天に響く岩崎宏美の歌声
私の note では、80年代ポップスや昭和歌謡をテーマにすることが多いのですが、その際は、一定の「カテゴリー」を意識しています。
たとえばそれが「シティポップ」や「80年代アイドル歌謡」、「ニューミュージック」だったりするんですが、時に、どのカテゴリーにも入れづらいシンガーがいるのです。
今回紹介する岩崎宏美さんも、その一人です。
70年代デビューのアイドルであると同時に、その類まれなる歌声により、シンガーとして長く活躍してるんで、カテゴリー分けするのは難しい方です。
ただ、80年代ポップスや昭和歌謡を語る上で、欠かすことのできないシンガーの一人だとも思うんですよね。
そんな岩崎宏美さんのデビューから10年目までの足跡を記事にしていこうと思います。
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■ 10代の岩崎宏美さん 1975~1978 ■
私世代にとっては懐かしの『スタ誕』出身者なんですよね!
デビューは後になりましたが、同じ『スタ誕』出身の森昌子さんや山口百恵さん、桜田淳子さんと同学年だったりします。
眉を見せない "おかっぱ" の黒髪が特徴的で、清楚で素朴なイメージがあります。
キャッチフレーズに "天まで響け" と付けられているように、デビュー当時から歌唱力に定評があり、アイドルであると同時に実力派とも呼ばれていました。
この時期で特筆すべきなのは、70年代のヒットメーカー:阿久悠さんが、デビュー以降、10代でリリースされた14枚のシングルすべての作詞を手掛けていることです。
しかも、そのうちデビュー曲から8thシングルまでは、作曲:筒美京平さんとのコンビなんです。
この稀代のヒットメイカー同士のコンビ曲は意外と見かけないんですよね。
阿久悠さんといえばの沢田研二さんの曲は大野克夫さん、桜田淳子さんの曲は森田公一さん、そして、ピンクレディーの曲は都倉俊一さんとのコンビです。
阿久悠/筒美京平コンビ曲としては、尾崎紀世彦さんの「また逢う日まで」は、すぐ思いつくのですが… 他はパッと思い浮かばないですね。
もしかすると、この阿久悠/筒美京平コンビといえば、実は岩崎宏美さんということなのかもしれません。
「二重唱 (デュエット)」1975.4
作詞:阿久悠/作曲:筒美京平/編曲:萩田光雄
デビュー曲可愛いですね〜。
デビュー時を知らない自分としては、岩崎宏美さんのアイドル時代はあんまりイメージできないんですが、この映像を見るとたしかにアイドルしてます!
でも、やっぱ、歌はうまいですね、16歳には思えないです。
「ロマンス」1975.7
作詞:阿久悠/作・編曲:筒美京平
デビュー年の大ヒットとなった2枚目のシングル「ロマンス」は名曲ですよね~。
この駆け引きのないストレートな感じの恋…
阿久悠さんが描く少女って、きっと岩崎宏美さんそのものだったんじゃないかと思うんですよね。
「未来」1976.5
作詞:阿久悠/作・編曲:筒美京平
17歳時の5枚目のシングルなんですが、この伸びのあるボーカル!… もう、歌唱の部分では完成されてる感じがしますね。
デビュー曲から8thシングルまで、筒美京平さんが連続して曲を手掛けてるんですが、丁度、岩崎宏美さんが高校時代の曲のすべてにあたります。
そんな宏美さんへの曲は、時には弾けるように、時にはディスコチックに、テンポのいい曲ばっかだったりするんです。
この曲でも、そのリズムに合わせた控えめな振りが可愛い過ぎます。
高校卒業後は、筒美京平さん以外の作曲者も起用され、阿久悠さんの詞の方でも、少女から大人の女性へ… というか、子どもでも大人でもない時期を模索してた感じなんです。
そして、11枚目のシングルでは初めてのバラードに挑戦しています。
「思秋期」1977.9
作詞:阿久悠/作・編曲:三木たかし
この時、宏美さんは18歳、切ない失恋ソングを歌い上げる様子は、脱アイドルを感じさせるのです。
そして、10代最後のシングルとなったのが、あの「シンデレラ・ハネムーン」です。
「シンデレラ・ハネムーン」1978.7
作詞:阿久悠/作・編曲:筒美京平
歌番組を見るようになっていた私にとって、この「シンデレラ・ハネムーン」からがリアルタイムの岩崎宏美さんです。
この曲、振り付けも印象的で(私たち世代にとってはコロッケさんのモノマネが刷り込まれてますが…)、多分、それまでの岩崎宏美さんのイメージを一新した曲なんじゃないかと思います。
この曲、10代の締めくくりとして、再び、筒美京平さんとのコンビ曲となってるんですよね。
また、ここまで、阿久悠さんの歌詞は、等身大の岩崎宏美さんをイメージさせるものが中心だったのですが、この「シンデレラ・ハネムーン」では、ちょっと大人びた女性を主人公とした歌になっています。
そもそも「シンデレラ・ハネムーン」というタイトルを私なりに意訳すると、「午前0時になると魔法がとけてしまう蜜月」ってなります。
どうなんでしょ、いつも夜に帰っていく男性って、な~んか隠してることがあるんじゃないかと想像させますよね。
そして、終盤の歌詞の中では、魔法が解けた後の女性が描かれています。
「ひとり爪など切りながら、ため息をついてる」なんて、大人っぽい情景ですよね~
阿久悠さんは、最後のこの曲で、岩崎宏美さんを大人のステージにステップアップさせたんだと思うんですよね。
この曲の後、岩崎宏美さんは阿久悠さんから離れ、20代では、様々な作詞家さんの歌を歌っていくことになるのです。
■ 20代の岩崎宏美さん 1979~1984 ■
私にとっては、リアルタイムで見ていた頃なので、やっぱこの時期の曲が印象的で、けっこう憶えています。
今回の記事に当たって見直してみると、実に様々なソングライターさんが起用されていて、いろんなタイプの曲を歌っているし、歌唱力はもちろん、主人公の女性を演じる表現力についても覚醒していってる感じなんです。
「夏に抱かれて」1979.5
作詞:山上路夫/作・編曲:馬飼野康二
こんなサンバ調の曲も歌ってたんですよ。
岩崎宏美さんって、振り付けのイメージがないんですが、これって、多分「聖母たちのララバイ」とかで記憶が上書きされてるからなんでしょうね。
映像を見直してみると、「シンデレラ・ハネムーン」にしろ、この曲にしろ、けっこう踊ってるんですよ!
余談ですが、中森明菜さんがはじめて『スタ誕』に出た時に歌ったのがこの曲らしいです。
「万華鏡」1979.9
作詞:三浦徳子/作曲・編曲:馬飼野康二
サビがカッコいいんですよね~、大好きな曲です。
珍しくスタンドマイクで歌うパターンの曲で、CMにも使われてヒットしました。
幽霊のような声が聴こえるという噂が流れて、レコードを持ってる友だちの家にみんなで聴きに行ったのも懐かしい…
まあ、そういう噂があったからではないんですが、この曲にはちょっとホラーな迫力を感じます。
鏡に映ったもう一人の自分、幻惑するような手の動き、曲の終盤の重なるコーラスなど、随所に出てくる万華鏡のイメージが怖いほど美しいのです。
「女優」1980.4
作詞:なかにし礼/作・編曲:筒美京平
この曲は、なかにし礼さんの詞だったんですね~、そう思うとタイトルもそれっぽいですよね。w
冒頭に出てくる "モンシェリ" は、フランス語で "大切な人" を意味する言葉で、なかにし礼さんは、思い人に一番綺麗な自分を見て欲しいと、女優のように真剣に恋を演じてる女性を描いてるんです。
そんな女性を軽やかに演じて見せる岩崎宏美さんなのです。
「摩天楼」1980.10
作詞:松本隆/作曲:浜田金吾/編曲:井上鑑
これもスタンドマイクを使うシリーズで、アダルティな印象でした。(衣装も大胆です!)
当時、自分は小学生だったので意識してませんでしたが、今聴くとむちゃくちゃシティ・ポップしてるじゃないですか!
雨と泪で滲んだ街を ♪ 透かし絵の街" と表現する松本隆さんの詞もそうだし、この頃の井上鑑さんのアレンジは、私にとってどストライクなんです!(寺尾聰さんの「ルビーの指環」直前ですが..)
ちなみに作曲の浜田金吾さんって、浜田省吾さんのパロディみたいに見えるかもですが、れっきとしたシティ・ポップなアーティストさんで、近年、「街のドルフィン」が話題になってた方です。( ♫ ドルフィン、ドルファン、ドルフォ~ン ♪ ってやつ)
「胸さわぎ」1981.1
作詞・作曲:松尾一彦/編曲:戸塚修
ちょっとマイナーな曲ですが、当時、オフコースとしても活動していた松尾一彦さんの、記念すべき作家デビュー作です。
ささやくような歌唱部分が多く、 これまでの宏美さんの曲とは違ったアプローチですね。
それでも、宏美さんは、艶っぽくかつ可憐に歌いこなしてるんです。
◇ 草花シリーズ ◇
「デビュー曲B面の『月見草』のような素朴な優しい歌を歌いたい」 という宏美さんの思いから、3作連続でリリースされたシリーズです。
「すみれ色の涙」1981.6
作詞:万里村ゆき子/作曲:小田啓義/編曲:萩田光雄
CMにも使われて大ヒットした曲です。
草花シリーズの第2弾としてリリースされたんですが、実はジャッキー吉川とブルー・コメッツが1968年に発表した曲のカバーだったりするんですよね。(あ、それで "ブルーな恋人同士" って歌詞が出てくるんだ。)
この草花シリーズでの宏美さんは、ほんとうに可憐なんです。
◇ 『火曜サスペンス劇場』主題歌 ◇
岩崎宏美さんのキャリアの中で、外すことのできないのが『火曜サスペンス劇場』の主題歌です。
1982年の「聖母たちのララバイ」をはじめとして、6作品で起用されています。
どの曲もしっとりしてるんですが、優しさと強さが同居してる感じで、個人的には "ララバイ" シリーズと呼びたい曲たちなんです。
「聖母たちのララバイ」1982.5
作詞:山川啓介/作曲:木森敏之、John Scott/編曲:木森敏之
言わずと知れた大ヒット曲なんですが、やっぱ名曲ですよね。
『火サス』のエンディングにピタっとハマっていて、その後も繰り返し岩崎宏美さんが起用されるきっかけとなりました。
"聖母" に "子守歌" ですからね~、当時23歳だった宏美さんなんですが、このにじみ出る包容力は何なんでしょう… 歌声から慈愛を感じさせるんて、岩崎宏美さんぐらいじゃないでしょうか。
「家路」1983.8
作詞:山川啓介/作曲・編曲:木森敏之
「聖母たちのララバイ」が大ヒット過ぎて、続けて『火サス』の主題歌に起用された第2弾です。
もちろん、前作の意匠を引き継いだ造りになってるんですが、私的には「聖母たちのララバイ」以上に好きだった曲なんです。
その理由としては、この曲、サビが2段階になっていて、前サビ部分だけでもすごいのに、後サビでもう一段上乗せしてきて、一体、どこまで伸びていくんだ~!って感じで圧倒されちゃったんですよね。
シンガー岩崎宏美の到達点のひとつだと感じられたのです。
まさに "天に響く" 歌声だったのです。
この『火サス』シリーズのソングライターは、木森敏之さんという、他にも杉村尚美さんの「サンセット・メモリー」や、中村雅俊さんの「心の色」など、心に残る名曲に関わってきた方です。
岩崎宏美さんとも、この後、「橋」や「25時の愛の歌」とコンビが続くんですが、木森さんは40歳で早逝してしまうので、コンビが4作で止まってしまったのが残念でならないんですよね。
◇ デビュー10周年 ◇
デビュー10周年を記念して、デビュー曲「二重唱 (デュエット)」と同じライター陣で制作された34枚目のシングルです。
久しぶりの阿久悠/筒美京平コンビの楽曲です。
「未完の肖像」1984.5
作詞:阿久悠/作曲:筒美京平/編曲:萩田光雄
阿久悠さんの詞は、タイトルも含め、もう岩崎宏美さんへのメッセージなんですよね、そのままです。
また、筒美京平さんの方はというと、静かに始まった後の速いピッチは「二重唱 (デュエット)」と思い出させるんですが、低音から高音までと音程の振り幅が大きくて、それが筒美京平さんなりのメッセージのように思えるんですよね。
多分、たいへんな曲なんでしょうが、それを自然に歌いこなすとこが、宏美さんからの二人へのメッセージに違いないのです。
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岩崎宏美さんのデビュー後10年を追いかけてみましたが、やはり魅力的なシンガーなんですよね。
この後、所属事務所の移籍等もあり、音楽だけでなく、ドラマやミュージカルに出演するなど芸域を広げた活動を行っています。
また、私生活でいろいろあったため、80年代終わりから控えていた活動を1995年から再開し、以降はマイペースに音楽活動も続けています。
自分にとっては、2011年に『みんなのうた』で流れたザ★スリー・ソウル・ピグリーズの「ピンクと呪文」がお気に入りだったので、最後に紹介します。
「ピンクと呪文」2011.2
作詞・作曲・編曲:Bro.KONE
歌:THE★THREE SOUL PIGREES(岩崎宏美、八神純子、花田千草)
楽しい歌なんですよね~。
仲良しの八神純子さんらと組んで、ソングライティングはブラザー・コーンというファンキーな一曲でした。
もっと、聴いてみたかったんですが叶わず…
来年の50周年に向けて復活しないかな… って秘かに期待してるのです。
一応、この記事の関係曲+3曲でプレイリストを組んでいますので、オリジナルの編曲の方でも聴いていただければと思います。
♫