名探偵ポアロシリーズとのつき合い方〈前編〉(続々アガサ・クリスティー)
Hercule Poirot Ⅰ
中高生の頃に好きだったアガサ・クリスティーを、5・6年ぐらい前から再読しています。
できるだけ、ゆっくりと間を空けながら読んでるのですが、とうとうポアロシリーズの長編をすべて読み上げてしまったので、今回は、クリスティーの創造した、この名探偵 ”エルキュール・ポアロ” について ”note” していきたいと思います。
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まず、はじめに言っておくと
◆ポアロシリーズは読みやすくて面白い!
数ある海外ミステリーの古典的なシリーズの中でも、このポアロシリーズは平均点の高いシリーズだと思っています。
長編は全部で33作品もあるのですが、有名作は抜群に面白いし、地味な作品でもそれなりに面白いのです。
また、クリスティー作品全般に言えることなんですが、旧訳であっても、かなり読みやすい部類に入る翻訳ミステリーだと思います。
そのリーダビリティを生み出しているのは、ポアロの捜査方法にあって、ポアロは、様々な事件関係者からの聴取を基本にして捜査していくんですよね。
その結果、会話形式で物語が進んでいくので、最初は登場人物が多いなぁと感じていても、ポアロが一人一人と話していくうちに、登場人物のことについても自然と理解できていくわけです。
海外ミステリーを読んでみようと思ってる方にとって、最初に手にするのには、このシリーズが最適だと思います。
◆魅力的な探偵エルキュール・ポアロ
アガサ・クリスティーの創造した名探偵ポアロは、小柄で、緑の瞳、黒髪、跳ね上がった口ひげがトレードマークですが、シャーロック・ホームズと並んで、世界でもっとも著名な名探偵の一人です。
ベルギー出身の元警察官という設定ですが、第一次世界大戦中にイギリスに亡命し、同国で探偵として活躍することになった感じなのです。
現場検証や科学捜査は警察に任せていて、ポアロ自身は関係者の会話や聴取の中から、真相を導き出していくスタイルが中心です。
読んだ後に考えると、あの場面のあの会話に、そんな意味が紛れ込んでいたのかと驚かされることが多くて、それがポアロの推理の魅力となっています。
性格は、自らの「灰色の脳細胞」により、世界最高の探偵であると自負する自信家ですが、その優れた観察眼、洞察力を生かして、恋のキューピット役を演じることも多く、意外な優しさを持っているのが魅力なのです。
◆ポアロシリーズとのつき合い方
ポアロの出てくる長編小説は33作品もあるのですが、一部を除いて文庫本300~400ページぐらいで、手ごろな長さです。
ただ作品数が多いので、「ちょっと読んでみたい」、「有名作は読んだけど、次、何を読もうか」みたいな人にとっては、どの作品を読んでいけばいいのか悩ましい部分があるんですよね。
それで、私なりに、ポアロシリーズとのつき合い方について考えてみました。
◎シリーズの最初と最後
シリーズ最初の作品は「スタイルズ荘の怪事件」、最後の作品は「カーテン」です。
シリーズを読んでいく上で、この最初と最後の作品は心に留めておいた方がいいと思います。
やっぱり最初は「スタイルズ荘の怪事件」がいいかと思うのですが、読んでないと他が読めないわけではないのでご安心を!
ただ、最後の作品「カーテン」は、舞台が同じ”スタイルズ荘”なので、事前に「スタイルズ荘の怪事件」を読んでおくにこしたことはありません。
◎シリーズ代表作(有名な作品)
もっとも有名なのは、2度、映画化(国内でもドラマ化)された「オリエント急行の殺人事件」だと思います。
また、今でも名作とされているのが「アクロイド殺し」、また、「オリエント急行殺人事件」と同様に、ケネス・ブラナー主演で映画化された「ナイルに死す(ナイル殺人事件)」、そして、その後のミステリーに多大な影響を与えた「ABC殺人事件」が続く感じです。
有名作から始めたい方は、ここらあたりが基本になります。
◎基本は、どこから読んでも問題なし
ポアロシリーズはすべて単独作品であり、前巻を読んでないと進まないということはありません。
もちろん、過去に会った人物と再会することや、以前の事件が回想されることはありますが、それほど問題にはなりません。
なので、最後の作品である「カーテン」以外は、どこから読んでも問題はないのです。
以上のことを前提にしながら、何を読もうかと迷う方への個人的なお薦めとしては
◆まずは1930年代の作品を!
1930年代に発表された作品は#6~17の12作もあって、質・量ともに充実しているのが、この年代の作品なのです。
1920年にデビューしたクリスティーですが、20年代は私生活でもいろいろあって、作風が安定してない印象があります。
もちろんデビュー作の「スタイルズ荘の怪事件」や「アクロイド殺し」という重要な作品もありますが、専業作家となり、執筆に集中していた30年代の作品の方が安定感は抜群です。
30年代は、ミステリー史上でも黄金期と呼ばれる時代であり、数々の名作が現れた時期でもあります。
ポアロシリーズにおいても、既出の「オリエント急行の殺人」、「ナイルに死す」、「ABC殺人事件」など、傑作と呼ばれる作品が次々と発表されたのです。他の作品も粒ぞろいなので、迷ったら、まず、30年代の作品を手に取ってみてください。
基本的にポアロが活躍する舞台はイギリス国内なのですが、30年代の作品では、ポアロもまだ元気なせいか、いろんな国へ行って事件を解決しています。イスタンブールから列車に乗り込む「オリエント急行の殺人」をはじめとして、中近東を舞台とした「メソポタミヤの殺人」「ナイルに死す」「死との約束」の3作品は、特に個人的な好きな作品だったりします。
<中近東を舞台にした作品>
「メソポタミヤの殺人」(1936)
結末としてはオーソドックスなパズラーなんですが、遺跡調査団という独特の閉ざされた世界での事件はとても面白いです。
発表時期は前後していますが、時系列としては、この事件の後、ポアロは「オリエント急行」に乗り込むことになります。
「ナイルに死す」(1937)
「オリエント急行の殺人」と同じく2度映画化されている名作です。個人的にもシリーズの中で一番好きな作品です。
シリーズ中、一番厚い(長い)作品で、事件が起きるまで、かなりのページが進むのですが、舞台となっている豪華クルーザーの歩みのように、ゆったりと楽しむのが正しい作品なのです。
展開は、これぞクリスティーといった感じで、他の作品でも見られるパターンなんですが、やっぱり騙されちゃうんですよね...
「死との約束」(1938)
もう、冒頭から引き込まれる展開なのですが、登場人物全員に動機があって、読む側もあれこれ推理しちゃうんですが、なかなか真相にはたどりつけないのです。
これもまたクリスティーって作品なのです。
先日、三谷幸喜さんの脚本でドラマ化もされてましたね。
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ポアロシリーズになると、なかなか、書きたいことがいっぱいあるので、残りは〈後編〉に続きます。
〈後編〉では、もう少し、マニアックなポアロシリーズの楽しみ方について、紹介していきたいと思います。
(関係note)
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