たをやめぶり
【仮名序 (上段)】
この世界には、誰が記したのか分からない作品が存在する。今となっては意味もよく分からない。しかし確実に存在する。そんな話の方が、実は多かったりもする。なぜそんなに多くの物語があるのか。それは人の数だけ物語があり、それはひとり一話ではない。
生きとし生けるすべてのものに、話はある。
鳥はさえずりものがたる。虫も虫なりにものがたる。
蛙は蛙で、飛び込む前と後でものがたる。
人の歴史というのもまた、物語そのものである。
家族の話。恋人の話。友の話。学びの話。隣人の話。怖い話。謎の多い話。得体の知れない話。
巧い否は存在しよう。良き物語は必ずや存在する。同時に否も、存在する。
ここに、編纂されたし物語は、膨大な物語のひとかけらにすぎない。
そう、すべての生きとし生けるものは、会話せずにはいられないのだ。
(現代語訳版: 近年の研究で明らかになっている作者の名前のみ本文にて掲載。 膨大な数のため厳選。)
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『ほそめ。』
孫が言う。
「じいちゃん、老眼?」
「なんで?」
「いつも目を細くしてこっちを見ているから。」
こんな事を言う孫はいない。
しかし、あながち間違ってはいない。
けどね。多分、それだけではないらしい。
クダラナイコトガスキー戯曲
【You are the apple of my eye.】
日本語訳:小林栄
【きみは目に入れても痛くない】
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孫は言う。
「じいちゃん、デメキン?」
「なんで?」
「目ぇ、とび出てるって。」
「どういうことや」
【めでる ≠ デメキン】
クダラナイコトガスキー戯曲【loveは月とも限らない】
日本語訳:小林栄
【 love = りんご。】
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ちはやぶる神代も聞かず、そのぎもん。
寝耳に水なかわいや林檎 (作・柑橘)
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『~虚偽と事実の反復横跳び~』
孫とじいちゃんということで、思い出したことがある。むかし(人通りのすごく多い、) 紀伊國屋という本屋の近くを歩いていたら、目の前に小学生くらいの男の子が、お母さんに手を引かれて歩いていた。
前を歩く男の子は、やたらとちらちら、こちらを見てくる。なんだ?進行方向と逆の方ばかり。そんな息子に母はしびれを切らして言った。
「前向いて、歩きぃな。」
すると男の子はすかさず言う。
「おじいちゃん、おらへん。」
「おじいちゃん、前おるがな。」
見ると確かに、始めからおじいさんらしき人が歩いていた。息子は安堵する。そして片手に母の手を、もう片方の手におじいちゃんの手を握りこう言った。
「おじいちゃん、かげうすい。」
衝撃。後ろで見ていて驚いた。そしておじいさんは大いに笑った。はっはっはっ。はっはっ。
笑うだけ笑うと、言った。
「おじいちゃん、泣いてもええか?」
衝撃。
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こういう事もあった。
紀伊國屋という本屋にいたときのこと。同僚と思われる男女二人が、フォーマルなスーツ姿で、歩きながら話をしていた。男性側が言う。
「俺さぁ、後輩に相談されてんけど。」
「なんて?」
「どうやったら人と上手く、話せるようになりますかって。」
「はぁ~?」
「なんて言えばいいか分からんくてさ。」
すると女性側は人差し指を逆さに、フロアを二度ほど指して言った。
「紀伊國屋来たらええねん。なんぼでも、そんな本、売っとるわ。」
瞬殺。名言。そう、ここはかなしき西の土地。
…西の土地? ここはかなしき?
どこだかなしみ?
嘆きたくなる。本当に?
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『【かなしき】』
うつくしきもの、かなしきもの
かなしくてやりきれぬは
目に入れても痛くないからか
今日も翁は童に目をほそ愛でる
かなしかなしや、かわいや林檎♪
どこだ、かなしみ とこが、かなしみ
なんだ、かなしみ、 その実態。
かわいかわいや。かわいや林檎
さらす手作り布(シ)き若き史記、詩。
多摩川にさらす手作りさらさらに
何そこの児のここだ『かなしき』 東歌
かなしかなしは、かわいや林檎♪林檎のい。
おいらかなしき恥さらす
世界でもっともうつくしきもの
それはおいらの数式 布き、詩。
かなしかなしや、かわいや林檎
君も 御前も この児もおんなし
かわいかわいや、うつくしや
かわいかわいや、かなしかなしや
さらす手作り、月林檎(アイラブユー)
ヘイ! 東Max! ヘイ!
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【見えないところに杭はある】
こんな “大人な”、会話を聞いた。
「…本当あなたという人は、」
笑っている。
「腰が低いというか謙虚というか。」
「とんでもございません。“腰が低い”のではなく、ただの “低身長”なだけですよ。」
「まぁ、うまいこと言っちゃって。」
腰が低い?本当に?そんなことはない。
だってことばの中に…いや、見えないところに杭はある。
それが正しく営業トーク。
だが、子供はそうもいかない。
「ママ?」
「なぁに?」
「身長、低くないよ。」
「そうね、ママと同じくらい?」
「ですかね。」
にこやかな大人。
「・・・胴長?」
クダラナイコトガスキー戯曲【嘆息。】
日本語訳:小林栄 【ダックスフント】
短篇集・上段乃物語(上段)
【真名序 (上段)】
上段乃物語は、やまといちの、無駄の秀才・あほう供によって編纂された、ちょくちょくばかげた物語集である。編纂者には藤原学活、小林栄、柑咲、百済否古都香好(現在でも読み方不明)。以上、上段。
(近年発見されたこちらの作品もまた上段集(上段乃物語)の一部ではないかと言われている。上段。)
ことばの中になにがある?
~Every body 編~ これにて。