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ベートーヴェン 孤高の楽聖その音楽と闘争のドラマ
ボンの天才少年、ウィーンの野心家へ
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが生まれたのは、1770年のドイツ・ボン。幼い彼にとって音楽は逃れられない宿命だった。というのも、父親ヨハンは野心に燃える「教育熱心」な人物で、息子を新たなモーツァルトとして世に送り出そうと躍起になっていたのだ。
ただ、その熱心さは少々度を越していた。深夜に叩き起こしてはピアノの前に座らせる、ミスをすれば叱責は容赦なく、子ども時代のベートーヴェンは文字通り「父の夢」を押し付けられる形で音楽の世界に押し込まれた。愛情というよりは執念が見える教育だったが、皮肉にもこの厳しい環境が彼の天才を開花させる土壌となった。
しかし、彼がただの父親の操り人形で終わることは決してなかった。9歳で地元の宮廷楽団に加わり、音楽家としての初めの一歩を踏み出すと、その卓越した才能は早くも周囲を驚かせた。ピアノの前では、まるで全ての音が彼の指先に従うかのようだったという。その才能が評価され、12歳になる頃には、作曲家として作品を生み出すまでに成長していた。
だが、ボンの小さな世界に彼を留めておくにはあまりにその才能は大きすぎた。
1792年、22歳の若きベートーヴェンはウィーンへ向かう。
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