平成上方落語台本『天龍寺~目は口程に物を言う~』【後半】
(かなり長い作品になりますので、前半と後半に分けて投稿させていただきます。)
平成上方落語台本『天龍寺~目は口程に物を言う~』
作 せおりつひめ。(代筆:小林栄)
※この作品は2012年~2013年頃に創作したもので、些か言葉遣いがよろしくありません。(苦手な方はご遠慮して頂いた方が無難かもしれません。f(^_^;)
そして、実在する世界遺産の天龍寺 並びに、画家の鈴木松年さんと 加山又造さんとは、何の関係もありません。おもいっきりのフィクションです。すんごいフィクションです。もう、すんごい すんごぃ嘘です。その為、一部登場人物の名前を『加山又創』としております。あしからず。重ね重ねのあしからず。
前回【京都の嵐山にある天龍寺というお寺に、絵画の世界ではかなり名の知れた男・加山又創がやって来た。加山は依頼されて『龍の絵を“新たに”描き替えに来た』のだが、そこに自称・龍と名乗る男が現れて…。さて、後半はどうなるのやら。】
(ご興味があればどうぞ。前半↓)
(とぉざぁ~い♪ とおざぁ~い♪)
※ナレーターは(N)と表記
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(龍)「…あ、せや。鷹や!鷹っぽく、力強くも優雅に、描いといて。」
(加)「出来るか、」
(龍)「怖気づいたか。」
(加)「はぁ?」
(龍)「まぁ、わしみたいな偉大なる神獣を、お前ごときが描こうとしている訳やから。そら、怖気づいたりもするやろ。」
(加)「いちいち癪に障るな。」
(龍)「ところで、名前は?」
(加)「今更?」
(龍)「すっかり『リメンバー・蛤 (御門) 』のせいで、聞き損ねた。」
(加)「リメンバー・蛤 (御門) ?」
(N)「加山、止しとけばいいのに。」
(龍)「薩摩への恨みは根深いぞ、」
(N)「またコブラツイストをかけようとする。」
(加)「もうええて!」
(N)「加山、上手いこと かわした。」
(龍)「フンっ。ついでに代表作も言え。」
(加)「は?」
(龍)「あるやろ。代表作くらい。自分みたいなパッとせん者でも。わしの事、『描き替えに来る』くらいの実力は、見込まれてのことや。」
(加)「はぁ… (なんやもう呆れ返ってくる)」
(龍)「いや、はぁ、やあらへん。代表作。一応、言うてみ。」
(加)「…」
(龍)「ほら早く、」
(加)「…」
(龍)「遠慮せんと。」
○加山・だんだん面倒くさくなってくるも、溜め息まじりに
(加)「…最後の晩酌、岩窟の歳暮。ムックの雄叫び、ゴッホのそとまわり、真珠の首捻り、雪・月・花、横たわる裸婦あとは…」
(龍)「ちょ、ちょ、ちょっと待て。」
(加)「猫。」
(龍)「猫!? よ、横たわる裸婦!?最後の晩酌やと!? お前、名前は?」
○加山・嫌そうに
(加)「加山やけど。」
(龍)「加山!? 加山ってもしかして、あの加山又創か!?」
(加)「何や、知ってんのかいな。」
(龍)「いやいや、いや。えー、(だんだん大きくなる)」
(加)「うるさ。」
(龍)「知ってるも何も…ええええええー!?」
(加)「うるさ。」
(龍)「本真にあの有名な加山又創先生で?」
(加)「先生?」
(龍)「本真に、本真?」
(加)「そうやけど。(訝しがる)」
(龍)「本真に、本真に、加山先生!?」
(加)「しつこい、」
(龍)「大変に、失礼致しましたー!(平謝り)」
(加)「何なんや。その態度は。」
(龍)「ここより先は、手の平をくるっと返さして頂きます!」
(加)「言うてええんか、それ。」
(龍)「いやー、失礼致しました。まさか先生みたいな有名な絵描きのお方が、こんな辺鄙な山奥まで、」
(加)「 (辺鄙て言いないな、)」
(龍)「しかも今日は雨降ってんのに、わざわざ足を運んでくださるなんて誰も思いませんがな。」
○加山・呆れる
(加)「見事な手の平返しやな。」
(龍)「こんな事やったら、もうちょっと、うちの山田に “庭”の方をきれいにさせときましたのに。」
(加)「雨降ってんねんから、一緒やろ。」
(龍)「むっちゃんが作った、自慢の庭です!」
(加)「それしかないんか、」
(龍)「それしかないんです!」
(N)「そんなことはない。」
(龍)「いやぁ~、これは、後で弁財天にも自慢出来ますわ。」
(加)「弁財天!?七福神の?」
(龍)「えぇ。“こちらサイド”では先生のこと有名なんですよ。先生が手掛けた神社仏閣。いいや、それ以外の美術品・芸術品そのすべて。みんな注目を浴びて、観光客がグッと増えるって。これでうちのお寺も安泰ですわ。」
(加)「誰が言うてんねん。そんなデタラメ。」
(龍)「デタラメなんてとんでもない。正直、つよがり言うてても。…ほら、ガラスのハートやん?わし。」
(加)「知らん!(心の底から知らん。)」
(龍)「ちょ~もう、聞いてぇな。先生。」
(加)「何やねんな、こいつ。(めんどくさいな。)」
(龍)「もう、先生に『こいつ』なんて言われたら、わし後生大事にするぅ。」
(加)「 …、(しんどいて。性格がやかましぃ…。)」
(龍)「わし、普通に喋ってても、こないな喋り方やろ。周りからよう言われるんです。『京都に鎮座する神獣のくせに、言葉がコテコテすぎる』って。」
(加)「あぁ。確かに。(ずっと思ってた。)」
(龍)「しゃあないやん。わし、典型的な成り上がりやもん。」
(加)「開き直りが凄いな。」
(龍)「ここだけの話、さっきも六年前に文化遺産に登録されたって言いましたけど、登録されたら観光客も増えるんやろうなと こっちも期待してたんですよ。ところが…」
(N)「お差し支えなければ。一旦読むのはやめにして Google Map か、るるぶ。もしくは、まっぷる等で嵐山・天龍寺の周辺を、一周 目を通していただくと。より一層 この落語のばかばかしさを楽しんで頂けるかと思われます。いざ、無駄な奥行きをあなたに。」
(龍)「…ところが、増えたんは始めの一、二年だけ。目の前に嵐電があるのに、皆 通り過ぎていくんです。」
(加)「しゃあないやろ。」
(龍)「若い子は、縁結びやなんや言うて皆、野宮神社に持っていかれるし。」
○加山・野宮神社を思い浮かべて、ぽつり
(加)「…狭い所に。ようけの人が集まって、」
(龍)「阪急の嵐山から渡月橋を渡って、こっち方面に来るお客さんには、人力車のお兄ちゃんの爽やかな笑顔の勧誘が待っている。」
(加)「あぁ…(今日おらんかったで。雨やから。というか、嵐やから。)」
(龍)「あれもイケメンばっかり集めて上手いことやった商売ですよ。まぁ。中にはそうでもないハズレも居てたりしますけど。」
(加)「余計なこといいないな。」
(N)「本当、余計なこといいないな。」
(龍)「絶対あれ、やり手の社長とかが、経営してたりするんですよ。ええなぁ…羨ましい限りですわ。」
(加)「なんの話やねん。」
(龍)「だからね、先生。わしはこの『描き替え』をきっかけに、何とか観光客を呼び戻して、再び崇められたいなて、切に願っているんです。その為にも、先生の力、お借りする事出来ないですかねぇ。」
(加)「そんなこと言われても。観光組合にでも、頼みぃな。」
(龍)「そりゃあ、まぁ嵐山ですし。秋の紅葉シーズンにもなれば。それなりに人も増えますよ。せやけど、そのほとんどがカメラ小僧。別に宜しいねん。来て欲しいねん。せやけど、中にはマナーの悪い奴もおって。全ての人がそうやおへん。
【高い入場料を払ってんねんから、三脚を立てて写真を撮るくらいいいやないか】って、威張り散らす奴も居てるんですよ。」
(加)「どこにでもおるな。そういうの。」
(N)「三脚を立てて良い場合と、駄目な場合というのがある。それは、時代に合わせて、是非とも気を付けて頂きたいものである。」
(龍)「立入禁止で【それ以上は先には進まんといてくださいね】って意味で、わざわざ置いてある“関盛石”を踏み越えてまで。なにをそんなに写真に収めたいのやら。」
(加)「関盛石が何か、分からんのとちゃうか。」
(龍)「ほな、殺人現場みたいに、あっちゃこっちゃ黄色いテープで、KEEP OUTって貼っときます?」
(加)「せわしない。目ぇ、チカチカするわ。」
(龍)「そうですやろ、」
(N)「因みに天龍寺には、関盛石というものはない。(関守石ともいう) 制作当時、夕方のニュース等で毎年のように話題が取り上げられていたことを、ここで世相として入れておこうと思う。」
(龍)「まぶたのシャッター切るのも忘れて。バシャバシャ、バシャバシャ。人の迷惑顧みんと。余りに酷い奴おったらわし、そいつの写真に写り込むのが趣味ですねん。」
○龍・手の甲を見せて、お化けのフリ
(加)「 怖っ」
(龍)「だから頼んます。先生、お願い。何とかして、」
(加)「何とかしてって、(言われても。)」
(龍)「そもそも先生はわしの事、どうやって描き替えるつもりだす。」
(加)「どうやってって。そりゃあとりあえず、」
(N)「加山・さも当然だと言わんばかりにさらっと言ってのける。」
(加)「漆を塗って、白土を塗って。その上から墨で描こうかなと思っているけど。」
(龍)「はい?」
(加)「だからぁ。「漆を塗って。白土を塗って。その上から墨で描こうかな」と思っている。」
(龍)「あぁ…(声にならん声)」
(加)「なんや。」
(龍)「うあぁ…」
○ 間
(加)「…?」
(龍)「はくどって、なんだすの」
(加)「あぁ。白土というのは、読んで字の如く“白い土”。」
(龍)「あぁ…うぅん(また声にならん声)」
○様子を伺う加山
○龍・何となく自分で咀嚼して、
(龍)「あ。要するにあれか。【下地塗って、ファンデーション塗って。アイラインを引く】みたいなものですか。」
(加)「は?」
(龍)「え、ちがいます?」
(加)「いやまぁ。漆を塗って…白土を塗って…墨で描く…」
(龍)「下地…ファンデーション…アイライン。」
(加)「漆→白土→墨(で描く。)」
(龍)「下地→ファンデーション→アイライン。」
(加)「そう言われたら、そんな感じもするけれど。」
(N)「門外漢が、雰囲気で言っている。」
(龍)「ほな、そう言ぃな。分かりにくい。」
(加)「えらい、詳しいな。」
○龍・そうとなれば、閃いて
(龍)「ほな、折角、白粉をはたくんやったら(塗るんやったら。) 色補正とか出来ます?」
(加)「色補正?」
(龍)「コントロールカラーで “赤み”を抑えといてほしい。」
(加)「赤み?」
(龍)「序でに、口まわりのくすみと、顎下のニキビ跡も。」
(加)「ニキビ跡?」
(龍)「ほら、わしここに、薄っすらニキビ跡がありまして。」
(加)「知らんがな、」
(龍)「白土って、ヨレません?」
(加)「は?」
(龍)「崩れません?」
(加)「ん?」
(龍)「伸びの良い、テクスチャー?」
(加)「テクスチャー?」
(龍)「『高保湿』で、『密着感のある』、『きめの細かい“透明感”のある肌』になる?」
(加)「透明感のある肌!?」
○龍・聞いたことがあるような、ないような。美容の言葉を並べ、自分のなやみや要望を伝えていく。(ここ、色々変えてあそんでみるのも良い。)
(龍)「日焼け止め、SPFは、必須。わし敏感肌やから下地だけは心配。…漆、大丈夫?」
(加)「なんの話やねんな」
(龍)「メーキャップの話でんがな」
(加)「平成の『大“描き替え”』の話や!」
(龍)「そんな大きい声ださいでも。」
(加)「なんでそんなに詳しいねん」
(龍)「身だしなみは大事。」
(加)「そうやけど。限度というものがある。」
○加山・誰の事を指しているのか定かではないが、
(加)「…『もう出るで。もう出るで。』と言っているのに、玄関に来てからが、また長い。」
(龍)「誰のこと言うてますのや。せやけどもな、先生。それはなぁ…。代わりに、謝っとく。」
(N)「ごめんなさい、」
(龍)「せやけど、先生。…芸術に時はない。」
(加)「…一緒や。ある程度見たら一緒や。」
(龍)「分かってへんなぁ。先生。
『あぁ、春や~🌸。新作や~。』
『夏や~🌻。新作や~。』
『秋や。🍁 オータムフェアや~♪』
『冬や。⛄️ クリスマスコフレやー!!』
…どうしよう、(試したいコスメが多すぎて、)
…顔、足らん!!」
(加)「なんやそれ」
(龍)「最高やん。」
(加)「似たような物ばっかり、何個も何個も、」
(龍)「先生、お酒での失敗は?」
(加)「は?」
(龍)「何度も何度も、お酒で失敗しているにも関わらず、またお酒を飲む。何台も何台も、車を買い替える人もいるのに。
何個も何個も同じアイシャドウやマニキュアばっかり、買い揃えている人だけが、なんで責められなあきませんのや。」
(N)「そうだ。そうだ。」
○加山・どこかから聞こえる『そうだ。そうだ。』という声に反応するかのように些か、小声で。
(加)「別に責めてはないけど。」
(龍)「お箸が転げても楽しいのは、精々生まれてから十数年程度。その後は、必ずしも“毎回楽しいこと”が降ってくるわけやないんです。」
(加)「だから何や。」
(龍)「だから。『自分から楽しいことを見つけに行く』という心構えが大事なんです。」
○龍・拳を突き上げ、
(加)「はぁ…」
(N)「ここで謎のコールアンドレスポンス。宜しければ皆様もご一緒に。」
(龍)「映画を観終わったら、美味しいものを食べに行くぞー。
(加)「なに?」
(龍)「食べ放題に行く時の戦闘服は、ゴムの付いているスカートだぞぉー!
(加)「はぁ?」
(龍)「もしくは、かわいいワンピースだぞぉー!
(加)「食べることばっかりやないか。」
(龍)「新作だ!新色だ!定番色になったぞぉ!
(加)「…、」
(龍)「皆の支持のおかげで、『殿堂入り』になったぞー!!
(加)「…。」
(龍)「… Let's 購買意欲!!」
(加)「何やねんな、それ。」
(N)「ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。by せおりつひめ (*´∀`)♪」
(龍)「あ、せや。先生。これだけは注文。アイラインだけは、ばっちりキッチリ、引いといてほしい。」
(加)「アイライン?急に?」
(龍)「目が変わるだけで、顔の印象はすごい変わると言いますやろ。何より目はいちばん大事。だからせめて。アイラインはペンシルやなくて、リキッドに。あ、でも、墨で描くならリキッドか。(にやり(。-∀-))」
(加)「うるさいなぁ!」
(龍)「はっ?」
(加)「ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃ…」
(龍)「は~?」
(加)「訳の分からんことばかり言うてからに。」
○龍・倍の力で言い返す
(龍)「この世の中、訳の分かることの方が少ないわ!!」
(加)「はぁ?」
○龍・加山への媚びを忘れ去り、もはや敬語とは何ぞや。
(龍)「少なくとも、わしが経験している限りではな!!」
(加)「やかましいぃ!!この…窃盗犯!!」
(龍)「はぁ~?まだそれ言う?この期に及んで。まだそれ、言う?しつこいわぁ…」
(加)「どっちがや。」
(龍)「さては。」
(加)「なんや、」
(龍)「UFOとか幽霊とか。『目には見えないもの』信じひんタイプやな。」
(加)「は?」
○龍・人に不快感を与える最大級の口調で、はい。どうぞ。
(龍)「そんなんで、よぅ天下の加山又創の名が廃らんのぉ!! その程度の名声やったら、所詮は、“生きている期間限定”じゃ!」
(加)「何やと!?」
(龍)「松年が。」
○一つ間を置く。
(龍)「何のために、廃れていったと思てるねん。」
(加)「は?(なんや、急に。)」
(龍)「曲がりなりにも、自分も画家やろ。考えたことないんか。」
(加)「それは…」
(龍)「あいつは確かにアホやった。気性は荒いし、揉め事は起こすし。」
(加)「何様や。一体。」
(龍)「ちょっと黙れ。」
(加)「… (いらっ、) 」
(龍)「本来であれば。自分みたいなしょうもない画家が入ってくる隙のないくらい。見事にわしの事を描ききる画家やった。せやけど、あいつは自分とは違って、天才的に頭おかしかった。勿論、ええ意味でや。」
(加)「そんなもん。言われんでも、知ってるわ。」
(龍)「…和紙やで。ぺらっぺらの和紙やで。わしもう笑い転げてもうて。洒落とちゃうで。」
(加)「分かってる。」
(龍)「結局最後の最後まで、なんで和紙に描いたのか教えてくれへんかった。でもなぁ。『残るものを残す、さびひんものを残す』のではなく。あえてさびて朽ちていく。『残らんものを残す』と決めたとしたら。どう思う?」
(加)「残らんものを、残す?」
(龍)「ただの、わしの推測や。」
○龍・天井を仰ぎ見る
(龍)「誰もかれもが、目に見えるものに惑わされてしまう。かたちあるものが、移り変わっていくという、この世のいちばん美しい自然現象に。抗おうとする。」
(加)「…」
(龍)「『命は他人の心の中にも、分配されて存在する』 そんなような、似たような言葉、聞いたことないか。」
(加)「さぁな。(あるような。ないような。)」
(龍)「まぁ、ええ。わし、生まれてこの方、『身体から魂ぃ、脱皮したことない』から知らんけど。」
(加)「脱皮?」
(龍)「死んだことないから知らんけど。」
○龍・穏やかに
(龍)「この世の中、訳の分かることの方が少ない。八回もかば焼きにされているのに、わしにも、まだよう分からん。でもな。
『命は他人の心の中にも、分配されて存在する』それが本真やとするならやで。」
○加山・黙って聞いている。
(龍)「その世界に憧れて入って来た“後の方の人間”の中に。自分のおった功績。爪跡。ちょっとでも残したろうと思って。あえて和紙に描いたとしたら。クレイジーにも程があるやろ。」
(加)「クレイジー?」
(龍)「自分が誰に憧れて、その道、選んだか知らんけど。
憧れて、憧れて、恋い焦がれて飛び込んだ世界やったら、その憧れのこと越えて行かんかい。」
(加)「…。」
○静寂
(加)「…(憧れを、越える?)」
(龍)「そうやないと。朽ちていってくれた諸先輩方、本真に忘れ去られて、消えてなくなるで。」
(加)「こわいこと言うな、」
(龍)「まぁ、わしからしてみれば、諸先輩方でも何でもなく、ただのわしのツレやけど。自分等からしたら、故人やろ。
【死んだ人間の為に、生きている者ができることって何やと思う?】」
(加)「は?」
(龍)「わしの知り合いの口癖や。
“死んだ人間の為に、生きている者ができること”
それは経験をすることと、思い出してあげることやって。そいつは言うけど。わしは、もう一個あると思う。」
(加)「もう一個?」
(龍)「夢を共有することや。」
(加)「…。」
(龍)「わし、円相からたまに はみ出るねん、」
(加)「えんそう?」
○見上げて指し示す
(龍)「あの輪っか。青い縁取りみたいなやつ。」
(N)「加山・仰ぎ見て、気付く。その輪の中に龍が収まっている状態が、平和の証という意味に。」
(龍)「たかだか、二桁程度しか生きてないようなやつがよう言うねん。歴史を聞きかじっただけの若輩が偉そうに。
自分が生まれるよりも、前のことを知って。『…こんな時代にうまれたかった』って言いよるねん。」
(加)「…。」
(龍)「哀しなるやろ。せやからわし、“脱皮していったツレ”の代わりにこう言うねん。
『その時代を、創るのはお前自身じゃ。バトンを受け取れぇぇえぇぇぇ!』」
●その瞬間、雷が落ちる。
(加)「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
●真っ暗。
●そして、静寂。
○だが、すぐに明るくなる。
(龍)「どや? 格好いいと思わへん? これ、わしの鉄板。松年と一緒に徹夜して、考えた。」
(加)「貴様、こらぁあぁぁ!!」
○加山・再び、コブラツイストをかける。
(龍)「あイタタタ!イタタタ!! なんでそんなに、コブラツイストかけるの、上手いねん!」
(加)「やかましい。今までの時間を返せ。」
(龍)「無理じゃ、あほ!」
(加)「ちょっと人が心、打たれたら、これか!」
(龍)「ええやないか!イタタタ、タタ!!」
○加山・一応、技を解いてあげる。
(龍)「何やねんな!!この雷おやじ!」
(加)「何とでも言え。」
(龍)「痛~(腕をすりすり)」
○すると加山、ゆっくりと呟くように
(加)「…Climb every mountain (クライム エブリイ マウンテン)というやつか。」
(龍)「は?」
(加)「いや、ウォーターフォール、かもな。」
(龍)「なにを言うてんねん。」
(加)「知らんか?サウンド・オブ・ミュージック。ジュリー・アンドリュースの映画や。」
(龍)「知らん。私のお気に入りや。」
(加)「知ってるやないか。Climb every mountain. すべての山に登れ。」
(龍)「登れ?」
(加)「あぁ。登れ。」
(龍)「登れ、」
(加)「登れ、」
(龍)「登れ。」
(加)「『憧れて、憧れて、』」
(龍)「?」
(加)「『 恋い焦がれて。飛び込んだ世界やったら、その憧れのこと越えて行け。』…ちょっとその曲を、思い出しただけや。」
(龍)「あぁ、そう。…で?自分はどうするつもりや。」
(加)「そうやなぁ。… 」
(龍)「…」
(加)「…、」
(龍)「…、」
(加)「・・・。」
(龍)「・・・?」
(加)「何にも、思い浮かばん。」
(龍)「がんばれやぁ!」
(加)「時間掛かる。」
(龍)「光陰矢の如し、」
(加)「さっき、芸術に時はないとか言うてたやないか。」
(龍)「それは、それ。これは、これ。それとこれとは、また話が、別。」
(加)「はぁ!?」
(龍)「…。」
(加)「睨むな、」
(龍)「…。」
(加)「睨むなて。その顔でこっちを見るな。」
(龍)「失礼にも程があるやろ。それが人に対して言うことか。」
(加)「“人” 言うた。人って言うた。人って言うた。今、認めたな。」
(龍)「言葉の綾や!!」
(加)「ほんなら、なんで動揺してんねん。」
(龍)「誘導尋問や!わし、何もわるいことしてない!」
(加)「もう一層のこと、その柄の悪さ、売りにせぇ。」
(龍)「は?」
(加)「… 、(飽き飽きする)」
(龍)「おい!」
(加)「なんや、」
(龍)「どういうことや。」
○加山・やぶれかぶれに、いい加減に
(加)「目つきも悪い。柄も悪い。態度も悪い。その太々しさ、堂々と。天井一面に描いたらええんとちゃうか。」
(龍)「天井一面に?」
(加)「どこに居っても、目が合うて睨まれているような錯覚を観光客に与えたらええんとちゃうか。」
(龍)「錯覚?」
(加)「所謂、マジックアートというやつや。」
(龍)「どこに居っても睨まれる。…睨み龍。でも睨み龍なんて、全国各地どこにでもあるやないか。」
(加)「どこにでもあるなら、名前でも何でも捻らんかいっ!」
(龍)「はぁ!? (けんか腰)」
(加)「どこに居っても睨まれてるねんぞ。四方八方睨まれてるねん。一層のこと『八方睨みの龍』でいいやないか。」
○龍・顔色が変わる。
(龍)「『八方睨みの龍』。 先生… 素晴らしいっ!!」
(加)「急に 先生言うな。」
(龍)「でも一つだけお願いがあるんですけど。」
(加)「なんや、」
(龍)「アイラインは、濃い目に引いといてくれますやろか?」
完。
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