「魔法の瞳」物語(本日は大滝日和なのです。vol.4)
2021年以降、大滝詠一さんに関して、毎年3月21日に投稿してきた ”大滝日和” も4回目となりました。
今年は40周年記念盤がリリースされた『EACH TIME』がメインの記事となります。
『EACH TIME』1984.3.21
『EACH TIME』は、大滝詠一さんがソロ名義になって6枚目のスタジオアルバムであると同時に、最後のスタジオアルバムとなってしまった作品です。
前作の『A LONG VACATION』と同様に大ヒットしたアルバムなんですが、リリース後も調整が継続され、バージョン違いの曲も多く、また、曲順の変更が繰り返されてる特異なアルバムなんです。
ちなみに、自分が当時聴いたオリジナル盤では、アルバムの一曲目だったのは「魔法の瞳」なんですが、実は、この曲の位置が安定しないんです。
今回は、そんな「魔法の瞳」を主人公にして、曲順の変遷を追いかけていこうと思います。
「魔法の瞳」
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この物語は、大滝詠一の最後のスタジオアルバム『EACH TIME』の収録曲である「魔法の瞳」が、時代の流れや運命に翻弄されながらも、自分らしさを失うことなく、自らの存在を信じ続けた記録である。
ナレーション:芥川隆行
「魔法の瞳」物語
-1985年-
その時、「魔法の瞳」は一抹の不安を感じていた。
「魔法の瞳」といえば、 大滝詠一氏の待望のニューアルバム『EACH TIME』のオープニングを飾る曲だと知られている。
軽快でキラメキがあると同時に、"歌始まり" であることや、冒頭のハープが奏でる響きが、これから始まる『EACH TIME』という寓話世界へ誘ってるような曲である。
アルバムのオープニングに相応しい曲、と「魔法の瞳」自身もそう考えていた。
けれど、この時、「魔法の瞳」には不安に思っていた。
全9曲で構成された『EACH TIME』だが、レコードとしての収録時間や構成上の理由から未収録となっていた曲があった。
今回、そんな未収録の2曲を加えて、新たに完全版を制作する噂を聞いたからだ。
全部で11曲構成となるため、収録時間のことを考えると、他の曲を短くするなど、手が入る可能性があると「魔法の瞳」はそう考えていた。
そもそも『EACH TIME』はシングル曲を含まないというコンセプトで制作されたはずなのに、その後リリースされたシングルが好評だからといって、今さら追加するというのは得心がいかない…
もちろん、その2曲の優秀さは、十分、分かっているのだけれど、「魔法の瞳」としては、それが正直な気持ちであった。
「バチュラー・ガール」
「フィヨルドの少女」
-1986年-
噂どおり、未収録だった「Bachelor Girl」と「フィヨルドの少女」を追加した『Complete EACH TIME』が1986年の6月にリリースされることになる。
一部の曲に調整が入ったものの、「魔法の瞳」が心配していたような大きな変更は行われなかった。
ただ、別の部分で「魔法の瞳」は驚くことになる。
思いもよらず… 曲順が変更されていたのだ。
『Complete EACH TIME』1986.6.1
曲順を知った時、「魔法の瞳」は言葉を失った。
一番手だった自分の出番が三番手に変更されていたからだ。
「なぜ?」
と「魔法の瞳」は思わず口に出した。
新たに追加された「Bachelor Girl」と「フィヨルドの少女」の位置は想定内だったが、自分の順番が変更された理由は分からなかった。
たしかに、今回、一番手となった「夏のペーパーバック」は、チェンバロの音も軽やかに爽やかだ。
多分、リゾート感でいえば自分より上だとは思っていたが、冒頭の曲としては穏やか過ぎるように思えた。
大滝詠一氏だから、意図があってのこととは思うが、「魔法の瞳」としては複雑な心境だった。
-1989年~1991年-
80年代後半は、レコードからCDへ急速に移行していった時代で、そのことも様々な『EACH TIME』を生む一因となっている。
『Complete EACH TIME』自体もCD化されていたものの、限定生産的であったのか、1989年には再度『EACH TIME』のCDがリリースされることになる。
「魔法の瞳」は、その曲順を知って、さらに絶望の淵に突き落とされる事となった…
『EACH TIME:1989年盤』1989.6.1
1989年盤に「魔法の瞳」の名前は無かった…
ショックだった…
メディアがCDとなって、収録時間にゆとりがあったはずなのに、全9曲に控えられ、自分と「ガラス壜の中の船」が外されていた。
自分の存在意義が無いと言われたようで、どうすればよいのか分からなかった。
ただ、幸いだったのは、1991年には廉価盤の ”CD選書” がリリースされ、この1989盤が世に出ていた期間が短かったことだ。
CD選書では収録曲や曲順がオリジナル盤に戻されており、再び「魔法の瞳」はオープニング曲となっていた。
コレクター向けの『Complete EACH TIME』や、短命だった1989年盤は普及したとは言えず、一般的なファンにとっては、レコードのオリジナル盤やCD選書こそが『EACH TIME』だった。
そのため、「魔法の瞳」は『EACH TIME』の一番手というのが世間一般の認識だった。
そのことは、傷心だった「魔法の瞳」の慰めとなったが、一度 ”外された” という事実は、その後も、長い間、「魔法の瞳」を苦しめることとなった。
-2004年-
あの1989年盤がリリースされてから、15年が経過していた。
CD選書盤のおかげで、世間一般では「魔法の瞳」は変わらずオープニング曲であり続けていたが、自分が外されたという事実を忘れる日はなかった。
ただ、2004年になって、その思いからようやく解放されることになる。
『EACH TIME』の発売20周年に併せて、記念盤が制作されたのだが、その中で「魔法の瞳」は無事に復帰していたからだ。
『EACH TIME:20th Anniversary Edition』2004.3.21
ただ、曲順は九番手…
「恋のナックルボール」と入替えられた形で、初めての後半組である。
ひとつ前の曲は「ペパーミント・ブルー」…
アルバムジャケットの色使いからも『EACH TIME』の代表曲と言われていて人気の高い曲である。
また、次曲の「レイクサイドストーリー」は、「フィヨルドの少女」に最終ポジションは譲ったものの、アルバムの掉尾を飾る実質的なエンディング曲だ。
この2曲にはさまれることに不安が無かったわけではない。
効果音がふんだんに使われ、アルバムきっての個性派「恋のナックルボール」ならまだしも、自分では役不足のような気がした。
けれど、そんな不安よりも、ここに戻って来れた喜びの方が大きかったのも事実だった。
今回の20周年記念盤は、 大滝詠一氏によって「Final」と銘打たれていた。
これで確定だと思うと、今までの悩みも、どうでもいいことのように思えた。
「ペパーミント・ブルー」
-2014年-
そして10年後の2014年には30周年記念盤が制作されることになる。
前作で「Final」と銘打たれていたが、「魔法の瞳」は九番手から前半組の四番手に変更されていた。
ちょっと驚きはしたが、とまどいの気持ちは全く無かった。
むしろ、曲順を知った時、 大滝詠一氏らしいと感じて、笑ってしまったほどだ。
今度は「木の葉のスケッチ」に続くポジションとなったが、同じハープが使われている「木の葉のスケッチ」の後に位置するのは心地良かった。
そういう意味では落ち着けるポジションだった。
『EACH TIME:30th Anniversary Edition』2014.3.21
今回の30周年記念盤は「Final Complete」と冠されると聞いた。
昨年末、急逝された 大滝詠一氏自身が銘打ったのだろうか?
何となく 大滝詠一氏なら、天国からでも手を加えてきそうな気がして、本当に最終盤になるのか疑わしかった。
でも、それはそれで楽しそうだとも思って、また笑ってしまった。
-2024年-
さらに10年が経った。
その間の2021年に解禁された各音楽配信サービスでは30周年記念盤が採用され、新しいリスナーにとって、自分は『EACH TIME』の四番手だと定着してきたところだ。
そして『EACH TIME』も40周年である。
いつものように企画盤が制作されているが、今回はボーナストラックとしてではなく、新たな曲が追加されるそうだ。
当然、曲順にも手が入るのだろうが、今度は、どの位置に持って行かれることやら…
時々、スタッフから、「いろいろ動かされて大変ですね。」と、声をかけられることがある。
でも、いろんなポジションで使われることは、正直、嫌というわけじゃないのだ。(外されるのは嫌だけど..)
だから40周年記念盤で、また、位置が変わっていたとしても問題はない。
ただ、同じように「大変ですね。」と声をかけられることがあれば、今度は、こう答えようと「魔法の瞳」は考えている。
「大丈夫、毎度のことですから!」と…
(おわり)
※40周年記念盤で、「魔法の瞳」がどの位置になったのかは、こちらのトレーラーで確認願います。
『EACH TIME 40th Anniversary Edition』TRAILER
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『EACH TIME』の収録曲や曲順には、ほんと、いろんなバージョンが存在していて、私では網羅しきれないのが正直なとこです。
本記事では曲順に絞ってるんですが、それでも『EACH TIME SINGLE VOX』など、見ないふりをした企画盤があることをご了承ください。(全てを網羅するのはコレクターの方たちにお任せです。)
年1回の計4回に渡って書いてきた "大滝日和" なんですが、一応、今年で一段落となります。
次に書くとすれば『A LONG VACATION』の50周年記念の時となりますが…. 2031年ですからね~
まだ、note 続けられてますかね?…
("大滝日和"関係 note )
♫
(もう一つの物語)
「レイクサイドストーリー」の密やかな願望
「レイクサイドストーリー」は不満に思っていることがあった。
もともと、レコードのオリジナル盤では、アルバム『EACH TIME』のエンディングという大役を任されていた。
その後「フィヨルドの少女」が追加され、「レイクサイドストーリー」は最後から二番目の曲となるのだが、そのことについて不満があるわけではなかった。
「フィヨルドの少女」は、コンサートでいえば "アンコール" 的な位置づけであり、『EACH TIME』世界での本当のエンディングは変わらず自分であるという自負があったからだ。
不満に思ってたというのは、実は曲の終わり方の変更部分だった。
レコードのオリジナル盤では、曲がフェードアウトしていきながら、最後にもう一度盛り上がるフィナーレ部分があったのだが、後ろに「フィヨルドの少女」が来てからは、それが単なるフェードアウトのみに変更されたのだった。
「レイクサイドストーリー」は、最後に盛り上がるこのフィナーレ部分が気に入っていたのだ。
一曲目の「魔法の瞳」がファンタジックな雰囲気で幕を開け、最後に、自分の大団円的なフィナーレで幕を閉じる。
それが完璧な構成だったと思うし、それこそが『EACH TIME』の世界観だと思っていた。
ただ、ごく一部の企画を除き、元のフィナーレ付きのバージョンが使われることは無かったのである。
…そういえば「魔法の瞳」はどんな気持ちだったんだろう。
ふと「レイクサイドストーリー」は考える。
「魔法の瞳」は、どの曲よりもポジション変更された曲だ。
最初は一番手、次に三番手、時には外されたり、さらに自分と前後する位置まで下がってきた時もあったが、現在は四番手で落ち着いている。
内心、穏やかでは無かったと思うが、変更の不満も口にせず、与えられたポジションをそつなくこなしているように見えていた。
40周年記念盤の話題が聞こえてきてるが、また「魔法の瞳」の位置が変わるらしい、まるで 大滝詠一氏が天国から指示してるような感じだ。
大変だなと思うと同時に、もしかしたら、そのうち「魔法の瞳」が一番手に戻される日が来るかもしれないとも思う…
その時は、自分もフィナーレ付きのオリジナルバージョンになって、あの完璧な構成が再現できるといいなと、「レイクサイドストーリー」は、ひとりで思っていた。
(おわり)
「レイクサイド ストーリー」
フィナーレ付きオリジナル盤バージョン
※最後の1分に設定しています。
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