燻銀の微笑み、名優の名言。合掌
すっと画面に登場するや
途端に圧倒的な存在感が広がる。
名脇役にして強烈な、
燻銀の輝きがあった。
昨年の12月30日に
俳優の綿引勝彦さんが膵臓がんで
逝去されていたとの報道。享年75歳。
一見、Mr.コワモテ。
でも厳しく険しい印象がある分だけ
ひとたび微笑むと
限りなき優しさが満ちてくる。
その笑顔は絶大なる信頼の証。
そして何といってもあの渋い声。
聴く者の心の奥に響き轟く声。
あれ程の説得力を帯びる声は、
他の追随を許さない程。
TVドラマ「鬼平犯科帳」で
僕の好きな巻は大抵、
綿引さん演じる
大滝の五郎蔵親分が活躍している。
特に「一寸の虫」という巻。
五郎蔵親分が鬼平の密偵の一人、
仁三郎(寺脇康文さん)の悩み相談を受けるシーン。
鬼平の同じ隠密として働く五郎蔵親分。
泥鰌鍋をつつきながら言う
「辛えだろうな、分かるよ」と。
仁三郎が、大滝の親分程の人でも
悩みはあるのですかとの問いに、
「自分も同じださ、張子の虎さ。
人生にはなんとも辛いときがある。
そんなときは、自分を勘定から外すことだ」
けだし名言。この言葉で仁三郎の、
心の霧が一瞬に晴れていく。
自分を勘定から外す
=執着を捨てれば身軽になり、
=妄想や雑念から解放される
火付け盗賊改の鬼平こと長谷川平蔵は
大盗賊であった五郎蔵を
密偵として採用し、救う。
平蔵と五郎蔵。心と心、固い信頼。
五郎蔵の、人生の酸い甘いも
噛み分けてきた男の佇まい。
心を切り結んだ人のことは
決して裏切らない五郎蔵親分こそが
僕のなかの綿引勝彦さんの肖像。
そこにあるのは、
人に真に信を置くことの尊さ。
弱き者を優しく包み込む大きさ。
感染拡大、政治不安、人と人との縁が
希薄に成りかねないこの時代に
五郎蔵親分、綿引さんが
あたかも警鐘を鳴らしているよう。
「己を捨て利他。思いやりと信頼だぞ」と。
現下の日常に紛れ、
忘れがちな大切なことに
気付かせて頂きました。
燻銀のきらめき、
ありがとうございました。
合掌