1.成年後見制度の問題に関する一考察 法律上の問題 民事訴訟法31条
はじめに
今回の問題は被後見人の訴権(訴訟する権利)が、民事訴訟法(以下民訴法)によって奪われている人権侵害と実務上の問題について考察する。
まず、民訴法31条とは何か以下に示す。
つまり、どういう事かというと被後見人は法定代理人(成年後見人)によらなければ、何か訴訟をしたくても訴訟する事が出来ないという事である。
いや、後見人が付いているからいいのでは?と思う方もいると思いますが、勘の良い人はもう気付いていると思います。
後見人が被後見人に対して不法行為を行い侵害した場合、誰も訴訟する事が出来ないという問題があるのです。
さて、不法行為なのだから警察呼べばいいのではと思った方もいるかも知れませんがそれは違います。
つまり、弁護士が(刑法第253条)業務上横領罪を問われる様な犯罪行為を行った際は、警察に対して被害届を届出した場合は警察は捜査をしなければいけません。
それに対して、民法上の不法行為を受けて資産などの権利を侵害された際は、被害者自身が自分で訴訟する必要があります。
さて、そうなると通常であれば本人訴訟なり、弁護士に委任する事で損害賠償請求をする事で不法行為による損失は取り戻す事が出来ます。
しかし、被後見人の場合はそうはいきません。なぜならば被後見人は精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者(法律の判断が常につかない人・つまり障害者)であり、訴訟能力が無いとされています。
よって、「成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない」という条文が民訴法に規定されています。
問題の本質
つまり、後見人の不法行為により資産などの権利が侵害された際は、後見人が後見人自身を訴訟しないといけないと解釈出来るが、当然ながら自分自身を訴訟する事など聞いたことがない話である。
よって通常であれば、後見人の解任申立を出す必要があるがここが更に問題になる。
以下の記事の通り、政府・最高裁は柔軟に後見人を変更する様に家裁に通達しているが、同じ記事にある通り後見人が解任されるのは非常にハードルが高いのである。
上記の記事の証拠としては以下の判例の通り、不法行為(善管注意義務違反 869条 644条)によって被後見人の資産が侵害されたり、判例(松江地裁 平成26年(ワ)第191号 損害賠償請求事件)を持ってしても家庭裁判所によって解任が認められるとは限らない。
また、前述の判例は下記のように記述されているが、名古屋高裁では違う判例が出ている。
日本の法体系に関しては、後日「成年後見制度の問題に関する一考察 法律上の問題 民事とは?民事の本質と法律上の限界」編の記事で記述するとして、ここでは軽く解説するに留める。
日本の法体系においては聞いたことのある人も多いかもしれないが、判例が非常に重視される。つまり、基本的には上級審(最高裁・高裁・地裁)の判例に下級審(高裁・地裁・家裁・簡裁)は縛られるのが大前提である。
あくまで大前提というのは、世間の価値観や常識というのは時代の流れによって変わるので、裁判官は個別の事案に関してよく検討して判断する必要があるので独自の裁量権が与えられている。
例えば親子の関係でも父親も子育てをする事が一般的になってきたため、従来では離婚の際に父親は子育てよりも仕事を取る人が多かったが、近年では親権を求めたり、シングルファザーとして人生を歩む事を希望する人も多い。
そういった時代の流れや個別の事案に合わせて、判例にとらわれず裁判官の裁量権が求められる必要があるが、残念ながら上記判例の吉田真紀裁判官の様に裁量権を曲解し判例にも法律にも無い判決を出す裁判官が家裁には跋扈しているため、成年後人の交代が認められづらいのが現状である。
補足
しかし、そもそもの話をすれば民法 863 条 2 項にある通り、家裁は職権で後見人に対して後見事務について必要な処分を命じる事が出来る。これが一般的に言われる「後見人は家裁の監督を受ける」と言われる事なのだが、家裁及び裁判官がきちんと後見人を監督していれば問題は起きないはずである。
この件に関して詳しくは「成年後見制度の問題に関する一考察 家庭裁判所の問題」編で説明する。
よって、成年後見人が被後見人に対して不法行為により資産などの権利に損害を与えた時は実質誰も損害賠償訴訟が出来ない状態に陥っているのが、現行法である。
これに関しては、被後見人が亡くなることで相続人が損害賠償訴訟する事は出来るが、逆に言えば本人が亡くなるまで訴訟する事が出来ず、成年後見人の不法行為が長期間放置されることにもなる。
更には本来の制度の趣旨である被後見人の権利擁護や、身上監護、意思決定支援やノーマライゼーションを不法行為をする様な成年後見人では到底出来るとは思えず後見人の不法行為だけではなく被後見人の人権も長期間に渡り侵害される事になる。
まとめ
今まで述べてきた通り、成年後見制度の問題の一つとして被後見人の訴権が剥奪されている事による問題を考察してきた。
憲法には以下の条文がある。
民訴法31条は法定代理人(後見人)が訴訟する事が出来るので、上記憲法に違憲していないという判断から制定されたものだと解釈される。
しかし、ここまで述べてきた通り成年後見人が不法行為を行った場合誰も訴訟出来ない現行の制度は実質違憲状態ではないかと筆者は考える。
また、「0.成年後見制度の問題に関する一考察 前書き」でも述べた通り、本来は被後見人の「意思決定支援」や「ノーマライゼーション」等被後見人の権利擁護の為の法律であり、家裁の責任逃れや後見人の不法行為を許すために制定された法律ではないことであり、例えば民訴法31条2に以下の様な条文を追加する必要があるのでは無いだろうか?
上記の場合、親族後見人や社会福祉士、市民後見人に高度な法律上の善管注意義務を求めるのは酷と考える事が出来る上に、また、親族同士の相続トラブルの材料とならない様にするために、弁護士・司法書士の成年後見人に限るような法案も考えられる。
いずれにせよ、現在家裁が機能不全に陥っており、法律上後見人の不法行為が明らかで被後見人の財産等の権利を侵害された状態であっても誰も訴訟出来ない現行法は人権・法律・道徳、日本が批准している国際条約の障害者権利条約(CRPD)から見た時に問題があり、また各地で専門職後見人による不法行為が顕在化していない可能性が高い事を考えると、改正が急務であると筆者は考える。
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