スナック街にある『小さなBAR』が私をウィスキー好きにさせた話
これからお話しするのは20年ほど前の話になります。
そこはスナックが立ち並ぶ雑居ビルで、よほど好きじゃないと知らないようなビルの一角にある小さなBAR。
初めて行ったのは、会社の先輩に散々飲みに連れまわされた日。
「最後の店だ」
と先輩に言われるがまま連れてかれたが、正直酔っていて初見での記憶は曖昧で、そのBARで何を飲んでいたかもいまいち覚えていなかった。
カウンター6席に小さなテーブル席、たぶん以前はスナックだったのであろう内装や造りとなっていながら、カウンターの後ろには小さなバックバーに見たこともないオシャレでかっこいいお酒のボトルがずらりと並んでいる。
どう見ても場違いであったであろう若者相手(当時の私)にもその小さなBARのマスターは、気さくに対応してくれたのを今でも覚えています。
それ以降その雰囲気の良さに、まだお酒も全然知らない私は、一人で通うようになりました。
行くと決まってマスターは、私が興味惹かれていたウィスキーについて由来や知識を話してくれながらいろいろ教えてくれました。
そのウィスキーの話が特に好きで、どうしてもかっこつけたかった私は、周りの心配をよそにストレートにこだわり、そして帰りは千鳥足でと...今では恥ずかしい思い出話です。
そして決まって行くと出してくれる特製の『ビーフストロガノフ』と『こんがり焼いたパン』、ブルーチーズ、キャラメルソースを添えたセット。
シンプルながら絶妙なうまさ、お酒が進んでしまい、時を忘れて楽しめる居心地のいい場所でした。
『隠れ家』ともいえるそのBARは、私が思っていた以上に他のお客様も人を連れて来店することはなく、決まって一人で来る方が多かったそうです。
みんな同じように
【誰にも知られたくな秘密の隠れ家】
なんだと思いました。
そんな場所だからこそ、【信頼できる人】しか連れてこないというお客様も多いそうで、これは後に知ったのですが、BARのマスターいわく、私を最初に連れてきてくれた『会社の先輩』も人を連れてきたのはあの日が初めてだったそうです。
それを聞いて普段はやや強引なところがある先輩でしたが、言葉では語らずもそう思ってくれていると思えば何より嬉しい事でした。
数年後、そのお店は閉店となってしまいもう二度と行くことができなくなってしまいましたが、大人の隠れ家のようなお店に気さくで紳士なマスター、安心する料理とかっこいいボトルのウィスキー、そして絆と信頼。
行くたびに勉強と驚き、楽しく癒される至福な時間が味わえたBAR。
ゲール語で『小さな湖』という店名のそのBARの、重い扉を開くと小さいとは程遠い、大きな期待があふれていました。
そして『かっこいい大人』を教えてくれたBARでもありました。
それから私もおっさんになり、あの日以来すっかりウィスキーにはまってしまったのは言うまでもないのですが、合わせて今では、信頼できる後輩を連れてけるような小さなBARを探しています。
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