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ジャズ・バイオリンの素晴らしさを堪能した一夜


今月25日(土)、東京・下北沢にあるジャズ・バー
「NO ROOM FOR SQUARES」に行ってきました。

このお店、去年の9月にできたばかりの非常にお洒落なところですが、流れているジャズを聴くと「本当の音楽好き」ならではのセレクションであることにすぐ気がつくはずです。

それもそのはず、店主はテナーサックス奏者でもあり、多くのミュージシャンと共演を重ねてきた経歴の持ち主。その経緯はこちらの記事に詳しいのでぜひご一読ください。

お店では毎週土曜日の夜にライブを開催しています。この日はちょっと面白いトリオでした。

熊倉未佐子(cl)  永吉俊雄(p)  斎藤ネコ(vl)

クラリネット、ピアノ、ヴァイオリンという異色の編成に加え、斎藤ネコさんが加わっているというのに興味を引かれました。

ネコさんは1962年生まれ。ヴァイオリニストであり、作・編曲家でもあります。椎名林檎さんのレコーディングやバック・オーケストラの指揮で
ご存じの方も多いでしょう。

私自身はネコさんの「お師匠」であるジャズ・ピアニストの市川秀男さんにお話を伺う機会があり、その存在を知りました。市川さんはジャズで旺盛な活動をする一方、膨大な量のCM音楽を作曲している方です。1970年代末、「ピアノを習いたい」と訪ねてきたネコさんに市川さんは才能を感じたのか、アレンジなどの手伝いをさせてピアノは教えなかったということです。しかし、それがロックから舞台音楽まで手掛けるネコさんの輝かしい活動につながっているのかもしれません。

さてライブですが、とても聴き応えのあるものでした。20代の2人との共演でしたが、正直、ネコさんの技量と表現力が図抜けていたと思います。1曲目の「アイ・ミーン・ユー」から強力なスイングでトリオを引っ張り、3曲目の「ボディ・アンド・ソウル」では非常に繊細な音色でリリカルな表情を見せる。2セット目の最初、ピアノとのデュオで演奏した「枯葉」では、高音から低音まで広いレンジで弾きまくり、音の選択の大胆さで聴き手を驚かせていました。

その一方、「ソフィスティケイテッド・レディ」ではメロディの一部が「ミスティ」に似ていると言いだし、急に引用するというお茶目な一面も。これには若い2人が慌てていましたが、何とか合わせていました(何度も急に引用するので演奏者もお客も笑いが絶えませんでした)。こんな豊かな才能が小さなお店でゆったり聴ける、つくづくありがたいことです。

ジャズでヴァイオリンと言えば、ステファン・グラッペリがすぐに思い浮かびます。実際、この日のリーダーである熊倉さんは「グラッペリを思い出す」と言って「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」を選曲していました。

私もグラッペリが聴きたくなったので1枚、取り出してみました。
「Plays Cole Porter : Jazz in Paris」です。

これはフランスのユニバーサル・ミュージックがパリで収録された作品を再発したシリーズの1枚。1975年と76年の演奏ということで、当時のグラッペリは60代後半でしたが非常に溌剌としています。

面白いのはオルガンでエディ・ルイスが入っていること。ピアノとオルガンが一緒という異色の編成もあり、けっこう意外なところでファンキーな味付けがあります。好みが分かれるところかもしれませんが、挑戦を続けたグラッペリの一側面を聴くことができます。

1975年5月と1976年2月、パリでの録音。

Stephane Grappelli(vl) Marc Hemmeler(p,1,7) Maurice Vander(p,2-4,6,9-12)
Eddy Louiss(org) Luigi Trussardi(b,1,3,5,7,8) Daniel Humair(ds)
Guy Pedersen(b,2,4,6,9-12)

①It's All Right With Me
コール・ポーターの中でも有名曲でしょう。冒頭からグラッペリならではの「滑らかなスイング」が全開!メロディから最初のソロまでグラッペリが主導します。メロディはアップテンポにも関わらず、音色の優雅さからちょっとゆっくりにも聴こえます。それがソロに入るとスピード感が急に増し、滑らかでありながら音の選択に「鋭さ」が増していく。ものすごい切れ味で必要な音を突っ込んでくるスリルがあり、そこをぜひ楽しんでいただきたいです。続くマーク・エムラーのピアノ・ソロは平均点以上ですが、グラッペリの過激な音と比べるとややおとなしく聴こえます。その後はエディ・ルイスのオルガン。エレクトリック・ピアノにも思える音色ですが、ファンキーで攻撃的な演奏はグラッペリと釣り合いが取れているように思えます。再びグラッペリが超高速でソロを仕掛けてきて、ここはバンド全体でかなり盛り上がります。最後は高揚感を持ちつつ、あの優雅な音色によるメロディ。グラッペリの幅の広さに敬服です。

⑩You'd Be So Nice To Come Home To
ここでもグラッペリの名人芸が聴けます。メロディはグラッペリ中心で、伸びやかさと絶妙な「間」が素晴らしい!一通りスローにメロディを歌い上げ、ミディアム・テンポに変わる時、曲のスタートから1分14秒ほどのところにある「間」は芸術的です。この「間」によって生まれるスイング感が一気に空気を「揺らす」のです。バイオリン・ソロは哀感に満ちており、曲の雰囲気をじっくり味わったところでテンポが上がってギター・ソロへ。ここから解放感のある展開になり、エディ・ルイスは少々「弾き過ぎ」のオルガン・ソロを取っています。最後はグラッペリがソロとメロディでこの盛り上がった展開を受け止めてまとめています。

このほか、あまり聴きなれない「Miss Otis regrets」でグラッペリがオルガンをバックに縦横無尽なソロを取っているのも印象的です。

今回のライブでは真剣勝負あり、若手にソロを「丸投げ」するネコさんの指令もありと、30人ほどが入ればいっぱいになる小さな会場ならではの親密な雰囲気を楽しめました。こんな素敵な場があることを少しでも多くの人に知ってもらいたく、微力ながらレポートした次第です。
また行こうかな・・・。

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