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青空文庫で読書タイム〜すいせん編

日本人にとって春を感じる花と言えば「桜」。ここイギリスでは「水仙」がそれに当たると言えそうだ。3-4月ごろにもなると、各家庭の庭先や道端に一斉に咲き広がる。冬の暗さに耐え忍んだ人々の心を一気に明るくしてくれる。

まだまだ寒い日が続く1月。水仙の花畑を見られるまでは、しばらくの辛抱だが、店頭では水仙の切り花が売られ始めている。例年、ご近所のご老人ミセス・スミス家の窓辺に水仙が飾られるのをゴーサインとして、我が家でも切り花を購入するが、ロックダウン中の鬱屈した気持ちを明るくしたくて、昨日、ミセス・スミスより先に購入してしまった。

そこで今日は青空文庫で「水仙(すいせん)」をテーマに読書してみた。

①太宰治「水仙」

水仙の絵は、断じて、つまらない絵ではなかった。美事だった。なぜそれを僕が引き裂いたのか。それは読者の推量にまかせる。静子夫人は、草田氏の手許に引きとられ、そのとしの暮に自殺した。

私は凡人だから、天才の気持ちは計り知れない。天才は、いかにして自分の真価を知るのだろうか。この小説には、自分の真価を信じられない天才の、「煩悶(はんもん)と、深い祈り」が描かれている。周りの評価を自己評価にしていた場合、周りを信頼できなくなったならば、自己の破滅が待っているのだろう。私には、自分を過信する傾向があって、恥ずかしい経験もけっこうしたが、最終的には「自分を信じる」しかないのかもしれないとも思っている。

②宮沢賢治「水仙月の四日」

「カシオピイア、
 もう水仙が咲き出すぞ
 おまえのガラスの水車みずぐるま
 きっきとまわせ。」

人間には見えない雪婆んご(ゆきばんご)、雪童子(ゆきわらす)、雪狼(ゆきおいの)が起こす大吹雪とそれに巻き込まれる子どもを描く童話。吹雪が多い、北海道の片田舎出身の私には、この吹雪の描写がリアルに感じられた。素敵だなと感じたのが、色の表現。舞台は、白一色の銀世界だ。その中に、差される色の数々。子どもが巻いている「赤い毛布」、「美しい黄金(きんいろ)のやどりぎ」、「群青(ぐんじょう)の空」、「ビール色の日光」、「桔梗(ききょう)いろの天球」、「東のそらが黄ばらのように光り、琥珀(こはく)いろにかがやき、黄金(きん)に燃えだしました」、「日光は桃(もも)いろにいっぱいに流れました」。そして、水仙の黄色がほわんと浮かび上がってくる。なんとも、美しい。

④薄田泣菫(すすきだきゅうきん)「水仙の幻想」

水仙は多くの美しい生命をもつものと同じやうに、荒つぽい、かたくなな土の中から生れいでながら、その母なる土を浄めないではおかないのだ。
すべての香気は、人の心に思慕と幻想とを孕はらませる。私は水仙の冷え冷えとした高い芬香に、行ひ澄ました若い尼僧の清らかな生涯を感じる。

水仙に「尼僧」を感じたことがなかったので、まさに新感覚。外に、水仙が咲き始めるのが楽しみになってきた。私は、どのように感じるだろうか。所詮、「きれいだな」ぐらいの感想になるのだろう。

⑤英詩人ウィリアム・ワーズワース(William Wordsworth)「水仙(The Daffodils)」

I wander'd lonely as a cloud
That floats on high o'er vales and hills,
When all at once I saw a crowd,
A host of golden daffodils,
Beside the lake, beneath the trees
Fluttering and dancing in the breeze.
——
Continuous as the stars that shine
And twinkle on the milky way,
They stretched in never-ending line
Along the margin of a bay:
Ten thousand saw I at a glance
Tossing their heads in sprightly dance.
——
The waves beside them danced, but they
Out-did the sparkling waves in glee:
A poet could not be but gay In such a jocund company!
I gazed - and gazed - but little thought
What wealth the show to me had brought.
——
For oft, when on my couch I lie
In vacant or in pensive mood,
They flash upon that inward eye
Which is the bliss of solitude;
And then my heart with pleasure fills
And dances with the daffodils.

イギリスの詩人ワーズワースの詩には、心踊るような明るい雰囲気が漂う。イギリスに水仙が咲き誇るまで、あと数ヶ月ある。昨年から、続くロックダウンで、大好きなパブでの飲み会も旅行もクリスマスでさえ我慢したイギリスの人々。今年こそ、水仙と共に心踊るような明るい春になってほしいものだ。

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