この季節の色〜手帳の佇まい(16)
頼り甲斐のある、どっしりした人。
昭和の刑事のようなこわもて、
でも朗らかな優しい表情も、
仁義もある人だった。
3年間僕とコンビで仕事をした彼は
4年前、異動していった。
3年という短い季節で
終わるはずではなかったが
結局、上司である僕が守れず
彼は去るに至ったのだ。
異動。
別れと出会い。
今年もこの時期を迎え、
街の景色だけでなく
職場の風景も、色合いが変わる。
そういう意味では、
別れと出会いは桜色。
もう何年こんなふうに
過ごしてきただろう。
この季節になると、
あの刑事のような彼と
一冊の手帳が僕の心をよぎる。
この手帳、fILOFAXのCROSS。
チョコレート色のタフネス。
2010年から僕の
マンスリーカレンダー専用の一冊。
ASHFORD製のリフィル。
何月かひと目で判るよう
INDEXが鮮やかで
白と淡いブルーが目に優しい。
この11年の1日ごとのスケジュールが
縦横約2.5センチの枠に書き込まれている。
雑な走り書きの単語を見るだけで
様々な一期一会が蘇る。
僕は四半世紀、異動を経験してない。
人を見送り、迎えるばかり。
人の背中を見るのに、慣れはこない。
切なく濃厚な思い出、
彼、彼女の横顔は単一ではない。
楽しかった思い出も、無力感と後悔も
全てないまぜになる。
冬を見送り、桜色。
巷では、溌剌とした芽吹きの季節。
僕にとっては焦げ茶色。
少しビターなチョコレートブラウン。
顧みて反省し、
手帳の中の彼へとささやく。
「ありがとう」。