大和言葉の表情、その専用手帳〜手帳の佇まい(28)
朝日新聞夕刊のコラム「素粒子」を書いていた真田正明氏は著書「200字文章術」の中で、文章力を鍛えるコツは名文を読むことと記しています。
僕は十年度前から、朝日新聞の「天声人語」のフレーズをシステム手帳に書き記しています。
「天声人語」書き写し専用のノートも市販されていますが、僕の場合は、その日の全文を書くのではなく、過去掲載文の中から、自分の琴線に触れた名文フレーズをシステム手帳に書いています。
具体的には、バイブルサイズのリフィルに、万年筆(PARKER51,ブルーブラックの文字)でしたためています。静寂の部屋でひとり、熱々の珈琲を飲んでから、気を集中させ、心を込めて書くのです。そのリフィルを、20年近く前に買ったfILOFAXの「KENDAL」に収めて、時折読み返すのは至福の時間です。
新聞のコラムでは、読売新聞の「編集手帳」も日経の「春秋」も好きです。最も大切にしているのは、2007年4月から2013年3月の間の「天声人語」。特に冨永格氏の文章。東日本大震災を挟んでいる時期ゆえに、わが国の甚大な爪跡も含め刻まれています。その道程にあって、筆者の、大和言葉の選択眼と抜群のセンスが極まる文章表現力、温かく柔らかな眼差しが残されています。
こうした名文を万年筆で記すとき、自ずと背筋が伸び、鼓動が高まり、深呼吸しながら、一語ずつ紡いでいきます。手前味噌ですが、ページに記した自分の文字が生きている感じがしてくるから不思議です。
この手帳KENDALは、僕にとって神聖なる場所。ウェット感ある上質レザーは、束ねるページの内容と相性が抜群だと思っています。
これからもこの手帳を熟成させて、一緒に我が文書力と精神を磨いていきたいと思います。
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