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物語をつくる(9)感情の表出/パンチドランク・ラブ
ポール・トーマス・アンダーソン監督は、「ハードエイト」「ブギーナイツ」「マグノリア」の3本の映画で「若き天才映画作家」として世界的な評価を得てきた。4作目であるこの「パンチドランク・ラブ」は、2002年の第55回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞も受賞している。ここまで書けば、この監督の作品が非常に評価の高いものであることは想像がつくと思う。
しかし、前3作を見てきたわたしとしては、「パンチドランク・ラブ」はとても意外な作品でもあった。ポール・トーマス・アンダーソンはどちらかと言えば、正統派とでもいうべき人間ドラマを作り上げて来た監督であるが、「パンチドランク・ラブ」におけるスタイルはひじょうにオフビートでもあり、意外な展開と主人公の独特のキャラクター造形が特徴になっている。
しかし、彼のもっとも得意とする人間の「感情の表出」は、今回の「パンチドランク・ラブ」は特にクリアーに表現されていると思う。ストーリーをシンプルにした分、登場人物の感情がダイレクトに伝わってくる。
そう、この「パンチドランク・ラブ」は、そうしたもっとも基本的な映画の醍醐味をポール・トーマス・アンダーソンなりに仕上げた作品とも言える。
突然キレるアダム・サンドラーの感情は複雑であるが、我々にも内在している感情のため、ひじょうに共感できるものがある。正常なのは彼で、まわりの人々がいかに異常であるかは、我々の世界が異常にあふれていることの反映でもあるよう感じた。シンプルにそしてストレートに人間の感情を表現した作品でもある。(初稿:2004.06.05)
第15章 挑発する映像/デイビッド・フィンチャー
・デイビッド・フィンチャーの略歴
・デイビッド・フィンチャーの主な作品群
・質感やディテールのこだわり
・サブリミナル映像
・挑発する映像の本質
第16章 感情の表出/ポール・トーマス・アンダーソン
・若き巨匠 ポール・トーマス・アンダーソン
・絶妙のリミックス感覚
・テクニックよりも脚本が重要
・緻密に計算された作品構造
・色彩と陰影のコントロール
・「長回し」の意図
・ 技術と表現力のバランス
第17章 サンプリングとリミック/ダーレン・アロノフスキー
・デビュー当時のダーレン・アロノフスキーの評価
・映画「π」の魅力
・「π」に影響を与えた一本の日本作品
・ハイコントラストのモノクロ映像
・素材の妙 サンプリング
・編集感覚 リミックス
・「サンプリング」と「リミックス」、「パクリ」との境界線
第18章 スタイルの確立/ハル・ハートリー
・インディーズ映画界の才人 ハル・ハートリー
・ハートリー作品の特徴とスタイル
・クールで無表情な役者の演技
・省略された描写
・音へのこだわり
・デジタルビデオで撮影された「ブック・オブ・ライフ」
・自分のスタイル
第19章 運命のパズル/アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ
・断片的情報をバズルのように組み合わせる手法
・重層的なストーリー構造
・リアルな感情描写
・運命のパズル
第20章 生命の脈動/クレール・ドゥニ
・フランスの女性映像作家 クレール・ドゥニ
・助監督時代のクレール・ドゥニ
・業界内評価の高いクレール・ドゥニ
・撮影監督 アニエス・ゴダールとのコンビネーション
・クレール・ドゥニ作品の魅力 生命の脈動
第21章 即興から生まれるエモーション/ジョン・カサヴェテス
・インディペンデント映画の父 ジョン・カサヴェテス
・即興から生まれるエモーション
・古さを感じさせない先見性と普遍性
・人間の苦悩や葛藤を描く
・自分自身を貫き通した生きざま
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