良過ぎた!木次線のトロッコと怒涛の車内販売沿線販売祭り
西日本、中国地方。南側の山陽と対になる北側の「山陰」。この山陰、島根県にあるローカル線にはとある観光列車が走ります。
出雲市駅。5月の後半という超中途半端な時期にわざわざ寝台特急に乗って900km以上離れた山陰まではるばるやってきていました。
時系列的には、以下の記事の後になります。
寝台特急の出雲市到着は午前の10時前。比較的早く着くにも関わらず、「前泊」という手段を選んだのはひとえに、「これから乗る列車が寝台特急では間に合わない時間に発車する列車であったから」に尽きます。
早朝から出雲大社参拝RTAをキメた後大急ぎでホテルで朝食をとり、これまた大急ぎでチェックアウトして出雲市駅へ急行しました。急ぎホームに上がると見えたのは……
先頭に凸型の機関車、その後ろに青と白でデザインされた2両の客車を繋ぐこの列車は
奥出雲おろち号
といいます。古今東西、数多く走る「観光列車」の位置付けの列車で、全車指定席の列車。木次線の木次~備後落合を結びます。
が!!!!!
日曜日、備後落合行だけ出雲市駅まで延長運転が行われ、出雲市~木次~備後落合を走ります!わざわざそれを狙い日曜日に合わせて遠く離れた地・出雲市駅までやってきてたのでした。
列車の名前の由来は古事記に記されるヤマタノオロチ伝説。超ざっくり説明すると8つの頭をもつ八岐大蛇をスサノオが退治するという日本神話なんですが、この神話の舞台が木次線の通る奥出雲町なんだそう。
この列車のウリはなんと言っても……
これ!
トロッコ車両、この車両にはなんと窓が付いていません!ですから列車が走ると風がトロッコ列車内に吹き抜ける、たいへん解放感のある列車なのです。
とりあえずあまり時間に余裕が無い状態で来たのでそそくさ乗り込みます。発車。出雲市駅を後にします。
写真に写ってるのは他の鉄道ファンが設置したらしいカメラ。乗務員室を挟まず正面をガラス1枚越しで撮れるので、展望映像を撮るにはもってこいなんでしょう。
列車はひとつお隣、直江駅で停車。
ここで上下方向の特急列車を待避してから先に進みます。山陽線は単線なので特急に道を譲る関係上基本的に普通列車は待たされがちですが、奥出雲おろち号は観光列車のためとりわけ鈍足です。乗客は思い思いに車外に降り立ち、撮影なんかをしていました。
先頭は機関車。トロッコ車両1両を含む客車2両を繋いで走る、日本ではかなり珍しくなった「客車列車」です。
基本的に極々一部を除く大半の列車は、車体床下にモーターを積み架線からの電力で自走する「電車」、床下に内燃機関(エンジン)を積み自走する「気動車」となっており、これは多くの観光列車も同様です。それと対になるのが「客車列車」。機関車が動力となり、動力を持たない客車を引っ張ります。今回乗ってるのはこれにあたります。
コチラ控車。トロッコ車両と同時に繋がれる客車ですが、こちらの席は販売がなされません。この列車はビミョーな天気のときにトロッコの代わりに乗ってもらう目的で繋がれる車両らしいんですが、天気が良くても出入り自由で、トロッコの指定席を持つ人は同じ番号の席を使えます。つまり定員は1両ぶん、トロッコの指定席を+530円で押さえれば控え車含む2席を使えてしまう、贅沢な列車なのです!
そうこうしてるうちに直江発車、庄原停車を挟んで列車は宍道駅に到着。11分停車の後、ここから山陰のローカル線・木次線に入ります。
ここまでは寝台特急も走る路線。東京前夜発にして岡山からの1番列車でもある寝台特急サンライズ号の到着時間は9:45。ですが、この列車の宍道発車はその17分前の9:28。奇跡使っても間に合いません!だから出雲市に前泊する必要があったんですね。
キスキセン……ドコ……?
(答えは左側の廃線か留置線かに見えるレール)
鉄道ファンのカメラがスタンバイするなか、列車は客車を先頭に逆方向へ発車、木次線に入ります。
客車ですが専用の運転台があるので機関車を遠隔操作することができ、客車先頭でも走ることが出来ます。地味にハイテクなんです、この列車。
本来の始発駅である木次まで快速運転、途中駅をすっ飛ばします。トロッコ列車ですので、風がトロッコ車内まで吹き込んできて心地よいです。トロッコ列車は日本全国で走ってて、関東に近いところだとわたらせ渓谷鉄道のトロッコわっしー号なんかがあるんですけど、実はこのトロッコの類いは乗ったことなかったんですよね。なるほどこれなら人気が出るもんだなと思いました。
列車は本来の始発駅である木次駅へ。
ここからヤマタノオロチ伝説ゆかりの斐伊川に沿ってはるばる中国産地の向こう側、広島県は備後落合駅まで向かいます。
全区間通しで絶景が広がるかと言うと微妙なんですが、見所ポイントはすかさず解説放送が流れます。そうそう、見所でアナウンスが入るのもこの列車の注目ポイントなんですよ。
このブログのメインはご飯なので、列車だけの旅なら番外編扱いするんですが、その列車メインながら番外編扱いしてない理由はコレ。
このトロッコ列車、なんと木次から怒涛の車内販売祭り、沿線販売祭りが行われます!!!
沿線業者による車内販売が入れ替わり立ち代わりで車内を周りトロッコの乗客に弁当やスイーツを売ります。これだけでもすごいものですが、なんと途中の駅でも販売を行っており、僅かな停車時間のなかで弁当を購入することが出来ます。専用サイトも用意され、販売予定商品が書かれてるだけでなく予約も可能です!(予約のみの販売もあります)
トロッコ車両は探せば日本にいくつかありますけど、怒涛の車内販売をやってるところは日本中探してもここくらいなものでしょう。おそらく。
トロッコじゃないですが五能線のリゾートしらかみもふれあい販売という名前で沿線業者による車内販売が行われてたりします。が、奥出雲おろち号のそれの勢いはリゾートしらかみの比ではありません。
第一弾は木次乳業。地元で育てた乳牛から採った牛乳やそれを原料に造った乳製品を載せたワゴンで車内を周ります。車内販売第一弾、お値段もお手頃、観光列車という雰囲気も手伝ってか飛ぶように売れていました。
メニュー。メニューに載ってない、牛乳とは関係なさそうなものもワゴンに積んでるようでした。確かビールとかもあったのかなぁ……?買えるのかは確認できませんでしたが。基本は牛乳やアイスの販売です。
沿線販売もそうですが、地元の人たちが駅まで来てお手振りしてくれる光景が各駅で見られ、すごいものだなと思いました。
田村屋のクリーム大福(1コ150円)ととうわりいものスイートポテト
このスイートポテト、車内販売商品を紹介するサイトに載ってなかったのでおそらく期間限定かと予想しますが、これめちゃくちゃ美味しかったんですよね。
本当はどちらか買うつもりだったんですけど、売り子の御姉様が下車する駅になっても50円玉の釣り銭が見当たらないという状況になったのでやむなく両方購入、おつりが出ない買い物にしました。どっちも美味でした。
竹葉の仁多牛べんとう。残念ながら目の前で売り切れました(´・ω・`)
すごいのは車内販売に留まらず、沿線販売も。停車時間は本来30秒とか1分とかそこらだと思うんですけど、この各駅の僅かな停車時間に駅で販売が行われ、トロッコの窓越しに商品を買うことが出来ます!ラインナップの多くはやはり蕎麦。予約した人が多数のようで、◯◯様~と呼んではお金のやりとりが幾度となく繰り返されました。予約多数なんで1分とか余裕でオーバーするんですが、ちゃんと発車を待ってくださいます。
予約無しでも何かひとつくらい買えるかなぁ、とか思ってたんですけど、残念ながらひとつもありつけませんでした( ;ω;)必ず手に入れたかったら予約しようね!!!
見所のひとつ、トンネル
ブワッと風が吹き込み、レールのきしむ音やジョイント音が反射しながら入ってきます。
竜をイメージしたらしいイルミネーション設置されていて、トンネル内では点灯します。こういうのも趣があっていいですね。
列車は出雲坂根駅へ。
ここでは焼き鳥を販売していました。駅のすぐ目の前で焼くので、列車が駅に入ってきたときから美味しそうな匂いがぷわ~んとトロッコ車内に充満し、腹の虫を叩き起こします。
私も1本頂きました。そりゃあ……食べたくなるでしょうよ……
駅には「延命水」という湧水もあり、ボトルがあれば汲むことが出来ます。寿命100年の古狸も愛飲したという伝説が残ってるんだそう。実際延命に効果があるか否かは知りませんが、純粋に美味しい水です。地下水ゆえかよく冷えておりました。
さて、木次線の最大のハイライト。この辺りはなだらかな坂がなく、北から南へ向かうにら車も鉄道もかなり急な勾配を越えなければなりません。その差、なんと167メートル!この急勾配を登るため、鉄道、道路共に違うアプローチでこの急勾配を攻略しています。
出雲坂根駅を出ると、進行方向とは逆向きに出発します。先ほどの線路とは違う方向に延びる線路に入り、高度を上げていきます。
出雲坂根駅が眼下に見えます。
列車は山中の引き込み線で停車。正面に延びる線路がこれまで走ってきた線路、左側に延びるのがこれから向かう線路。鉄道側の急勾配攻略法は「スイッチバック」。線路をZ字状に設置し、ジグザグに折り返すことで高度を稼いで勾配を克服する方法です。
列車の進行方向を変える、という意味でのスイッチバックは日本全国どこにでもありますが、勾配を克服するための山岳スイッチバックは結構珍しい存在。それも全部の列車が強制的にスイッチバックを行わなければならないZ字型のそれは極めて珍しいです。
ここから山肌に沿うようにしてぐるりし次の駅、三井野原駅に向かうのですが、その前にまだ見所があります。
山奥に突如現れる大型の人工物は『奥出雲おろちループ』。これこそが、道路側の急勾配克服方法。八岐大蛇がどくろを巻くかのごとくなループ橋を造って、回転しながら高度を稼いだのです。
列車はこの地点で徐行運転を行うため、この巨大な人工物をじっくりゆっくり眺め、撮影することが出来ます。見れば見るほど、技術力の凄さを感じる構造物です。
奥出雲おろちループを過ぎると、奥出雲おろち号の旅もラストスパート。分水嶺を越え、西日本最高地点にある三井野原駅へ。もう少し勾配を登ると、線路は下り坂に転じ終着の備後落合駅を目指します。
出雲市駅からおよそ4時間弱、長いようですごく短い時間の末に備後落合駅に到着しました。ほんとあっという間でした。
トロッコ列車に乗って、その興奮も冷めきらないままに車内販売祭りが開始。地元の人々に見送られ、トロッコ車両で自然を感じ、見所ではすかさず解説が入り……そして、大自然の空気のなか地元の人々が作ったご当地グルメの数々を頂くことが出来ます。最後まで楽しい列車でした。
残念ながらこの列車は既に余命宣告がなされており、残された時間はあと2年しかありません。今後がどうなるかはわかりませんが、このトロッコ客車の旅は来年で見納めということになります。山陰地区での前泊が必要な列車ということで手軽に乗りに行けないのが難ですが、大変素晴らしい列車なので時間を作ってでも乗りに行って欲しい、というのが私の思うところです。
乗ったばかりですが、もう一度でいいから引退前にまた乗りたいとそう思える列車でした。
そうそう、この列車の控車は急行列車として用いられてた元国鉄客車なので、ノスタルジックな雰囲気が感じられます。鉄道ファン的にもかなりオススメしたいところですね。ただし、そこそこ古いのでお手洗いが狭い和式であることは要注意です。
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