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日本の食糧援助絡みのいろんな話(4)
さて、今日は
「日本の食糧援助絡みのいろんな話(3)」で
予告させて頂いたとおり
日本の食糧援助に於けるちょっと興味深い
入札方式について綴ってまいります。
通常、入札というと、
値段で競い合うものですよね。
ところが
日本の食糧援助の場合は
わけが違います。
まず、こちらをご覧下さい。
↓
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これは「日本の食糧援助絡みのいろんな話(1)」に
貼り付けた JICSさんの PDF からの抜粋ですが、
このフローチャートの
「閣議決定」でその年の供与額が採択され、
「政府間合意」において
先方政府にその年度の供与額が伝えられ、
交換公文(Exchange of Notes = E/N) が交わされます。
この公文により定められた金額は
E/N額と呼ばれ、
この案件に係る入札の上限額となります。
そして...、
食糧援助の入札の場合は、
この金額が開示されてしまいます。
入札の上限額が開示されてしまうということは、
何を競うのかというと、
お米の量
ということになります。
ここまでに既に説明してきたとおり、
ミニマムアクセス米は、
日本各地の備蓄倉庫に貯蔵されています。
応札者である日本の商社は、
どことどこの倉庫からどれだけのお米を
どの運送業者でどのようなルートで
どこに運ばせ、どのような処理をし、
どこの港からどこの船で運ばせるか等々、
いわば「ロジスティック・パズル」を行って、
一袋でも多くのお米を相手国へ調達できるかを競います。
もちろん E/N 額に対して残額が一円でも少ないことも大切です。
ですからプロポーザルに組み込まれた
コメの内訳を見ると、
「○○県○○倉庫から〇トン」、
「○○県○○倉庫から〇トン」、
ときて、
最後の最後に
「○○県○○倉庫から1袋」
といった帳尻合わせが見受けられることも多々あり、
横から見ているだけの私などからすれば、
非常に面白いと感じるものなのです。
🌾🌾🌾🌾🌾
このようなシステムだと知った時は、
ロジパズルなら、ちょっと楽しそうだなどと
うっかり思ってしまったのですが、
商社としてみれば、
ODA案件としては極めて小規模の
1件あたり3億円~7億円程度の案件である上、
扱う荷物が
袋詰めされた米などという小間物であり、
しかも
先方政府が 30kg 以下でないと困る等々
規定外の重さの袋を要求した場合などは
元々の生産国から入ってきた状態からの
詰め替え作業が必要になりますし、
そうでなくても
手作業での ODA マーク入りシールの貼付けなどという
面倒な作業もあります。
ステッカーは日の丸の下に
「From the People of Japan」と書かれたもので、
↓
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こちらの船底作業の写真からも分かるように、
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作業する横から曲がったり、剝がれたりしてしまうこともあります...。
とにもかくにも
煩雑な業務が多く、
利益の薄い仕事なのですが、
それでも大手商社がそれに対して
毎年応札・受注をし続けるのは、
勿論、国家のお仕事をしているということによる
会社の信用度を確保するといった側面もあるでしょうが、
何より
国のお仕事だからこそ
取りっぱぐれがないということが決め手のようです。
この点については、
被援助国家に日本国の爪の赤でも飲ませたいものです。
なにせ
多くの途上国では、自国の商社も建設業者も
「国の仕事は取りっぱぐれが多いから、
出来ることならやりたくない」
と言うのが当たり前だったりしますから…。w
いずれにせよ、
煩雑であるという点といい、
先方側のロジの要領の悪さといい、
とても新参者が突然参入できるような類の仕事ではないので、
これが成り立っているのは
日本の大手商社さんのおかげとも言えるのです。
🌾🌾🌾🌾🌾
ちなみにこの特殊な方式の入札会は、
相手国が慣れていないうちは
日本で開催されますが、
相手国が慣れて単なる「恒例行事」になると、
現地で開催されることもあります。
アフリカポルトガル語圏の場合、
現地で開催されるとなると、
各商社は南アなどの近隣諸国の事務所から
代表者を送り込むことになります。
私は、この食糧援助(KR)の姉妹スキームである
食糧増産援助 (KR2 又は 2KR) の
アンゴラでの現地入札会に
通訳として参加したことがあるのですが、
そのときの応札商社は3社で、
いずれも南ア事務所からの
代表者が2人ずつ出席していました。
冒頭、各出席者の自己紹介があるのですが、
それを聞きながら、
私の目が点になりました。
なにせ
南アフリカから来た代表者は
いずれも非日系の欧米系、もしくは
白人と黒人のハーフ系の人達だったのですが、
6人全員が、
それぞれの会社の特色を絵に書いたような
人物だったのです。
というのも実は私、
国際協力の世界で仕事をさせて頂くようになるまでは
あちこちでポルトガル語教師をしておりまして、
その一環で
それら大手商社の若手社員の
海外語学研修の渡航前短気講座なども
多く担当させて頂いていた関係で、
各社の特性をよく知っていたのです。
そのときの参加者は、
①
「幼少の頃から父の仕事の関係で北米や欧州各国に
住んだことがあるので、
英語、フランス語、ドイツ語はできるので、
今度はポルトガル語を学んでみようと思い、
ブラジルを希望した」
といった経歴の持ち主ばかりで、
あまりにも飲みこみが早いので、
教えるこちらが悲鳴をあげることになること必至の
別格商社系サラブレッド揃いの A社、
②
自らの経歴にはあまり触れず、
不器用な私が
「そんなこと、とうに分かっている」
と思われるであろうことを
ぐだぐだ言ったとしても、
あくまでも、私に合わせてくれる
ひたすら品の良いジェントルマン揃いの B社、
③
オーバーワークが当たり前で
他社がこの研修期間は
それのみに専念させてくれるのに
通常業務をこなしながらの受講で疲労困憊の
大阪商人気質揃いの C社、
といった顔ぶれで、
日本人であれば却って分かり辛いような気がするのですが、
個性を前面に出すし、
容姿も印象的な非日系人であるからこそなおさら
「絵に画いたような会社のカラー」を
前面に押し出したような6名で、
笑いをこらえるのに苦労したとともに
日本の会社の個性、恐るべし!
と心底思った一件でした。笑
🌾🌾🌾🌾🌾
次回は
内戦末期のアンゴラで
KR米を扱う倉庫オーナーへのインタビューが
印象に残っているので、
それについて書かせて頂こうと思っております。
本日もお読み頂き、誠にありがとうございました!
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※ 「取るぞ!」否、
「飛びつく子ねこ」はこたつぶとんさんの作品です。