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【architecture】ベンガラの街
私は岡山県高梁市という山奥の小さな街で生まれた
岡山駅から電車で1時間ほどの山と川に囲まれた自然と歴史の残る街である
以前私のnoteでこの高梁市という街について紹介したことがある
ここから更にバスで1時間ほどの山奥の僻地に吹屋という街が存在する
ここはかつて銅山の街として栄えた
江戸時代中期から鉱山開発がはじまり、明治時代には三井財閥の岩崎弥太郎によって近代経営が行われ日本三代銅山として発展し昭和40年ごろまで繁栄した
ここで採れた硫化鉄鉱石を酸化・還元させて人造的に製造したベンガラ(弁柄)の日本唯一の巨大産地として繁栄を極めたのだ
ベンガラは赤色顔料で美しい朱色の塗料である
耐熱性・耐水性・耐光性・耐酸性・耐アルカリ性のいずれにも優れており、安価な上無毒で人体にも安全なため非常に用途は多い
この吹屋地区はベンガラを混ぜた漆喰とベンガラで塗られた格子、石州瓦の朱色に染まった街並みで出来ている
屋根、壁を朱色に統一された街並みは古さの中に普遍的な色の美しさを感じる
人工的な赤とは異なりベンガラの朱色は自然の色の独特の味がある
吹屋のHPを添付しておいたので是非訪れてもらいたいところではあるが、「じゃあ行ってみようか!」となるような場所ではない
岡山県民でも億劫になるほどの秘境である
しかしなぜこんな場所に!と思われるほど突然美しい街並みが出現する
ちなみに吹屋には広兼邸というベンガラで財を成した邸宅があるが、ここはかつて映画『八つ墓村』のロケ地として使われた
時を戻そう
先日メキシコの建築家ルイス・バラガンを紹介したが、バラガンもメキシコという地元に根ざした色文化を建築で表現した
吹屋はデザインというよりもむしろその地で採れた資源を用途に合わせて多様することで生まれた街である
いずれにせよ地域性によって生まれる色文化が成した建築に違いない
バラガンの色建築は、日本でやってもうまくいかないだろう
それはメキシコ特有の気候風土が関係して選ばれた色だからだ
吹屋にとってベンガラは生活の一部である
これを住まいに用いることはこの地の住民にとっては必然であった
暮らしに根付いた色で出来上がった街並みと言える
私は色を建築に取り込むのが苦手である
壁一面だけ色を変えたいという要望をよく聞く
色を選んで欲しいと言われてしまうと、ちょっとビビってしまう
いつか色をテーマに建築をつくってみたいと思うが、敢えて今使うのであれば自分の生まれ故郷で採れたベンガラを使ってみたい
この自然の塗料がどんな世界観をつくり出してくれるのか楽しみである