感想がほしい。
私の恋人の真鍋くんは、社会科の先生をしている。
真鍋くんの事は、今のところだいすきなんだけど (え 今のところ!?)
長くお付き合いをしていると、ときどき うっとうしいなと思うことも当然あるわけで。
「・・・という事だから、ここよく覚えとくように。」
「…へぇ。」
「あ、ごめん。最後のはつい癖で。」
「うん。別に。そこは気にしてない。」
「そこはってことは、どこか気になった!?」
「あ、いや…」
自分がべんきょ-したことを、アウトプットがてら私に説明してくるのだ。授業のデモンストレーションとでも言うのだろうか。う、うっとうしい…実験台(モルモット)ではないか。何がいちばん、うっとうしいかと言うと、話の内容が……つまらない。生徒さんかわいそうという前に、恋人の私かわいそう。白目になっちゃう。
「ちょ、ちょっと休憩しない? つかれた。」
「そうだね。お茶飲む?」
「うん…」
本当、疲れた…。なぜだ。真鍋くんの七不思議。残り六つは追々考えるとして。
普段の話は面白いのに。いや、語弊があるな。座布団がとんでくるような話の構成力があるとか、うんぬんではなくて。真鍋くん自身がもっとゆるくたのしそうなのに。仕事の話(授業の話)になると、
「…で、どうだった!?」
「え うん…」
言えない!恋の魔法にかかっている今のうちは、本当の事は…話つまらないよなんて。そんなの落語家の師匠が、弟子に向かって「おめえの噺は、ここがつまらねえんだ」ってダメ出しをしているみたいじゃない。だめ、言えない。言えないよお~!
神さま~!どうか私に「彼の話がつまらない」という感想以外の感想をください~!
「やっぱ、つまらないよね。」
「ふぇ!?」
「世界史。」
「あぁ…」
そっちか。(気付いてよ)の気持ち半分、(気付かなくて良かったよ)の気持ち半分。生きている人間ですら複雑なのだから、何なら本人ですら本人の事はよく分かっていないのだから。わかりにくくて仕方がない。…と、思う。
「カノッサの屈辱…この辺り、どうやったら、あの子達に興味をもってもらえるかな…」
それは 彼の課題で、仕事だから口出しは出来ない。だけど、
「いちばんの屈辱は、謝った本人より 謝った場所 (カノッサ城)が先に来ることだよね。」
「へ?…」
「え?」
あれ。
「… 」
しまった。彼の顔に。真鍋くんの顔に“驚かれぬる”と記されてある。
「うわーえぇ、あのぉ…」
待って、ぴんち?え、意外とピンチ!?神さま!求めている感想とは違ったみたいだょ。どーする!?
「はっ、【ハイ!謝りますのハインリッヒ4世】でしょ?覚え方、」
「まぁ、一応。」
だったら余計にさ。謝ったのはハインリッヒ4世なのに。
(教科書に載っている歴史的な出来事)【カノッサの屈辱】の
なにが屈辱かと言うと、
謝った本人より
謝った場所(カノッサ城)が
先に来るってことじゃない?
・・・これだ!神さま、ありがとう!(コレデ ホントウノコトはイワナクテスムヨネ!)
「ハインリッヒ4世の謝罪とか。」
「謝罪?」
「ハインリッヒ4世の土下座とか。」
「土下座って。」
「すんませんでしたとか。」
「もはや感想じゃん。」
「あ、」
「なんで関西弁、」
「さあ、」
いちいち理由聞いてくるな。こいつ。
…あ、こいつって言っちゃった。(言ってない、思っちゃった…)
「謝ろうとした日とか。」
「それ、東京03じゃん」
「あのネタ好きなんだぁ」
よし、上手く話が 逸れたみたい。
「本当だね。江戸城で謝れば、江戸の屈辱…」
「え?」
「えっ?」
「それ 大政奉還じゃない !?」
「あっ」
「真鍋くん、日本 ハ、お辞儀の文化だよ。」
笑っちゃった。( *´艸`)
私は今のところ、まだ彼のことが好きなようだ。
今のところ…
クダラナイコトガスキー戯曲【真鍋くんの恋人。~夢ならば覚めないで~】より
日本語訳:小林栄一
≪参考思考≫
(良かったらどうぞ。)