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初めての外泊/寛解

 抗がん剤治療の第一クール(寛解導入療法)が終わって、マルク(骨髄穿刺)が行われた。
先生の口から無事に寛解に至った事が告げられた。最初の治療の結果(応答性)が予後に大きく関わると聞いていたので、僕達は素直に喜んだ。

 寛解というのは骨髄の状態が正常の範囲にある状態のことで、必ずしも悪性細胞が0になった事を意味しない。一万個の細胞の中にたったひとつでも潜んでいたら、その一つが増殖を繰り返し、やがてまた骨髄は悪性細胞に占拠されてしまう。なので、治療は正常な血液の回復を待って、再び抗がん剤の投与が繰り返されるのだ。

 第二クールが終わって、初めて外泊許可が出た。
外泊のことは他の親御さんからも聞いていたから、すごく楽しみにしていた。
「家に帰れる」子供達にとってもこれほど励みになる御褒美はないだろう。
娘もベッドが壊れてしまうんじゃないかと心配するほど、飛び跳ねて喜んだよ。
まだ外は寒かったから、僕達はこれでもかと言うほどに上着を着せて、病院を後にした。
自宅以外に出かけることは許されて居なかったけど、と言うより自宅以外に行きたい場所などあり得ない。
その週末、僕たちは家族全員が一緒に居られる幸せを噛み締めたんだ。

〜寛解〜

 化学療法は入院中ずっと継続的に行われるのではなく、予め定められた治療計画(プロトコール)に基づいて行われる。 
強力な抗がん剤投与により白血球が減少し、回復の為のクールダウンが繰り返される。その度にマルクによって骨髄の中の状態が確認される。
 骨髄は全ての血液の作りだされる場所だから、幼若な細胞から成熟した細胞まで各成熟段階の多様な血液細胞が見られる。悪性細胞はこの分化途中の細胞ががん化したものだから一見して正常な分化途中の芽球と区別がつかない。元々骨髄にはこの正常な芽球も5%ほど存在する。なので目視でカウントして芽球が5%以内なら寛解と判断されるのだが、必ずしも完治を意味するものでは無い。

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