テレワークは「曖昧な」日本社会で定着するか
東京や大阪など9都道府県の緊急事態宣言が来月20日まで延長されることになりました。
東京に住んでいる実感ですと夜の飲食店の人出は減っていますが、電車の込み具合は「平時」よりちょっと減ったぐらいで「激減した」という感じはありません。在宅勤務はそれほど広がっていないのかなと思っていました。
そうした中、今週、テレワークに関する報道がありました。結論から言うと、「それなりに広がっているが、取りやめた企業も多い」とのことです。
報道では東京商工リサーチの調査が紹介されていました。ことし3月上旬に全国の9800社余りを対象に調査したところ、在宅勤務やテレワークについて「現在、実施している」と答えた企業は3754社(全体の38%)。ことし1月に実施した同様の調査より3%増加していたそうです。
一方で、「新型コロナの感染拡大を受けて実施したが、現在は取りやめた」と答えた企業が1725社(全体の17%)にのぼり、課題に直面しているところが多いことも窺えます。
その要因として挙げられているのが「職場でのコミュニケーション」です。企業が行っている調査やネットでの声でも「コミュニケーション機会の確保」が課題として挙げられていることが多く、そう簡単ではないことが分かります。
職場にいなければPCを介してコミュニケーションを取れば良さそうなものです。しかし、「ちょっとした」情報が入ってこなかったり、上司からどう見られているのか分からないという不安は私も自分の経験から「ありそう」だと思います。
特に日本の旧来型の組織では評価基準が曖昧なので、よほど能力が高い人以外は「目立った方が何となく出世する」という側面があります。そんな中では「職場でやってる感」を出すことも重要と捉え、せっせと出社してしまう人がいても不思議ではありません。
本当はリアルに会っていなくても、それぞれが職務をきちんとこなして、いざ動くという時にはチームワークを発揮すればいい話なんですけどね・・・。
そんなことを考えていたら、「再会セッション」の成果が収められた作品を聴きたくなりました。ジェリー・マリガン(bs)の「リユニオン・ウィズ・チェット・ベイカー」です。
ジェリー・マリガン(1927-1996)はモダン・ジャズ界でバリトン・サックスの名手として圧倒的な存在感を誇ってきました。彼の輝かしいキャリアの中でもトランペット奏者のチェット・ベイカー(1929-1988)と1952年に結成したピアノレス・カルテットはウエスト・コースト・ジャズの印象を決定づけたバンドとして知られています。このカルテット、実は1年ほどしか活動していなかったのですが、マリガンとベイカーはその後も共演を果たしています。
「リユニオン・ウィズ・チェット・ベイカー」は正式に録音されたものとしては最初の共演で、1957年に録音されました。私が持っているのは再発された輸入盤CDで、リイシューを手掛けたマイケル・カスクーナはライナーで次のように述べています。
このマリガン~ベイカーのセッションを「それほど成功していない」と批評している者もいる。しかし、結果は非常に秀逸なものだ。確かに、オリジナルのカルテットにあったある種のひらめきや活気は見受けられない。しかし、5年を経た彼らとその音楽は成熟している。彼らが企てたのは「リバイバル」でもなければ「レクリエーション」でもなく、単なる「リユニオン(再会)」でもないことは明らかだ。
(拙訳)
実際、しばらく一緒に演奏していなかったとは思えないほどマリガンとベイカーの息が合っていて、かつ力が抜けています。やはり、一流どころは久しぶりの「リアルセッション」でもいい仕事をしますね。
1957年12月3日、11日、17日、NYでの録音。
Gerry Mulligan(bs) Chet Baker(tp) Henry Grimes(b) Dave Bailey(ds)
①Reunion
マリガンのオリジナル曲。マリガン~チェットらしい適度なスピード感があります。ちょっとクラシックな車に乗っているような感覚ですかね。デイブ・ベイリー(ds)の歯切れのいいブラッシュ・ワークに合わせて2管がメロディを提示します。最初のソロはマリガン。相変わらずバリトンとは思えない軽々としたスイングを披露します。これを受けてチェットも気持ちのいい風に吹かれているようなソロを披露しますが、ここからマリガンが絶妙な「バック」をつけてピアノがないことを感じさせないのが重要です。このバッキングはベース・ソロまで続き、「邪魔にならず、しかしバンドの駆動力になっている」点で実に見事です。
④My Heart Belongs To Daddy
コール・ポーターの作曲。今回、聴きなおして「再発見」した曲ですが、アレンジが良い。マリガンのみで入るダークなイントロからやがてリズムが加わり、そこにトランペットが参加して躍動感が増すという「段階」が期待感を持たせます。最初のソロはチェットですが、メロディの延長でいつの間にかソロに入る演出がなかなかニクイ。チェットの溌溂としたソロの後にマリガンが続きます。ここでの彼は低音を意識的に選びながら非常に旋律的なソロを披露しており、歌心を存分に味わうことができます。ヘンリー・グライムスのベース・ソロにマリガンとチェットが「合いの手」を入れる面白さもこのバンドならでは。やがてカルテットが一体となってエンディングにつなげていく流れが最高です。
そのほか、バップ魂が出た ⑨Ornithology といった演奏もなかなかです。
今回の作品を聴いて思ったのですが、テレワークがうまくいかない原因は「何をすべきか」が組織で共有されていないからではないでしょうか。そこがはっきりしていれば、久しぶりのチームワークを行う際に「自宅で私はここまで達成しました」と胸を張って言えますものね。みんなが納得できる成果さえあれば文句を言う人はいないはずです。
どこまでも曖昧な日本社会で、テレワークは定着するのか。「子供の送り迎え」で働けないといった状況を解決する一歩でもあるので、ぜひ広がって欲しいと思います。文化的なところまで話が広がるので大変ですが、社会を変えるいい機会であるはずです。