計画的夜散歩。
0時に家を出た。
ひんやりとする風が吹いていて、すっかり秋の夜だった。今日は計画的夜散歩をする日。
見慣れた住宅街を歩く。
迷ってもいけないから国道沿い 線路沿いを歩こう。
車通りはまだ多く、ヘッドライトと街灯で道はオレンジ色、なんだか街が明るく感じる。車はどの時間でも走ってるんだねなんて話しながら歩く。
2時間くらい歩いたら川を渡る長い橋に着いた。河川敷の向こうにビルの夜景が見えた。
いつか川崎の工場夜景を見に行きたいな。
空気が澄んでいて上を見上げたら星が見えた。
オリオン座を見ながら、確かにオタクは夏の大三角を「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」の順番で覚えてるなあと考えてた。
橋を渡ったら壁のように大きな駅にたどり着いた。
マックで休憩をしようと思ったらなんとマックはやっていなかった。迂闊。さらに調べると深夜はテイクアウトのみらしい。やられた。
しょうがないからベンチで夜風を浴びた。
汗ばんだ体が冷えて、光に誘われるようにコンビニに入った。恋人は月見まんじゅうを買って、私に少しくれた。
終電がなくなった駅は帰る手段を失った酩酊者で溢れかえってた。終わった街。
スウェットすっぴんの女2人が歩いても声をかけられないけど安全ではないだろう。まあこの時間に散歩しようと思えるのは、日本の治安に信頼を置いてるからだけど。とその恩恵を受けて夜道を歩く。
3時を過ぎるとさすがに寒くなってきた、気温は16℃くらい。それでもスウェット一枚でいいなんていい季節だ。寒いくらいが頭が冴えてちょうどいい。深夜3時に冴えてる頭なんてない。
歩道橋から見た道路はがらんとしていて、車ひとつ通っていなかった。変わる信号も意味をなしてない。
世界に私たちだけみたいと安易なことを考える。
歩道橋の下にあった24時間スーパーに寄ってパンケーキのパンを買った。恋人はワイズマートを知らなかった。ワイズマートが千葉県に多く埼玉県には無いことを千葉出身の私は初めて知った。
味違いのパンケーキ、恋人はチョコで私はカスタード。甘味は分かりやすく心を元気にした、歩きながら食べるのもいい。早過ぎる朝ごパン。
4時、夢うつつな混沌の時間。犬の散歩をしているおばあちゃんに「おはようございます」と声をかけられた。カゴに荷物を入れて自転車で走り抜く人がいた。
そろそろ街が起き始めている、私たちは区切ることなく時間を通り過ぎてる、延長した夜を歩いてる。
あと1時間もしたら都会に入るから、もう一つ遠くの駅まで行こうか、鶴ちゃんだったらもうヨガしてる時間だよ。なんて話していたけど
ここまで4時間、ほとんど休憩なしで歩いていたから足の裏がじんじんとしてきていた。
もうどこかで朝ごはんを食べて始発に乗って帰ろう。と線路沿いをゆっくり歩いた。
都会は眠らない。目を充血させたスーツ姿の人や乱れ姿で座る女性、青ざめた顔で蛇行歩きをする人。
2人でお出掛けして歩いてきた道が異様な光景に包まれてた、昼と夜では見せる顔が違った。
ここに居る人たちもきっと、働いてる時はもっとまともな顔をしている。どうしようない日常を酒で流し込んで生きてる。
グロッキーな人が道を汚し、恋人は「見てらんない。」と毒を吐いてた。
ファミレスの24時間営業ははるか昔の記憶だったようで、朝5時から朝食セットがある牛丼チェーン店に入った。
いつどこを歩いてても営業してた牛丼チェーン店。そういえば牛丼チェーン店ってどのお店も看板が暖色でポップな気がする、夜を生きてる人を支えてる暖かさがある。
ソーセージエッグ定食二つ。
半熟の目玉焼きは白米の上に乗せて、目玉焼き丼にした、パリパリのソーセージは1本だけというところが名残り惜しくていい。
恋人は大盛りにしていい?と白米を山盛り食べてた。
想定以上に多かったのか「味噌汁飲む?」と私にくれたのがかわいい。
味噌汁の塩分が体に染みわたる、ようやく夜から朝になった。
食べ終わった頃にはもう始発電車が動き始めていた。
電車から朝焼け見て帰ろう。
ガラガラの車内でくだらないことでゲラゲラ笑った。車窓から見た朝日が夜散歩終わりの合図だった。
家に着いて2人泥のように眠った。
私の小さな野望に付き合ってくれてありがとう。恋人といるから意味のないことに意味があると思える。
そんな恋人は「次は日の出を見に行くために歩いたらいいんじゃない?」とまだまだ乗り気だったから笑った。
次は恋人と何をしようかな、何を企もうかな。