銀幕のワンシーン
年末年始のTVで
役所広司さん出演の
損保のCMを頻繁に観た。
我が国を代表する大俳優の役所さんが
ガソリンスタンドの初老の店員に扮し、
気さくに損保商品の話に触れながら
お客さまのクルマのフロントガラスを
磨いている。
役所さんと言えば、映画賞常連の名優。
昭和の国際的大スター三船敏郎さんが
演じた山本五十六や阿南陸軍大臣の役を
役所さんもやっている。
同じ役でも三船さんには
昭和男の気風と凛々しさが漂い、
役所さんには
穏やかさと優しさが帯びる。
お二人とも澄みきった瞳で
どこか哀愁を醸す。
役所さんはヤクザ者、前科者、
サラリーマン、武士や侍の役など、
芸の幅や人間味を感じる。
どんな役も人間であり、
弱さと不器用さ、
不甲斐なさや悲しみを抱え、
そのなかに一点の希望を探しながら
何とか生きている。
役所さんは知っているのだ。
ガソリンスタンドの店員さんが
お客さまの安全を祈りながら
汗を流し懸命に働く姿を。
こういう仕事の方々が、
この国の社会を、そして
人々の暮らしを支えていることを。
そしてそれを体現することが
俳優業の本質であることを。
だから自然体で、気取りがない。
スタンドのユニフォーム姿の役所さんが
お客さまのクルマを見送る笑顔。
あの僅か数秒のCMに、
銀幕のワンシーンが彷彿した。