夏の定番!「蝉の羽化」
ヤマビルに膝裏を吸われているとはつゆ知らず、私は真剣にそれを観察していた。
山からの帰り道、シダの葉の裏に何か濃い茶色の物が見えた気がしたのだ。
一度は通り過ぎたけど、なんとなく生き物の気配を感じたのでわざわざ戻って見たら、今まさに羽化しようとしている蝉の幼虫であった。
蝉の羽化を見るなんて、幼少時代の夏祭りの行きしな以来かも。
日没まであと1時間はあるし。これは見るしかない!
見始めたものの、それはそれは想像通りゆっくりな動きで・・・
でもじわじわと着実に頭から幼虫の殻をやぶり、青白い成虫の蝉の姿が見えてくる。
今思えば、上半身まではまだ早かった。おしりはまだ殻に残したまま、反り返った状態で逆さまにぶら下がっている。
水色のようなパステルグリーンのような美しい色をしたしわくちゃの羽根。ジッとそのまま動かない宙づりの蝉。よくこの体勢でずり落ちないなー。
たまに手をそーっと伸ばしたり、体を九の字に曲げようとしたりするけどなかなか思うように動かないらしい。体が乾くまでお腹も曲げられないのかな?腹筋に力が入らないのかな?
まるで顔が濡れてしまったアンパンマンのようだ。
ここまで約30分。ただただ風に吹かれてシダと共に揺れている。
テレビなどで誰もが一度は見たことあるだろう。蝉の羽化の早回し映像。それを思い出すと、次の工程は体を前かがみにして殻の頭を持ち → お尻を殻から抜いて → 手でぶらーんとぶら下がるやつになるはずだ。
その劇的瞬間を動画に残そうとiphoneをさっきからかまえているのだが、全然動かぬ。無理な体勢に足腰は疲れるし手もプルプルしてくる・・・。
憎きヤマビルにとっては、その頃飲み放題の至福の時だっただろう。
しばらく待つことさらに数十分。
思い切って体を曲げた蝉が、ヨロヨロとした頼りない手で殻を掴んだ。と同時にゆっくりお尻も殻から抜け、足がぶらん。
手の力だけで捕まっているから風にあおられて落ちないか心配!
なんとかその一通りの動きも動画に残すことができたから、もう満足だったけど、まだ羽が伸びきっていない。そこまでは見届けてあげよう。っていうかこいつは何蝉?
なんとなくアブラゼミは平凡で嫌だなー。普段鳴き声だけで姿をあまり目にしないからヒグラシがいいなー。なんて思っていたが、ネットで調べたところやはりありふれたアブラゼミの画像そっくりだったので少し残念な気持ちになる。
蝉の羽が無事にピンとまっすぐになるのと日没はほぼ同じだった。
よかったー!これで後は乾いて無事に飛ぶことができるといいね!
薄暗い森、どこからともなくするアンモニアのような獣臭に不気味さを感じ我に返った私は一目散に森を出たのであった。