私とパルム・ドール
先日開幕した「カンヌ国際映画祭」___
フィルムマーケットも併せて開催されるため、毎年、世界的な注目を集める一大イベントです。
そのコンペティション部門における最高賞のことは "パルム・ドール" と呼ばれているのですが、今回は、そのパルム・ドール作品についての "note" です。
「カンヌ国際映画祭」にはどんなイメージを持たれてますか?
西欧やアメリカはもちろんですが、東欧や北欧をはじめ、中近東やアジアの作品も選ばれるということもあって、様々な国の多様な文化を感じさせて、エンタメよりも芸術性に寄ってる感じ… まあ、少し敷居が高い感じ… だったりしませんか?
自分自身、映画好きではあるので、「カンヌ国際映画祭」に興味がないわけではありません。
ただ、コンペティション部門にノミネートされている各国の作品や監督たちに精通しているわけではないし、せいぜい、受賞作品や話題になった作品に興味を覚える程度なんです。
そんな距離感の私なんですが、何でしょう、これまでのパルム・ドール作品となると、その中に、すごく魅かれた作品があるのも事実なのです。
監督の作家性が強く感じられるからなのか、気に入った作品があると、その監督の作品を追いかけたくなっちゃうんですよね…
今回は、そんな風に、私にとって印象的だったパルム・ドール作品を紹介していきたいと思います。
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◎パルム・ドール作品とは知らずに観ていた名作
小学校高学年から中学生にかけて、年代で言えば1979年あたりからになるんですが、テレビで放映される映画をよく観るようになって、多くの名画とも出会うことになるのです。
そんな中、後になってパルム・ドール作品だと知った70年代の作品について、まず紹介していきたいと思います。
『スケアクロウ』
※1973年パルム・ドール
監督:ジェリー・シャッツバーグ
出演:ジーン・ハックマン、アル・パチーノ
今では、あんまり観る機会のない作品だと思うんですが、好きな映画です。
ジーン・ハックマンはもちろんですが、若きアル・パチーノがいいんですよね~、その後の活躍も納得なんです。
『タクシードライバー』
※1976年パルム・ドール
監督:マーティン・スコセッシ
出演:ロバート・デ・ニーロ
中学生の頃、多分、月曜ロードショーで観て、理由は定かではないのですが、かなり興奮させられたんです。
私にとって、監督のマーティン・スコセッシを知るきっかけの映画であり、今も大切な映画の一本です。
いつか、また、別の記事になります。多分..
『地獄の黙示録』
※1979年パルム・ドール
監督:フランシス・フォード・コッポラ
出演:マーロン・ブランド、マーティン・シーン
私にとって、コッポラの名作は『ゴッド・ファーザー』の方なんですが、リアルタイムで、テレビ告知等を憶えているのはこの映画です。
そのせいか、ワーグナーのあの曲は、ずっとこの映画のテーマ曲だと思ってました。
『影武者』
※1980年パルム・ドール
監督:黒澤明
出演:仲代達矢
自分にとって、リアルタイムの黒澤監督は、この『影武者』からです。
日本資本での映画製作が難しくなっていた状況だったことや、この『影武者』がルーカスやコッポラの支援を受けていたことも後からの知識です。
◎パルム・ドールを意識するまで
上記の作品は「カンヌ国際映画祭」や "パルム・ドール" であることを認知せずに観ていた作品です。
では、意識したのはいつだったか…
当時、映画誌の "ロードショー" を購読し、地上波の洋画劇場でそれなりの数を観ていた自分としては、目や耳にしていたかもしれませんが、 ”アカデミー賞” ほどの権威は感じてなかったのが正直なところです。
振り返ってみても、記憶は曖昧なんですが、意識したのは、多分、1983年の『楢山節考』だったのではと思っています。
『楢山節考』
※1983年パルム・ドール
監督:今村昌平
出演:緒形拳、坂本スミ子
これは明確に憶えてるんですよね。
授賞式後の、あの騒動もあったのですが、デヴィッド・ボウイや坂本龍一さんも出演していた大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』ではなく、暗~い感じのザ・日本映画みたいな『楢山節考』が選ばれた事が不思議に思えたんです。
こういう土着的テーマの作品が最高賞をとるところが「カンヌ」の懐の深さなんですよね。
自分が「カンヌ国際映画祭」に対して、芸術性に寄ってるイメージを持ったのは、多分、この年の選考結果が印象的だったからだと思います。
さて、自分自身の映画の趣向も、高校・大学生になると、少しずつ変化し始め、むしろ、地上波での洋画劇場では放映されないような地味な(マニアックな)映画にシフトしていくんです。
また、80年代の後半にはミニシアターブームもあって、ジム・ジャームッシュやヴィム・ヴェンダースといった監督たちの名前も知るようになるんですよね。
そして、遡るように観たのが、『楢山節考』の翌年の1984年にパルム・ドール作品だったヴェンダースの『パリ、テキサス』でした。
『パリ、テキサス』
※1984年パルム・ドール
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキー
観た年齢によっては、まったく面白く感じなかったと思われる作品なんですが、「カンヌ国際映画祭」に対する私の関心をとても高めてくれた作品です。
この映画について語りたいことはたくさんあるので、そのうち、別の記事で触れていくことになると思います。
◎リアルタイムで観たパルム・ドール
ということで、自分が最も映画を観ていた80年代後半~90年代前半は、パルム・ドール作品と聞けば、欠かさず観に行ってました。
そんな時代に観た作品では、やっぱ、次の4本が印象的でした。
『セックスと嘘とビデオテープ』
※1989年パルム・ドール
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジェームズ・スペイダー
”セックス” なんて言葉がタイトルに入っていても、恥ずかしさを覚えずに映画館に行けるようになってました。
スティーヴン・ソダーバーグ監督は、26歳でのデビュー作がパルム・ドールですから、かなりセンセーショナルでした!
夫と愛人はセックスでつながり、夫と妻は嘘でつながり、妻とある男性はビデオテープでつながる… という3つの関係を描いた作品でした。
まさか、後日、『オーシャンズ11』みたいなエンタメ作品の監督になるとは、その時はまったく思ってなかったです。
『ワイルド・アット・ハート』
※1990年パルム・ドール
監督:デヴィッド・リンチ
出演:ニコラス・ケイジ、ローラ・ダーン
日本でも『ツイン・ピークス』が話題になっていく最中に公開されたリンチのパルム・ドール作品!
この頃のデヴィッド・リンチは無双してたと思います。はい。
『バートン・フィンク』
※1991年パルム・ドール
監督:ジョエル・コーエン
出演:ジョン・タトゥーロ
90年前後は、ソダーバーグにリンチ、そしてコーエン兄弟と、アメリカ映画3連発でした!(やっぱ元気良かったんですよね。)
この『バートン・フィンク』も傑作です!
でも思い出すのは ”画” の方ばかりで、”物語” の方はあんまり思い出さなかったりします。(←おい)
後の『ファーゴ』や『ビッグ・リボウスキ』みたいにコメディ色も強くないし、『ノーカントリー』のようなクライムスリラーでもなくて、コーエン兄弟としても唯一無二の作品だと思うんですよね。
『パルプ・フィクション』
※1994年パルム・ドール
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:ジョン・トラボルタ、ユマ・サーマン
ソダーバーグ監督が26歳でのデビュー作なら、こちらはタランティーノ監督が31歳の時のデビュー後第2作目です!
2作目なのに、これだけの俳優陣を集められるのも凄いし、その使い方(役柄)も破天荒です。
前年のパルム・ドールが『ピアノ・レッスン』だったのに比べると、えらい違いのようにも感じますが、毎年、審査員が変わるからこその傾向のなさなのかもしれませんね。
ちなみに、この年の審査員には、クリント・イーストウッド、カトリーヌ・ドヌーヴらに混じってカズオ・イシグロもいたらしいです。
◎その後の私とパルム・ドール
その後、以前ほど映画を観なくなった自分なんですが、2000年の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や、2002年の『戦場のピアニスト』など、後になって観たものもありますが、あまりパルム・ドール作品を追いかけたりはしてないんです。
そんな自分が久しぶりに「カンヌ国際映画祭」に興味を持ったのは、2018年のこと…
是枝裕和監督が『万引き家族』でパルム・ドールを受賞した時のことです。
『万引き家族』
※2018年パルム・ドール
監督: 是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ
それまでも良作を作ってきた是枝監督にパルム・ドールをもたらしたのが、『そして父になる』ではなく『万引き家族』だったとこにカンヌらしさを感じてしまいます。
おかげで「カンヌ国際映画祭」にも再び関心を持つようになって、是枝監督には感謝なのです。
特に今年は、努めて映画館へ足を運んでるんですが、観た中で面白かったもののひとつに『落下の解剖学』という作品があるのですが、これも昨年のパルム・ドール作品だったりするんですよね。
『落下の解剖学』
※2023年パルム・ドール
監督:ジュスティーヌ・トリエ
出演:ザンドラ・ヒュラー、ミロ・マシャド・グラネール
フランスの法廷スリラー映画で、本国では2023年8月に、日本では2024年になって2月に公開された映画です。
男性が落下し死亡する事件が起きるのですが、これが事故なのか、自殺なのか、殺人なのか分からない…
この事件について、法廷で様々な証言や検証がされていくのですが、その真実は… という展開です。
『落下の解剖学』というタイトルは、この事件が解明されていくことを指してるのと思いきや、実は解剖されていったのは事件の背景にある夫婦関係の暗部だったという、かなりエグみのある映画でした。
このジュスティーヌ・トリエという監督さんの映画は初めてなんですが、多分、次作も観ちゃうと思います。はい。
こんな風に、新たな映画作家さんたちとの出会いがあるのが「カンヌ国際映画祭」の楽しみなのです。
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さて、第77回カンヌ国際映画祭が開催中ですが、今年は、『バービー』のグレタ・ガーヴィグ監督が審査員長を、そして是枝監督も審査員を務めています。
そのコンペティション部門に、フランシス・フォード・コッポラの新作『メガロポリス』が久しぶりにノミネートされてることが話題ですが、個人的には、昨年、『哀れなるものたち』が話題となったヨルゴス・ランティモス監督の新作『憐れみの3章』を楽しみにしています。
まあ、知ってる監督の新作が楽しみな一方で、全く知らない監督さんとの出会いも楽しみだったりするんですよね。
それがカンヌの楽しいとこなのです。
『メガロポリス』
『憐れみの3章』
(80年代以降のパルム・ドール作品一覧)
(関係note)
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