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シュール感、孤独感、幸福感
「孤独のグルメ」の新シーズン10が始まった。
自営のビジネスパーソン井之頭五郎(松重豊さん)が飲食店で一人、食べまくる姿が爽快。
始まってもう10年になるのだと感慨深い。
この番組にしびれて10年かと。
自分はあの頃どうしてたかと、
思い出す。誰と関わり、
どんなことに夢中になっていたかと。
こんなふうに心が過去に
タイムスリップすること、最近多い。
ところで「孤独のグルメ」に
なぜこんなにも惹かれるのか。
そんな理由なんて、どうでもいい、
好きなものは好きなのさ、
と割り切って観てきたのだが、
今はその理由が解る気がする。
①人は美味しいものを
好きなだけ食べれるだけで、
幸福な時間が得られる。
この小さな刹那的な幸福の積み重ねが
人生の醍醐味ではないか、ということ。
今食べているこの時間を大切にしようと。
②五郎さんは常に心で
何かつぶやきながら食べる。
その殆どが口に入れるご馳走への賛辞。
豊富な語彙の滑らかな語り口が
実に気持ち良く、観ている我らの
運気まで上がってきそう。
「美味い家庭料理が恋しくなったら、
この家に帰って来よう。
ここは、まるで俺の胃袋の実家だ。」
「俺の口が感動に打ち震えている。」
「胃袋がもっとよこせと叫んでいる」
「お代わりがなかったら
胃袋が暴動を起しただろう」
「鍋の中は今まさに宴たけなわだ」
「ほう、チンゲン菜、
こんなところで働いてるの。
良い職場見つけたじゃない。」
「力強くて優しい。
煮カツは、男のあるべき姿だ。」
③挿入されている音楽がユニークで、
太鼓などを用いた異国情緒満載のリズム。
五郎さんを縁取る画面は、今や、
この音楽たちとニコイチ、メオト関係、
セットでないと語れない程。
そして最後に④。
五郎さんとお店の方々の関係性だ。
それが希薄というより、実に淡白で爽快。
お店は、空腹を満たし、
料理を堪能する場所であり、
余程無愛想なお店でない限りOK、
過剰なサービス精神は不要。
お客さんに喜ばれる料理を出すお店、
それを受け止めて味わい尽くす客。
この構図だけの、極めてシンプルな関係。
お店にとって、五郎さんは
日頃見かけない、
ぶらりと立ち寄った一見さん。
五郎さんとしても、
その店はご近所さんではなく、
今後、頻繁に来ようとは思ってない。
然るに、必要以上の会話はない。
このドラマを包む言葉の殆どは、
五郎さんの心のつぶやき。
そのお店の常連さんらとも
五郎さんは殆ど言葉を交わさない。
五郎さんも、お店も、常連さんも
皆、それぞれの役割に集中してしている。
そういう時間がひとコマずつ、
淡々と重ねられていく。
このシュール感。まさに孤独。
哀感のない孤独。歓びの孤独。
人との深い関わり合いは、
他で求めれば良い。
ここは、「食」という今一点に、
人生の至福の時間に、気を集める場所。