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ロシアのQアノン、ウクライナ侵攻で内部分裂か

取材・執筆:アイガニシュ・アイダルベコヴァ
翻訳:谷川真弓

2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した数時間後、ロシアのSNSテレグラムの人気チャンネルに、平和への祈りのような、励まされるメッセージが投稿された(訳注:テレグラムのチャンネルとは、管理者が登録者に対して一方的にテキストや画像、映像などの情報を発信できる機能)。

「神よ、ロシアとウクライナをお守りください」と投稿は言う。「我々は互いに神のご加護がありますようにと祈っています。我々の罪をお許しください」。この文章の下には、肩を組んだ2人の人物の写真が添えられていた。1人のジャケットにはロシアと書かれており、もう1人のジャケットはウクライナと書かれ、ウクライナ国旗と同じ色合いで、国章も描かれている。この画像のキャプションは「これがあるべき姿!」だった。

テレグラムの投稿「神よ、ロシアとウクライナをお守りください。我々は互いに神のご加護がありますようにと祈っています。我々の罪をお許しください」「これがあるべき姿!」

これは、開戦後のロシアで見られた多くのオンライン・コンテンツの方向性とはまったく異なっている。こうしたメッセージは、テレグラムのロシア語使用チャンネルのある特殊な界隈において、侵攻開始のすぐ後から、驚くほど頻繁に投稿された。

意外なことに、投稿者はロシアの反体制派活動家ではない。このメッセージは、陰謀論者グループ「Qアノン」のロシア語使用テレグラム・チャンネルの一部で投稿されたものなのだ。

Qアノンのテレグラム・チャンネルでは最も人気のひとつ、9万フォロワーがいる「Qアノン・ロシア」は、侵攻が始まった次の日に「平和と愛」を呼びかける投稿をした。ロシア人兵士に向けて、ウクライナ人を爆撃したり射撃したりしないよう呼びかけた。少ししてから、情緒的な反戦詩も投稿された。

チャンネル登録者に対して、オンラインで情報を読む際にはファクト・チェックをし、「精神衛生」を良好に保つよう呼びかけたQアノン・チャンネルもあった。

世界のQアノンは、開戦以降、たびたびロシアを賞賛してきた。ロシアのウクライナ侵攻を、Qアノンの陰謀論の中心を占める国際的な「悪の秘密結社(カバール)」を打倒する試みだととらえているのだ。新型コロナウイルスのような新しい病気を開発しているとされるウクライナにあるアメリカの「生物学研究所」を破壊するため、または、パンデミックに乗じて資本主義を崩壊させ、世界統一政府を樹立しようと動いているとされる「グレート・リセット」を阻止するため――Qアノンが侵攻の目的と考えるものは様々だ。

そうした考えからすると、ロシアはQアノンの友軍であり、ウクライナ侵攻は全ての善のために行われる、全ての悪を相手取った戦争である、ということになるようだ。

イギリスのテレグラム・チャンネルの投稿はこう語る。
「ウラジーミル・プーチンは“新しい世界秩序”のバランスをひっくりかえした……クラウス・シュワブやビル・ゲイツといった人間が望むバランスを」

誤解のないように言うと、ロシアの目立ったQアノン・チャンネルのいくつかは、ベリングキャットが見たかぎりでは世界の仲間たちと意見を共有しており、戦争支持派らしい投稿を続けている。また、戦争に無関心なQアノン・チャンネルもある。

しかし、ウクライナ侵攻そのものについては、広く信じられているQアノン関係の陰謀論の大半を否定しているチャンネルもあった。規模は小さいが活発なロシアのQアノンのコミュニティで、ウクライナ侵攻についての見方が分裂していることを示している。

興味深いことに、Qアノン・ロシアを含む複数のアカウントは、侵攻が進むにつれて沈黙していった。

そうはいっても、そうしたアカウントのうち、より反戦派らしいアカウントは、沈黙する前に一歩退いた姿勢をとり、世界のQアノンのコミュニティで戦争支持の理由とされる、ウクライナについての以前は人気だった陰謀論を否定している。

ある専門家は、ウクライナ侵攻に関して、ロシアのQアノン・チャンネルで意見の不一致が見られるのは非常に興味深いと語った。この数年、新型コロナウイルスやワクチンといったテーマでは一致団結していたようだったからだ。

そもそもQアノンとは何か

Qアノンとは、アメリカ前大統領ドナルド・トランプが、アメリカの「闇の国家」内に存在する悪魔崇拝・小児性愛者の「秘密結社(カバール)」を打倒するため長年闘ってきた、と主張する事実無根の陰謀論だ。

トランプは大統領選で落選し、Qアノンの予言は当たらないことが続いたが、Qアノンの陰謀論は信者を集めつづけている。アメリカ以外の多数の国にも広がり、別の有害な陰謀論を生む土壌となっている(例えば、反ワクチン論者の主張や、5G無線通信技術に対する反対活動など)。

トランプが大統領選で敗北してからは、「Qドロップ」(訳注:機密情報にアクセスできるとされる人物「Q」が匿名掲示板に投稿した謎めいた書き込みのこと。Qアノン発生のきっかけとなった)が投稿されることはなくなったが、Qの信者たちは相変わらず、ウクライナ関連を含む、今なお成長しつつある世界の様々な陰謀論において活発な活動を続けている。

2月24日以前のウクライナ、プーチン、Qアノン

もしロシアのQアノンがウクライナ侵攻に対してとった態度に驚くとしたら、それは他の国のQアノンが、ウラジーミル・プーチンを「国際的秘密結社」を攻撃する数少ない世界的指導者のひとりだと見なす傾向にあるからだろう。

ウクライナも、2022年2月にロシアが侵攻して初めて、世界のQアノンにとっての関心事になったわけではない。ウクライナに関しては、以前からアメリカのバイデン大統領の息子ハンターにまつわるスキャンダルや疑惑があったからだ。内容は、ウクライナでの国の支援を受けた事業におけるハンターの地位に関するコネ疑惑およびロビー活動疑惑から、生物学研究所や国際的な児童売買組織についての荒唐無稽な陰謀論まで幅広い。世界のQアノン・チャンネルは数年にわたりこの件に執着してきた。

2020年11月頃からすでに、世界のQアノン・チャンネルでは、ウクライナはずっと前からいわゆる「闇の国家」に支配されているという趣旨の投稿がされていた。あるロシアのQアノン・チャンネルは、アメリカの民主党、バラク・オバマ元大統領の陣営(バイデンが副大統領だった)、そして現在のバイデン大統領の陣営は、前ウクライナ大統領ペトロ・ポロシェンコと一緒になってウクライナから1千億ドル以上をかすめとったと主張した。あるイタリアのQアノン・チャンネルは、アメリカは2014年に当時のウクライナ大統領ヴィクトル・ヤヌコーヴィチの政府を転覆させただけでなく、数か月後のマレーシア航空MH17便の撃墜計画も実行し、ウクライナ東部へのNATO侵攻を引き起こそうとしたと言う。「ウクライナのバイデン家の農園の隣には、ウクライナ最大のトンネルがあり、そこでは子供と武器とアドレノクロムが密輸入されている」と、2021年12月にチェコのQアノン・チャンネルは、他の様々なQアノン陰謀論にも言及しながら主張した。

アメリカが、NATOのウクライナ東部侵攻を誘発するためにマレーシア航空MH17便を撃墜したという事実無根の主張を行う、イタリアのQアノン・チャンネルによる2021年12月の投稿。

ウクライナを中心に据える世界的なQアノン陰謀論は他にもたくさんある。ロシアによる2022年の侵攻のずっと前からあるものだ。「生物学研究所」に関する陰謀論――2022年3月にロシアの政府機関が発した、生物兵器を作るためのアメリカの研究所がウクライナにあるという事実無根の声明によって勢いづいた――は遅くとも2021年には出回りはじめた。同年12月、あるイタリアのQアノン・チャンネルは「グレート・リセット」説に言及し、ウクライナはついに「ロシアの一部」になるのだろうかと考えを巡らせている。あるドイツのQアノン・チャンネルは、2020年7月に、アメリカの「ブラック・ライヴス・マター(BLM)」運動はウクライナの「不正な金」が資金源になっていると主張した。

世界のQアノンの多くは、プーチンをトランプ大統領の側に立って闘うヒーローだと長いあいだ見なしてきた。2020年1月、ロシアのQアノンによる最初期の投稿のひとつは、第三次世界大戦の開始を防ぐためにプーチンがシリアのダマスカスで会議を数回行ったと述べている。あるイギリスのQアノン・チャンネルは、2021年9月に、プーチンは権力を握って以来、悪魔崇拝的な「闇の国家」の秘密結社と闘っており、それが世界のメディアがロシアとプーチン大統領を悪者扱いする理由だと主張した。

2021年9月、イギリスのQアノン・チャンネルによる、プーチン大統領を称賛する投稿。

プーチンが「小児性愛者」と闘っている、というのも世界のQアノン・チャンネルでよく取り上げられる話題だ。例えば、2021年9月にオランダのQアノン・チャンネルは、オランダは「小児性愛国」でありプーチンはそれを認識していると投稿し、オランダに小児性愛を支持する団体がいるとプーチンが語る映像をシェアした。2014年にYouTubeで公開されたオランダ語字幕つきのこの映像は、現在10万回超再生されている。

「プーチンは人類の自由のために闘っている」

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、ヨーロッパの多くのQアノン・チャンネルにとって、それまでバラバラに存在していたウクライナ関連の陰謀論を、緊密につながった新しい「現実」として構築するきっかけになった。ウクライナが「闇の国家」と「新しい世界秩序」のためのマネーロンダリング機構になっているという、前からあった古い陰謀論が、侵攻開始直後からドイツ、アメリカ、イタリア、イギリス、チェコなどのQアノン・チャンネルで再び流布されはじめたのをベリングキャットは観測した。

2022年2月24日、ドイツのQアノン・チャンネルによる投稿では、ウクライナが「闇の国家」のための「マネーロンダリング機構」と呼ばれている。

こうした説に加え、ウクライナ侵攻は、プーチンが「闇の国家」との闘いにおいてトランプとチームを組み、かつてないほど強くなって戻ってきたのだ、という陰謀論を裏付ける証拠となっている。イギリスやイタリアのQアノン・チャンネルがこうした主張をしている。「これは全部計画のうちだ」と別のイギリスのQアノン・チャンネルも語る。

ウクライナ侵攻の初日、あるドイツのQアノン・チャンネルはフォロワーにアンケートをとった。「プーチンが宣戦布告した相手は誰だと思う?」。5千人を超える回答者の90%が、「2014年の動乱でウクライナをのっとった秘密結社」だという意見で一致した。

「プーチンが宣戦布告した相手は誰だと思う?」ドイツのQアノン・チャンネルが行ったアンケートで、回答者の90%が「2014年の動乱でウクライナをのっとった秘密結社」だと答えた(9%は「まったくわからない」と答えた。「ウクライナ国民」と答えたのはたったの1%だった)。

秘密結社と「闇の国家」に対するプーチンの闘い(と見えるもの)は、すぐにEUとその他の国のQアノン・チャンネルで共有される話題になった。ロシア人はウクライナの「秘密結社」を破壊しているのだ――秘密結社の銀行とサーバーはウクライナにあるとされている――と、あるオランダのQアノン・チャンネルは侵攻開始当日に投稿した。イタリアのチャンネルもそのすぐ後に「闇の国家に立ち向かって」闘っているプーチンを褒めたたえた。3月下旬、あるチェコのQアノン・チャンネルは、これは戦争ではなく「軍事作戦」であるというクレムリンと同じ言い方をして、ロシアの侵攻は、「ほとんどの国営・民間メディアは注目していないが」すでに数百人が逮捕されている「グローバル・エリートの小児性愛者たちの国際ネットワークに対する」攻撃の一部なのだと賞賛した。

ベリングキャットが観測したところによると、人気のQアノン・チャンネルには、チェルノブイリ原子力発電所が「DNA実験、アドレノクロム、拷問、小児性愛や強姦のための施設、クローン作成設備、その他多く」のあらゆる用途に使われているという、根拠のない陰謀論もあった。

イタリアのQアノン・チャンネルでも、プーチンとトランプは実はチェルノブイリ原発の地上と地下の両方にある「闇の国家」本部を破壊しているのだという主張が見られた。

プーチンとトランプは実はチェルノブイリ原発にある「闇の国家」の本部を破壊しているのだと主張する、2022年2月のイタリアのQアノン・チャンネルの投稿。

ロシアのQアノン「神よ、ロシアとウクライナをお守りください……我々の罪をお許しください」

ロシアのQアノン・チャンネルのいくつかに見られる反戦的態度は、それらのグループのほとんどが過去には国内政治に関して親クレムリンの姿勢をとってきたことからも、驚きだ。

2021年に起きた、野党政治家アレクセイ・ナワリヌイの逮捕に対する抗議活動に、ロシアのQアノン・チャンネルは概ね批判的だった。ウクライナで2013年から2014年にかけて起き、ついには当時のヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領を解任させた抗議運動と似た性質の「挑発」だと表現するチャンネルもあった。2020年のベラルーシ大統領選挙の後の抗議活動も同じく批判的にとらえられ、ロシアのQアノン・チャンネルは、ウクライナのヤヌコーヴィチ大統領を失脚させた抗議活動に言及して「マイダンのシナリオだ」と警告した(訳注:「マイダン革命」は2014年のウクライナ政変の別称)。

しかし2022年の侵攻が始まると、ロシアの複数のQアノン・チャンネル――なかでも特に、最大かつ最も人気なチャンネルのひとつ「Qアノン・ロシア」――は、大統領を支持しない姿勢を明らかにした。

ウクライナ侵攻の開始翌日、冒頭に触れたように、Qアノン・ロシアはロシア人兵士たちにウクライナ人を攻撃しないようにと呼びかけた。「我々はみな今試練にあっている」とこのチャンネルは約9万人のチャンネル登録者に向けて投稿した。「この試練をどう通過するかは我々次第だ。戦争か平和か? 憎悪か愛か? 兵士には爆撃命令、射撃命令が下される。しかし、誰がそうすると決めるのか? 人間だ……戦地にいるすべての人に平和と愛を」。

「我々はみな今試練にあっている」というキャプションが添えられた、2022年2月26日にQアノン・ロシアが投稿した写真。

Qアノン・ロシアは他にも同様の反戦メッセージを投稿しており、ロシア人とウクライナ人のあいだの友情と平和を促す長い文章もある。戦争を批判する占星術師が書いた詩もあった。「人間になるべき時間だ/憤怒の道具ではなく」というのがその一節だ。

ロシアの都市サンクトペテルブルクで、「ハグしてください、私はウクライナ出身です」と書かれたボードを掲げる人物を好意的に映した映像もシェアされた。国家間の友情を説くソ連時代の古いポスターの画像すらシェアされた。

Qアノン・ロシアが、世界の仲間たちとは逆に、侵攻開始後は以前からあったQアノン陰謀論に関係する投稿をしていないことも目に留まる。このチャンネルにとっては、この戦争はロシア内外の仲間がとらえているような「グレート・リセット」に対抗する一歩ではない。「互いへの敵意や憎悪に流されるのではなく、優しさ、愛、兄弟愛、支え合い、良心にしたがおう」と2月25日の投稿は言う。

ウクライナにアメリカの生物学研究所があるという陰謀論は、遅くとも2021年にはロシアのQアノン・チャンネルで言及されていたが、ウクライナ侵攻後はほとんど話題に上らなくなった。以前に言及されていた他の陰謀論、例えばアメリカは自国の破産を防ぐために戦争をしたがっているのだといった主張も、侵攻が続くうちに消えていった。

以前は生物学研究所やバイデン等々に関する陰謀論について語っていたロシアの比較的小さいQアノン・チャンネルも、好戦的な姿勢は見せていない。約5千人のフォロワーがいる「大覚醒」という名前のチャンネルは、それまでの主張の上に重ねるように、ウクライナ人が食料や避難所、精神的サポートや行方不明の親戚を探すサポートを得られる場所についての情報やリンクを次々と投稿した。

「団結しよう、兄弟よ:ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人」と呼びかける投稿。画像で旗を持っている人物は、特徴的な髪形とひげからウクライナのコサック兵だとわかる。

ロシアのQアノン・チャンネルの一部は、国営メディアの報道についても、意外な姿勢を見せた。西側諸国のQアノン信者がロシアの国営テレビ局RTや通信社スプートニクといった親政府報道機関が発したコンテンツをしばしばシェアするのと逆に、ロシアのQアノン・チャンネルのいくつかは、開戦後、メディアの情報に注意するようチャンネル登録者に呼びかけた。「情報源が公的機関だからといって、真実だとは保証されない」と3月2日にQアノン・ロシアは投稿した。別のロシア語のQアノン・チャンネル「覚醒する世界」は、ロシア軍は軍事目標だけを攻撃しているというプーチンの主張に反論するため、アメリカから資金提供を受けているラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティ(RFE/RL)が制作したウクライナの民間人被害についての映像を使ってさえいる。

Qアノン・ロシアは、皮肉にもそれまでの姿勢をがらりと変えて、フォロワーに偽情報に騙されないようにと呼びかけている。「情報を何度かしっかり確認するまでは、結論に飛びつかないように」。他にも、情報を論理的に分析する方法や、精神面および情報面で操られるのを防ぐやり方を、自分自身で学ぼうというアドバイスもしている。

ロシア国旗の色で塗られたQアノンのシンボル(credit: Ann Kiernan)

しかし、この数週間、Qアノン・ロシアは沈黙している。チャンネルの最後の投稿は3月15日、登録者に向けて気落ちしないようにと呼びかけ、「この大きな変化の時代に、迷える魂のための灯台になろう」と語りかけるものだった。

この沈黙は、この数週間で露骨な批判が大きな代償をともなうものになったせいかもしれない。現在のロシアでは、政府が「特別軍事作戦」と呼ぶものに反対を表明するSNSユーザーは、脅迫されたり、当局によって起訴されたりすることすらある。

しかし、他のQアノン・チャンネルは、戦争支持派だろうが、反戦派だろうが、どっちつかずの態度をとっていようが、活動を続けている。

現時点で観察できる、ロシアの著名なQアノン・チャンネルのいくつかと、同国人および世界のQアノン・チャンネルとのウクライナ侵攻に関する分裂は、見る人を驚かせている。

「特にこの2年間は、ロシアのQアノン・コミュニティと世界のQアノン・コミュニティは、新型コロナウイルスについての反応において概ね一致していました」と、ロンドンに拠点を置くシンクタンク「戦略対話研究所(インスティテュート・フォー・ストラテジック・ダイアログ)」の、オンラインの偽情報、ヘイトおよび過激主義のリサーチャーであるキアラン・オコナーは言う。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻は、Qアノン・コミュニティ、特にロシアのQアノン・コミュニティが起きるとは予想していなかったものだ、とオコナーはベリングキャットに語った。例えば、Qアノン・ロシアは、侵攻が始まる約1週間前の2月16日に、「絶対に戦争はない」と投稿している。

ロシアのQアノン・コミュニティの多くが異なった反応を見せていること――そしてロシアのQアノン・チャンネルもそれぞれ姿勢が異なる――は、「どう反応するべきかについて、コミュニティ内で対立と矛盾がある証です」とオコナーは言う。「彼らは、ウクライナについて、自分たちの陰謀論的な世界観とうまく落ち合う立場を探すのに苦心しています」。

ロシアの暴力的な侵攻が何週間も、1カ月以上も続くにつれて、戦争支持派だったロシアのQアノン・チャンネルのひとつも悩んでいる様子を見せ、Qアノンの仲間だけでなく、プーチンすら批判した。「プーチンはドルと西側を破壊しようと決意した英雄ではない」と、ロシアのQアノンに最も人気で、大体は戦争支持派の「ビッグ・ショック・セオリー」チャンネルは4月9日に10万人を超えるチャンネル登録者に告げた。

「ロシアがグレート・リセットと闘っているとか、ロシアはグローバル主義者を打ち破ろうとしているとか言っている人がいたら、それはグレート・リセットが何なのかさえ理解していないということだ」とこのチャンネルは翌日にも投稿した。「プーチンが新型コロナのワクチンが致死的だとわかっていないと我々は信じるべきなのだろうか? ……なぜプーチンはいまだにワクチンと追加接種を推し進めているのか?」。

「プーチンが……カッとなってグレート・リセットを止めようとしているのだという主張は、芝居の俳優がアドリブを始めようとしていると言うようなものだ」と投稿は続く。「もしくは、ゲーム・ショーの競技者が主催者を倒そうとしていると言うようなものだ」。

「意味が通らない」と、投稿は締めくくられる。


取材・執筆:アイガニシュ・アイダルベコヴァ

アイガニシュ・アイダルベコヴァは、キルギスに拠点を置くリサーチャー、データ・トレーナー。国家の状態についてのオープンデータを、汚職を察知するために用いる方法に関心を持っている。

マイケル・コルボーン、ロス・ヒギンズ、アニーク・ムソー、リッカルド・コルッチーニ(ライトハウス・リポート)、ジョハンナ・ワイルド、マルティン・クルバルが本記事に協力した。

Bellingcat 2022年4月15日
Russia’s QAnon Followers Can’t Make Up Their Minds About Ukraine

翻訳:谷川真弓