物語をつくる(9)感情の表出/パンチドランク・ラブ
ポール・トーマス・アンダーソン監督は、「ハードエイト」「ブギーナイツ」「マグノリア」の3本の映画で「若き天才映画作家」として世界的な評価を得てきた。4作目であるこの「パンチドランク・ラブ」は、2002年の第55回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞も受賞している。ここまで書けば、この監督の作品が非常に評価の高いものであることは想像がつくと思う。
しかし、前3作を見てきたわたしとしては、「パンチドランク・ラブ」はとても意外な作品でもあった。ポール・トーマス・アンダーソンはどちらかと言えば、正統派とでもいうべき人間ドラマを作り上げて来た監督であるが、「パンチドランク・ラブ」におけるスタイルはひじょうにオフビートでもあり、意外な展開と主人公の独特のキャラクター造形が特徴になっている。
しかし、彼のもっとも得意とする人間の「感情の表出」は、今回の「パンチドランク・ラブ」は特にクリアーに表現されていると思う。ストーリーをシンプルにした分、登場人物の感情がダイレクトに伝わってくる。
そう、この「パンチドランク・ラブ」は、そうしたもっとも基本的な映画の醍醐味をポール・トーマス・アンダーソンなりに仕上げた作品とも言える。
突然キレるアダム・サンドラーの感情は複雑であるが、我々にも内在している感情のため、ひじょうに共感できるものがある。正常なのは彼で、まわりの人々がいかに異常であるかは、我々の世界が異常にあふれていることの反映でもあるよう感じた。シンプルにそしてストレートに人間の感情を表現した作品でもある。(初稿:2004.06.05)
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