「PERFECT DAYS」平山さんの手帳を想う~手帳の佇まい46
映画「PERFECT DAYS」はヴィム・ヴェンダース監督が東京を舞台にメガフォンをとった2023年の作品。役所広司さん演じる主人公、平山は公共トイレの清掃の仕事をしている。
初老の独身、古い木造アパートでひとり暮らし。
この平山さんが手帳使うシーンはない。
でも、彼ならどんな手帳を使うのかを
想像するのも面白いと僕は思う。
毎朝、彼は目覚めるとすぐに布団を畳み、
台所で歯を磨き顔を洗う。
素早く清掃服に着替え、
小銭や鍵などを持ち、身支度。
玄関から外に出て、空を仰ぐ。
淡々と黙々とした日々のなかで
このとき唯一、彼は笑顔をなる。
アパート前には、清掃道具を積んだ軽トラ。その横には古びた自動販売機が設置されている。彼は缶コーヒーを買い、軽トラに乗り込む。車中でカセットテープで古いアメリカンポップスやロックを聴き、仕事場に向かう。
トイレ掃除のプロ。
どんな汚れも厭わず黙々と、
丁寧かつ手早く便座を磨き上げる。
昼休みには近くの境内の森で
木々や木漏れ陽を
アナログカメラで撮影する。
時に植物を持ち帰り、
植木鉢に水をやる。
帰宅すると直ちに自転車で銭湯に行き、
帰路に安い居酒屋に寄って焼酎をやる。
寝床時、必ず文庫本を読む。
部屋にテレビはない。パソコンもない、
スマホも出てこない。
インターネットが存在しない。
ここにあるのは、
「カセットテープ」や「アナログカメラ」に
象徴される、まさに昭和だ。
必要最低限の暮らしのなか、
愛するのは、植物、木々の自然、
カメラ、文庫本、音楽、銭湯、
僅かながらの焼酎。
毎日同じルーティンを彼は続けている。
何年こうしているのか、
彼はどんなふうに生きてきたのか、
僅かなヒントはあるが
詳細は描かれていない。
というより、そんな描写は不要だ。
彼は寡黙だが暗くない。
日々の暮らしを楽しんでいる。
不器用で、人情深い。
もし彼が手帳を使っているなら、
ポケットサイズの綴じ型、
極めてシンプルなものかと僕は思う。
余計なもの一切をそぎ落とした、
必要最低限の暮らし。
紆余曲折の、様々なしがらみを
越えてきたであろう人生経験。
さりとて、手帳など持たぬ、とは限らない。
清掃業のシフト予定、ささやかな読書記録、大雑把ながらの家計簿は必要ゆえ、薄手の手帳を、清掃服の何処かに忍ばせているのでは。そんなふうに僕は想像する。
代わり映えのない日々。
この単調な、同じ日常を迎えられる幸せ。
瞬間ごとに宿る滋味を彼は知っている。
だからこそ、暮らしの中の、
ほんの僅かな出来事に、
微笑むことができる。
平山さんが見上げる、朝空。
今日も生きている、感謝。
当たり前の、目の前の出来事に
小さくても幸福が潜むこと。
それに気付く至福を、その感謝を
僕は今日、手帳に記します。
今日もお読みくださり、
ありがとうございました。
来年も皆様の健やかな日々を
お祈りいたします。