天龍寺の関係者)というか…張本人?」
(加)「(首を傾げながら) …まぁ ええわ。」
(男)「おい。」
(加)「 …?」
(男)「お前か。」
(加)「は?」
(男)「描き替えに来たやつ(画家)は。」
(加)「なんや、(その態度。)」
(男)「あん?」
(加)「態度、わる。」
(男)「あ"ぁ? (眼を飛ばす)」
(加)「こわいて。」
○男・にっこり笑って、なぜか超ポジティブに。
(男)「まぁな。」
(加)「褒めてない。 …(完全に怪しむ)」
○加山・無礼なやつだと思いながらも、
(加)「…あぁ。 (停電で、)駆け付けてくれたのは、有り難いけど。ここ、立ち入り禁止や。」
(男)「そうなん? なんで?」
(加)「なんでって。」
(男)「かまへんて。」
(加)「何で、知らんね。」
(男)「かまへん。かまへん。大丈夫。」
(加)「こっちが構うねん。」
(男)「なんでぇな」
(加)「悪いこと言わんから、早よ出て行き。」
(男)「なんで、」
(加)「山田さんに怒られる。」
(男)「やまだ…?」
(加)「法務部長やないか、」
(男)「…あぁ。かまへん、かまへん。わしの方が位的には高いから。」
(加)「はぁ?」
(男)「そんなんええから、早よ 描き替えんかい。(顎をしゃくって天井を指す)」
(加)「なんなんや、さっきから、偉そうに… (絶句)」
(N)「そう言って、加山が天井を仰ぎ見ると、さっきまでそこにあったはずの鈴木松年の絵が消えていた。」
(加)「…えぇ!? …え?…絵 えぇ…ない。」
(男)「それは洒落か?」
(加)「松年先生ー!!(パニック) 」
(男)「わしが片付けておいた。」
(加)「貴様、文化遺産になにしてくれとんじゃーー!」
(N)「加山、そのまま その男にコブラツイストをかける。」
(男)「イデデデテテテテテ! ギブ、ギブギブギブ! 何するねん!」
(加)「それはこっちの台詞じゃ!」
(男)「痛い、イタイ、イタイ、イタイ!」
(加)「現行犯逮捕や!」
(男)「はぁ!?」
(加)「だれかー! だれか来てくれ!」
(男)「待て待て、待て。どないなっとんねん。」
(加)「どこに隠したんや」
(男)「は?」
(加)「今すぐ松年先生の絵を返さんかい」
(男)「返すも何も。あんなボロボロ、もうないに等しいやないか。」
(加)「何やと!? もう一遍、言うてみぃ。」
○コブラツイストの力を強める
(男)「あイタ、タタタタ、タタタ! 分かった、言う言う。正直に言うから放せ!」
○解放
(男)「イタァ、 …本来であれば、関節が 曲がらん方向にばかり曲げてからに。」
○男・涙目、うるうる。たぶん、腕すりすり
(男)「こんな仕打ち初めてや。何でわしがこんな目に遭わなあかんねんな。ええか、落ち着いてよく聞けよ。」
(N)「男は咳払いをしてから、加山にこう言った。」
(男)「わしは、ここの龍。天龍寺の龍や。」
(加)「自首をすすめる。」
(男)「なんでやねん」
(加)「ならば警察、(を呼ぶ。(あっさり)) 」
(自称・龍)「待て待て、まて。」
(加)「なんやねんな。」
(龍)「本真やて。自分がびっくりせぇへんように 人間の姿になっとるだけや。」
(加)「“山田さぁーん!”」
(龍)「“山田”を呼ぶな、」
(加)「“山田”って言うな。」
(龍)「わしの方が位的には上や!」
(加)「嘘つくにも、もっとましな言い訳あるやろう。」
(龍)「本真やて。わしを新たに、描き替えに来た人間が、どんな奴か。一回見とこうと思ったんや。」
(加)「はぁ?」
(龍)「わしは、京都五山第一位の格式を誇る嵐山名物・天龍寺の龍。
たかちゃんと、むっちゃんが、わしにどうしてもここに来て欲しいて言うから。ここにおるんやないか。」
(加)「たかちゃん? むっちゃん?」
(龍)「わしが たかちゃん言うたら足利尊氏。むっちゃんと言うたら、ここのお寺開いた坊さんの夢窓国師。庭いじり大好きな むっちゃんや!」
(加)「知らんわ、そんな事。」
(龍)「なにぃ!?貴様、たかちゃんも、むっちゃんも知らんと、わしの事を描き替えに来たんか。この勉強不足が!」
(加)「何やと!? (カチンとくる)」
(龍)「義務教育で一体、何を学んできたんや。この無教養のドアホが!!」
(N)「些か言葉遣いがよろしくないが、全ての西日本生まれの人がそうだという訳ではないので、あしからず。」
(加)「偉そうに。何なんや! それが目上の者に向かってする態度か。」
(龍)「だからさっきから、わしの方が、はるかに目上やっちゅうねん!何なら雲の上の存在や。降臨して来とんねん!」
(加)「あぁ。分かった、分かった。あとの話は警察でゆっくり…」
(龍)「信じろやぁー! (じたばた)」
(加)「 (冷静に、) 恥ずかしくないんか。」
(龍)「お前がな」
(加)「大人げない。いい歳をして。上下関係というものを知らんのか。」
(龍)「こっちの台詞じゃ。」
(加)「 顔、こわいねん。」
(龍)「親に謝れ。」
(加)「一体いくつや。名前は?仕事は?」
(龍)「仕事? 拝み、崇められ、奉られることじゃ!」
(加)「要するに、無職か。」
(龍)「やかましいわ!貴様、この業界を敵に回すとは、大した度胸やのぉ!」
(加)「はぁ?」
(龍)「わしはな、こんな思いをする為にわざわざ中国から来た訳やないぞ!」
(加)「中国?まさか留学先?それにしても、もうちょっと、日本語、学ばんと。」
(龍)「やかましい。貴様、だれに向かって物言うてんねん!」
(加)「“貴様”やと? (むっとする)」
(龍)「わしはな、官吏の倅に小石をぶつけられて、一生池の中の鯉でおるのが嫌やったから、黄河の激流登り切ったんや。『登竜門』という言葉は、わしありきの言葉や。」
(加)「そんなこと言われても、」
(龍)「それやのに何なんやこの仕打ちは!! …神さん稼業も考えものやわ!」
○自称・龍、些か自暴自棄。
(加)「はぁ?」
○加山・なんのこっちゃという表情。
(龍)「あぁ。昔やったら尾上松之助もマキノも…、毎年のようにわしの所にやって来ては、そこの『老松』の和菓子を持参して、」
○加山・話の腰を折る。(悪気はない。たぶん。)
(加)「老松? …そこの?」
(龍)「そこ以外、どこに老松があんねん!」
(加)「こわいなぁ」
(龍)「…『映画の撮影をさせてくださぁい。忠臣蔵の討入りのシーンは是非とも、ここ天龍寺さんで!』って、頼みに来てたものやのに。」
(加)「なんやそれ。(知らんがな、)」
(龍)「でんちゃんかて、来ててんぞ!」
(加)「でんちゃん?」
(龍)「わしがでんちゃん言うたら、大河内傳次郎や! 映画みぃ!」
(加)「映画観るけど、古すぎるわ。」
○自称・龍、うすいモノマネを披露。
(龍)「“せぇいは、たんげ。 なは、しゃじぇん” じゃ!」
(加)「…反応に困るわ。」
○龍?・もう自暴自棄。(一応、『姓は丹下、名は左膳』と言っている。)
(龍)「どうせお前ら、桃太郎も丹下左膳も知らんねやろ、」
(加)「いや、桃太郎は分かる。」
(龍)「ほな、なんで丹下左膳がわからんねん。似たようなチャンバラやないか!」
(加)「一緒にすな。おとぎ話と。」
(龍)「わしからしてみれば、両方、最近の話じゃ!」
(加)「柄、わる~」
(龍)「でんちゃんが、丹下左膳として最期死んでいったのも、ここ天龍寺やぞ。」
(加)「まだ言うてんか。」
(龍)「それやのに。今や、でんちゃんが建てた『大河内山荘』の方が有名て。これ一体、どないなっとんねん!」
(加)「知らんて、そんな内輪の話。」
(龍)「こんなことやったら…(鼻をすする)
こんなことやったら、親戚の言う事を真面目によく聞いて、一生池の中の鯉のままでおるか。祇園さん所の鯉山の鯉か…(涙目)……南観音山の見送りにでもなっておけば良かった……」
○龍・最後の方は泣きじゃくる。
(加)「泣きな、泣きな。むさ苦しい。」
(龍)「 (ボリュームを上げて泣く) 」
(加)「あぁ、もうごめん、ごめんて。(慰める)
まぁ若い頃は衝動に駆られて、つい…という事もあるやろう。せやけど きみ、いくらなんでも文化財を傷付けていいという事にはならへんからな。」
(龍)「まだ言うとんか! 貴様!」
(加)「警察や。警察。」
(龍)「さっきから聞いてたら、警察、警察って。」
(加)「そりゃあ、そうやろ。」
(龍)「だいたいお前ら何でもかんでも、力で押さえ付けようとしやがって。その考え方はいつまで経っても、変わらんのか。」
(加)「何やねんな、急に。」
(龍)「お前ら人間っていうのは、事あるごとに 争いごとを持ち込みやがって。悪いけど、ここ天龍寺もな、例外なく被害にあっとんねん。
争いごとの度に燃やしては建てて、燃やしては建てて。八回も繰り返して、わしの事をかば焼きにでもするつもりか!」
(加)「知らんわ、そんな事。」
(龍)「もうええ!もうええわ。自分がわしの事をどう思おうと、もう何でもええ。わしはただ、売れたいんや。」
(加)「何や、その、パッとせぇへん、噺家みたいな発想は。」
(龍)「やかましい。自分、ここにおるということは。よっぽど画家として腕を見込まれてのことやろな。」
(加)「そうでもないけど、(謙虚)」
(龍)「そうであれ!」
(加)「なんやねんな。」
(龍)「最終学歴は?」
(加)「学歴?」
(龍)「言え!」
(加)「関係あんのか。」
(龍)「ある!」
○加山・溜め息
(龍)「言え! 早く!」
(加)「……(溜め息まじりに言おうとするも、遮られる)」
(龍)「早よ、言え!わしは、イラチやねん。」
(加)「今、言おうとしたやないかっ」
(龍)「確かめさせてもらう。わしという文化遺産に相応しいかどうかを。」
(加)「は?」
○龍・居住いを正して、
(龍)「ご趣味は?」
(加)「は?」
(龍)「お休みの日はなにを?」
(加)「聞いてどうするねん。お見合いか、」
(龍)「ご出身は?」
(加)「しつこいなぁ」
○龍・急に。節をつけて、こう尋ねる。
(龍)「あんた、がった、どこさ♪
京都さ♪ 京都どこさ♪ 」
(加)「ちがう。」
(龍)「どこさ、」
(加)「九州。」
○龍・食い気味に
(龍)「肥後さ!? 」
(加)「 …鹿児島。」
(龍)「鹿児島ァ"!?」
(N)「するといきなり、この自称・龍。加山に掴みかかり、先程の復讐だと言わんばかりに、コブラツイスト返しでグイグイと加山を締め上げる。」
(加)「イデデテテテテテ! 何やねんな」
(龍)「貴様、“薩摩”の手の者か!コラァー!」
(加)「はぁ!?」
(龍)「さっき、めっちゃ痛かってんぞ。涙出るくらい痛かってんぞ。」
(加)「イデデテテテテテ!」
(龍)「お返しじゃー!」
(加)「あイタ、タタタタ、タタタ!何やねんな。放せ!」
○龍・コブラツイスト返しの力を強める
(加)「ギブ、ギブギブギブ!」
(龍)「忘れたとは言わさへんぞ。蛤御門での一件を!」
(加)「はぁ? 蛤御門?」
(N)「蛤御門とは。幕末の頃、会津藩VS薩摩藩in京都で繰り広げられたドンパッチのことである。」
(龍)「お前に大砲で、ぶっ放される木造建築物の気持ちが分かるのんか!」
(加)「どういうこっちゃ、あイタ、タタタタ! 放せ!」
○龍・加山を解放。
(龍)「フンッ。あれ以来、わしはパラパラになるという夢を度々、見んのんじゃ!」
(加)「トラウマやないか。ええ加減にせぇよ。痛~(腕をさする)」
(龍)「何、考えてんねん。うちの山田!」
○龍・ハッとする。
(龍)「…お前、山田に、いくら包んだ?」
(加)「なんも、渡してない。」
(龍)「私利私欲のために、わしのことを、利用したら承知せえへんからな。」
(加)「頼まれて来てるだけや。」
(龍)「言うとくぞ。 わしは京都五山第一位の格式を誇る嵐山名物・天龍寺の龍。」
(加)「それ、さっき聞いた。」
(龍)「なんぼでも、言うたるわい。」
(加)「痛~(まだ腕をさする)」
(龍)「おまけに六年前には、世界文化遺産にも登録されとる、ユネスコのお墨付きが付いとんねん。」
(加)「ユネスコ?」
(龍)「わしのバックには、自分が想像も出来ひんような、国際機関が付いとんねん。」
(加)「その言い回しと、その柄の悪さやと、別のバックが付いてるように聞こえるぞ。」
(龍)「余所さん所の。キリストさんの絵ぇみたいに。【門外漢が、いきなり現れて。いきなり描き替えて。見に来る観光客が、首を傾げて帰るようなもの作ったら】。わし、本真に自分のこと、末代まで許さへんからな。」
(N)「…そんなことも、何時ぞやあったような。」
(加)「態度、わる。感じ、わる。柄も、わる。」
(龍)「…」
(加)「めっちゃにらむやん…」
(龍)「…」
(加)「顔、こわいねん。夢に出てくるわ。」
(龍)「縁起ええやないか、」
(加)「この金剛力士像め。」
(龍)「神獣を、神仏で例えるな。」
(加)「子供泣きよるわ。」
(龍)「さぁ、そこや。問題は。」
(加)「は?」
(龍)「わしはとにかく、好かれたい。」
(加)「煩悩まみれめ。」
(龍)「何とでも言え。ええか。子供が、“ラクダ”と勘違いするような絵にだけはするな。」
(加)「ラクダ?」
(龍)「まだ虎やったらええ。威厳がある。でも小さい子供と、女性とお年寄りが怖がるような、気持ちの悪い絵ぇにだけはするなよ。」
(加)「何を、注目付けてくれてんねん」
(龍)「発注先の言うこと聞くのは、当然や。」
(加)「はぁ?」
(龍)「いやでも待てよ。うさぎさんとか、シカさんみたいな愛嬌も欲しい…。」
(加)「ウサギさん? シカさん ? 愛嬌?」
(龍)「まぁ、わしにこれ以上の愛嬌があっても、困ると思うけど。」
(加)「どの口が言うてんねん。」
(龍)「でも(北野天満宮の)天神さんみたいに、牛の神さんみたいな意外性もほしい。」
(加)「あそこの神さん、菅原さんや。なにを言うてんねん。(呆れる)」
(龍)「ほら、わし元は、鯉やろ?」
(加)「知らん。(知っているけど貴様の身元は知らん)」
(龍)「知れや、わしの事。もっと注目せえ!」
(加)「うるさいな。」
(N)「この無理難題に応えたのかどうかは、定かではないが。
龍というのは、角はシカ。目はウサギ。耳は牛。爪は鷹。手の平は虎。鱗は鯉…など。所々、動物が取り入れられている。」
(龍)「泳ぐのは得意やから、空を優雅に飛ぶのもええな。 …なぁ、どない思う?」
(加)「知らん。」
(N)「ちなみに顔は、嫌がっていた、ラクダだとか。」
つづく。
長いので一旦ここまで。