「世界樹の棺」筒城灯士郎 読み終えました。

著者の前作である「ビアンカ・オーバーステップ」があまりにも面白かったので、新作である「世界樹の棺」も紙で購入したのですが、そのころには完全に電子書籍派になっていたためずっと積読状態になっていました。
それが、2020/8/31にようやく電子書籍化されたので早速購入、一気によみおえました。(ひと月前ぐらいに星海社文庫は鳴り物入りで電子書籍化されてたんですが、Fictionsは対象外だったのでひそかにキレてました)
「ファンタジー・SF・ミステリー」を謳っているだけあって前半に伏線が多く、再度読みなおしたいですがひとまず一週目の感想や考察を…

9/4 追記 二週目読み終えましたので追記をしました。

・一週目の感想

 序盤は王様や姫、王子といった人物や会話の内容から中世風ファンタジーの印象を強く感じさせられ、主人公が勤め先であるお城に向かうまでの城下町の雰囲気などもとてもほのぼのとしててちょっと拍子抜けでした。
 他登場人物の名前がたいていカタカナなのに対し、主人公の名前が「恋塚愛埋(こいつか あいまい)」と日本風の名前だったのが気になりました。よくある異世界転生ものかな?とも思いましたが予想は外れたので結局はミスリードを誘っていただけなのかもしれない… 
 後半に向かうにつれて何とも言えない違和感に襲われたり、「世界樹の苗木」を中心に物語が動いていき夢中になっていきました。


 物語は大きく二つあり、それが交互に展開されていきます。
 ひとつが、<古代人形>が住むという「世界樹の苗木」に異変があったため愛埋がハカセとともに探索するが、そこに住む人間を名乗る6人の少女と出会い、密室殺人事件に巻き込まれるという話。
 もうひとつが、<引き金>と呼ばれるラインハルトが石国の王とともに「世界樹の苗木」の強制調査を行う。それを心配した姫が愛埋を引き連れて王を追いかける、といった話。

 読み進めていくと、双方の辻褄があわない箇所だったり、形状しがたい違和感などがどんどん湧き上がっていくのですが、後半に近づくにつれて次第に点と点がつながっていき、最後の挿絵で意味が分かったときはちょっと鳥肌がたちましたね。SF的な答え合わせになかなかのカタルシスを感じました。
 密室殺人事件に関する部分はミステリに造形が深くないのですぐにわからなかったですが、物語の設定の根幹にかかわるトリックが使われていて、なくてはならない要素になってました。

  また、やはり今回も百合要素がありましたね。姫と愛埋であったり、世界樹の住人であったり… とはいえ前作のオーバーステップに比べるとアクセント程度ではありましたが。最後の一文は好きです。

 途中で挟まれる劇中劇のようなシーンやメタな表現など、いろんなところで言及されているジャンルごった煮SFでとても楽しかったですね。
 相変わらず会話劇が読みやすかったのもよかったです。

・一週目で気になった点のまとめ

 ジャンル的にかなり伏線が多かったので、気になったところを覚えている限り箇条書きにしてみます。順序はバラバラです…
 二週目はこれらに気を付けて読んでいきたい。

以下ネタバレ注意





・まず時系列は?
最終戦争、いわゆる古代文明が滅ぶ。いまいちどのくらい人間が残っているのかよくわからん。
→(?年後 冒頭)→
川で姫の妹と愛埋が打ち上げられているところを姫が発見(おそらくこの時点で愛埋に妹の魂)。
→(3年後 姫とメイドパート)→
世界樹の中には沢山の古代人形(?)がいた。

棺の中には吸魂の巨人(?)がいた。
ラインハルトはまるで棺(というより吸魂の巨人?)の場所がわかっているような行動をとっていた

吸魂の巨人に愛埋がくちづけ。
これでどうなるのかちょっと読み込み不足でわからなくなった。たぶん、吸魂の巨人に愛埋(というか姫の妹)の魂が移った or 愛埋に吸魂の巨人の魂が移ったのどちらか。

2度目(?)の最終戦争が起き、人は皆人形に魂を移した。
→(?年後 ハカセとメイドパート ※アンリやグレイの事情を考えると大きな間はない?)→
ハカセとメイドパート
このときの愛埋の魂は?

・前述した通りどうして愛埋とハカセは日本風の名前なのか?

・「恋塚」については作中で若干触れられていたが、「愛埋」は何か意味がある?(愛理とめっちゃ読み間違えた)

・最終戦争前の世界樹の苗木の族長の名前が「コイツカ」だったのは意味があるのか?

・結局最終戦争前の「世界樹の苗木」の住人は人だったのか、<古代人形>だったのか?

・最終戦争前の愛埋は姫の妹の魂を受け取った<古代人形>だったわけだが、その出自は?また姫の妹の記憶を失っていたわけは?(ここに百合を感じる(?))

・吸魂の巨人って結局なんだ?その後の愛埋は?

・お姉さんことグレイさんはなんで行動を共にしていた?最終戦争前のお姉さんと同一人物?

・アンリがグレイを殺した方法については説明がほとんどなかったので読み直しで確認。
 (今思えばもしかしたらお姉さんはまだちゃんと人間だった気がするので、アンリにとっては唯一同じ景色を見られる人を殺したことになるのか… かなりしんどいな)

・密室殺人にのトリックに関しては正直読み飛ばし気味だったので読み直す。

・愛埋らが<古代人形>だった伏線探し。(ぱっと思いつくのはレギュラーコーヒーとハイオクコーヒーのくだりやハカセの足音)

・ラインハルトが、世界樹の苗木内での目的を場所が分かりきったかのような行動をとっていた理由。(ここで時系列の前後関係をミスリードさせようとしていたのはわかる。)

・クリスタルの短剣、割れなかったっけ?

・ラインハルトの異能って?

ぱっと思い出せたのは以上ですね。
二週目が終わったら追記していきたいです。


・二週目を読みました

 二週目読み終えました。なるほど~となる箇所もあればやっぱりわからないこともいっぱいありましたね…

 まず時系列に関しては一週目の想定通りのようですね。ただ、ハカセとメイドパートの愛埋の魂に関してはちょっと難しかったですがおそらく姫の魂ということだと思います。
 根拠は以下のことが挙げられます。

○確定していること
・姫とメイドパートのラストで、愛埋が古代人形であると明言されている。
・姫とメイドパートのラストで、愛埋が吸魂の巨人に魂をささげている。
・<ケッコンシステム>はすでに魂が入っている古代人形が相手の場合は無効である。
・<ケッコンシステム>は上記にのっとっていれば古代人形同士でも有効

○想定されること
・吸魂の巨人に魂をささげた際、元の体は魂が抜けた状態になる?
・愛埋が姫の頬にキスしたシーンで、姫が『眠れる森の美女』のようにキスをすると言っている。
・ラストの愛埋メモの追記は、姫が愛埋に向けたメッセージ?

ただ、正直良くわからんことも多いです。
以下のことが良くわかってない、、
・なぜ姫は愛埋と名乗っている?(愛理だと思っているのか?でもメモを考えると違うようにも思える)
・ラストで自分が何者か理解しているとあったが、それは<創造主の安眠>と矛盾しないか?(でも自分が古代人形とは思ってないようにも感じるし…)

とはいえ、<創造主の安眠>があまりにも何でもありなので考えすぎてもって気もします。ただ、二週目でちゃんと整理しながら読めたので最後の一文の強さがより心に響きましたね…


ほか気づいたこと…

・名前について
 『ふたつの魔法』内でHAL斗がケッコンシステムについて語るときの長台詞の中に、登場人物の名前が含まれていましたね。(仄か、unreliableなど…)
とくに、曖昧模糊はちょっといいな、と感じました。(主人公の愛埋とお姫さまの名前であるモコ)
族長の「コイツカ」についてはやっぱりわかりませんでしたね… ブランド名とかですかね。

・世界樹の苗木の住人について
 これは十中八九古代人形だったんでしょうね。人間の食物を要求していた理由はどうにもわからないですが、人間と精巧に似せられていたのでなんとかなるのでしょう。(語られていた通りエネルギー効率は悪そうだけど)
なにより本人たちは人間だと思ってますからね、自分のことを。
そして、本編でも書かれている通り最終戦争によって世界樹から抜け出していったみたいですね。

・グレイさん(お姉さま)について
 最後までよくわからん人でしたね…多分人間です。
両パートに登場していますが、同一人物でしょうね。
ファミリーネームがエヴァーハルトとなっていましたが、この名前はプロローグでも出てきていますね。プロローグで出てきた艦の艦長がきっと兄貴なのでしょう。


・ウロン(吸魂の巨人)について
 いまいち分かってないのがこの人の存在。扱いは古代人形になるのか?それとも<ケッコンシステム>の枠から外れた兵器という扱いになるのか?
愛埋の魂を吸い取っているけれど、人格はウロンのままのようなので<ケッコンシステム>の枠から外れているのかもしれない。
話しっぷりからすべてわかっているんだろうなぁ。

・『ふたつの魔法』の姉の死因
 小ネタ的なはなしだけど、ポッキーが散らばっていたのでポッキーゲームでもしてたんじゃないかな?
ポッキーゲームレベルのおふざけで人が死ぬの怖すぎる。
ってかセクサロイドにキスで発動するような機能つけるのやばすぎないか?????

・ラインハルトについて
 結局異能ってなんなんだろう。さっぱりわからなかった…
「今は違う」みたいなことを言っているので過去か未来に干渉するような能力な気がするけれども。時系列的には未来?
あと、錆びた剣で刺されて死んだときの「汚い剣だ」というセリフ、冒頭の「美しい剣で死にたい」と言っていたのを思い出させられてよかった。


 いや~二週目よむと密室殺人のトリックを推理することに脳のリソースを割かずにすむのでより物語がたのしめました。
ビアンカに続いて姉妹百合になるんですかねこれも。愛が重いぜ。
著者がカクヨムで書かれていた作品もなかなか面白いですが(とくに「東向きのエミル」はかなりハチャメチャなジュブナイルって感じでおすすめです。SF感は薄いですが)、このくらいごった煮のSFどんどん読みたいので今後も活躍してほしいです。

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