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 あちらこちらを撃ち抜かれ、基地まで飛行し、帰投してきたことが不思議なくらいの機体から、戦友の遺体を引きずり出した光景と、目の前で上官が拳銃自殺をした日の、青い空を、杉本は忘れられなかった。
 その日までに、たくさんの戦友が空襲の都度、引きちぎれた体を晒し、その度に彼は友を回収し焼いてきたが、彼の心に終わりを突きつけたのは、この二人の死であった。
 戦争が終わって、真夜中の夢や畑仕事の合間にみる幻に、楽しかった飛行機乗りとしての思い出よりも、光を失った瞳や粉砕された体、そしてその時の慟哭だけが蘇ってくる。
 懐かしい若い頃の自分には、もう戻れなかった。優しい微笑みを絶やさなかった上官と、食い物のことで言い争いをした、弟のような戦友の記憶は遠のいて、朗らかに生きていた自分が嘘のようであった。

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skyhigh0の創作のnote
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