しょうがないんだよ

夏の終わり頃、産直市場で買ってきた空心菜から、イモムシがぽとりと出てきた。

空心菜の袋に黒くて丸いものが入っているのが見えたが、あまり良く見ず「土がついているんだろう」くらいに思って買ってしまったら、それはイモムシのフンだった。

少々怖いながら、子どもが虫好きなので虫かごで飼ってみることになった。

調べると、どうも「エビガラスズメ」という蛾の幼虫のようだ。

小学生の頃、学校のプールによく浮かんでいた気持ちの悪いイモムシだった。

トゲのように飛び出たツノがあるので「ドクモッチ」というあだ名をつけられていたが、どうやら毒はないらしい。

イモムシが出てきた空心菜をエサにして、虫かごで飼いだした。

名前は「エビちゃん」

初日は環境が変わったせいか非常におとなしかったけど、次の日からはモリモリと空心菜を食べだして、どんどん大きくなっていった。

日に日に大きくなっていくので、どこまで大きくなるのかこれまた恐怖を感じたが、子どもたちは手のひらに乗せたりして可愛がっている。

さて、2週間ほど経ったころ、イモムシが身悶えているのが見えた。

虫かごの外に出たがっているように見えたので、ピンときて、虫かごに土を入れてやると、やっぱり土にもぐっていった。(スズメガは土の中で蛹になる)

そこから数日たち、土の中にいる幼虫がだんだんと蛹になっていくのが見え、最終的には無事に変態したようだ。

秋に蛹になるとそのまま冬を越すらしいので、しばらくは置いておくことになるな、と思っていたら、その2週間後くらいに羽化してしまっていた。

いま羽化してしまうと、これから寒くなっていって花もあまり咲かないだろうに大丈夫だろうかと心配になる。

しかし、立派に蛾の成虫になったエビちゃん、よく成長したと、可愛さもこみあげてきた。

手に乗せることはやっぱり怖くてできなかったけど、可愛い。

どうにか生き延びてほしいと思った。


さて、ちょうど雨が続いたので外に逃がすのが羽化から3日後くらいになってしまったけれど、雨の上がった夜、外に放すことにした。

うちのマンションの玄関先に咲いている花に、よくスズメガの仲間が蜜を吸いに来ていたのを見ていたので、そこに放すことにした。

もしかしたらそこに住み着いて、元気な姿が今後も見られるかもしれない。

虫かごのフタを開ける。

エビちゃんはしばらく羽を震わせるようにしていたけれど、ふとした瞬間に飛び立っていった。

「がんばれよぅ、エビちゃん」

「エビちゃん、バイバイ」

とみんなで声を掛けて、その日は家に帰った。

次の日、もしかしたらエビちゃんの姿が見られるかな、と期待して玄関先を見たけれど、姿はなかった。

その次の日も、その次の日も。

どこかに飛び立って元気に生きていてくれればいいけど、カラスに見つかって食べられてしまったかもしれないな、と寂しい気持ちになっていたとき、次男が言った。

「エビちゃんは死んじゃったんじゃない?でもそれは、しょうがないねん」

と。

「エビちゃんを放したときから思っててん。死んじゃってもしょうがないって」

それを聞いて、なんとも言えない気持ちになった。

生も死も、しょうがない。

もしかしたら空心菜から出てきた時点で捨てられていたかもしれないエビちゃん。

そのエビちゃんを一番可愛がっていた次男。

大人になったエビちゃんを外に放したけれど、外で生きていくにはあまりにも生まれた場所と環境が違ったかもしれない。

それも、しょうがない。

しょうがないから受け入れる。

なんだか考えさせられてしまった出来事だった。


#子どもに教えられたこと


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