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『百年の孤独』と忘れる読書について
『百年の孤独』の文庫版が今年6月に発売された。これがとても売れているらしい。近所の図書館の館長さんに話をきいてみたが、図書館でも予約が一杯なんだと。
文庫版は発売前から界隈では話題であり、Amazonでも発売前から文学・評論カテゴリの一位であった。それの現象みたぼくはミーハーモードとなり、発売日の一日後に書店にて購入した。書店では『百年の孤独』フェアのようなものを開催していて、ガルシア・マルケスや他のラテンアメリカ文学や著作が置かれている中に池澤夏樹監修の「ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』読み解き支援キット」なるものが置かれていた。
なぜこんなに売れているのか、読んでみた後少し考えてみた。一つの要素として「要約不可能」で読んでいない人はどんな内容なのかよくわからないことが考えられる。読んでみるとわかるが情報量が多く1ページで場面がどんどん変わっていく。しかも、すべての情報が並列的に等価に置かれているため、重要な出来事だけつまんで追っていく事ができない。だから500〜1000字ぐらいでは内容を説明することはできないのだ。池澤夏樹の「読み解き支援キット」も膨大なものになっている。
また、同じ名前の登場人物が多く出てくるため、家系図を片手に読んでいかないとすぐ迷子になってしまうのだ。
しかし、ぼくは「読み解き支援キット」を併読せず、また家系図で人物を整理せずに読んでみた。これは、いろんな読み方があるのでぼくの読み方推奨するわけではないが、あえてカオスな空間に身を任せる読み方もありだと思い、整理整頓しなかった。
この読み方の補助線として作家の読書道での磯崎憲一郎の発言から考えてみたい。ラストのネタバレがあるので読んでいない人は注意してほしい。
磯崎憲一郎はラテンアメリカ文学の遺伝子を持った小説を書く作家である。しかし、――ネタバレを含むので詳しくは言えないが――このインタビューの中で『百年の孤独』のラストに関して磯崎憲一郎はある読み違いをしている。
なにも、ぼくはここで「磯崎憲一郎の『百年の孤独』の読みが間違っている!」と鬼の首を取ったように騒ぎたいわけではない。むしろこの発言から磯崎憲一郎は内容レベルではなく、もっと深いレベルで『百年の孤独』を感じていると思われるのだ。
多分ぼくだって絶対に読み違いをしている。でも、それでいいのだ。『百年の孤独』は読み違いが発生するような本の書き方をしている。
このことに関して、イギリスの言語学者J.L.オースティンの言語行為論で提出された2種類の文の区分から考えてみたい。
コンスタティブ(事実認知的)
「車が来る」という文に対して、車が来るという意味以上のものはない。主観的な価値判断を免れた中立的な文。
パフォーマティブ(遂行的)
「車が来る」という文から、「その場所から離れてくれ」というような振る舞いを表す文のこと。文そのもの意味ではなく、その文がもたらす主体的な価値判断の影響がある文。
『百年の孤独』に関しては、コンスタティブな読みを拒否している。並列的な情報と、その膨大さは人間の事実認知機能を超えている。また、文章にとって座、主語に位置する、登場人物に関して明らかに混乱を生むような書き方をしているのだ。これはあえて内容を読み違いさせるように書いており、内容レベルで読んでいくことを不可能にする。
ならばパフォーマティブな読み方だとどうなるのか。作品のコンスタティブな読みの不可能性から、読むことの限界、記憶の限界を知ることができる。そして記憶は違いがおこり、読んだ人一人ひとり『百年の孤独』で出来上がる。主体的なパフォーマティブにより新たな『百年の孤独』を作ることができ、コンスタティブの地平を超えることができるのだ。
実はこれは『百年の孤独』以外の本にも言えることだ。文の連なりで書かれている本をすべて人間が理解し記憶することができない。なんとなくあらすじがわかりやすい本であれば読んだ気になるのは容易いが、どんな本でもすべてをインプットするのは不可能である。
これは世界の認知の仕方にも言えることだ。人は記録してあるからといって、それらすべてわかることは不可能である。科学やテクノロジーなどの外的なものがいくら発達したからといって、人間の限界量を超えて知ることはできない。
『百年の孤独』はあいまいでよくわからない作品である。そして世界もあいまいでよくわからない。わかろうとすることも必要だがわからないことを許容する余裕のようなものを育てていきたい、そう思った。
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