窓辺からの眺め
朝の光が部屋を優しく包む5時半、美月は眠りから覚めた。目を開けると、そこには繊細なレースのカーテンが揺れ、窓辺の観葉植物が静かに生きていた。彼女は布団の中で静かに目をこすり、一日が始まったことを思い知った。新たな一日への抵抗感が心に広がり、しかし、彼女はしっかりとそれを受け入れ、布団から這い出た。
彼女の部屋は無駄がなく、それは美月自身の生き方を映し出していた。壁に沿って並んだ古びた本棚は彼女の世界を代弁していた。本が詰まった棚から一冊を選び、彼女は静かに読み始めた。文字が綴る物語の世界は、現実世界の喧騒から彼女を切り離し、心地よい孤独へと誘った。
朝食の準備ができたことを知らせるため、母親がそっとドアをノックした。母の心配そうな声が耳に入ると、美月は微かに心を痛めた。彼女は母親を心配させてしまう自分自身を責めることはなかったが、それでもその表情は彼女の心を揺さぶった。「美月、ちゃんと食べなさい。体を大切にしないと…」母の優しい言葉が廊下から聞こえた。
「ありがとう、お母さん。でも、食べられないの…」美月の返答はほんの小さな声だったが、母親にはちゃんと届いていた。母親は何も言わずに去って行き、その後に静寂が広がった。美月は一人きりになり、再び本に目を通した。
彼女は自分の部屋を出て、閑静な通学路を進んだ。その道のりは彼女にとって安らぎの時間で、人々の視線から逃れ、自分自身と向き合うことができた。一歩一歩と地面を踏みしめる度に、彼女の心は静かに落ち着いていった。
学校への入り口をくぐると、彼女の心臓が高鼓動を打つ。人々の笑い声、元気な挨拶。彼女はそれらが一体何を意味するのか、どうして人々はそれほど楽しそうに会話を交わせるのか理解できない。彼女にとって、それらは遠くの存在であり、見守ることだけが心地よかった。
学校の廊下は人々で溢れており、その中に美月の存在が混ざることはなかった。彼女は無言で進み、自分の教室に向かった。誰もが元気にお互いに話し掛け、笑っている中、彼女は静かに席に着き、本を開いた。
文字を眺めると、現実の世界の騒音は徐々に消え、彼女の心は再び落ち着きを取り戻した。物語の登場人物たちは彼女に話しかけ、彼女はその言葉を受け入れた。彼女は自分自身を物語に投影し、共感し、理解した。物語の中で彼女は自分自身を見つけ、世界を見つけた。
「美月、元気?」突然、彼女の隣に座る女子が声をかけてきた。その声は優しく、少し心配そうだった。
「ああ、大丈夫。ありがとう、心配しないで」美月はゆっくりと頷き、彼女に微笑みを返した。彼女の声は小さく、しかし確かにその場に存在していた。
それが美月の日常だった。自分の中に閉じ込めた感情、他人との距離感、それら全てが彼女の世界を形成していた。だけど彼女はそれを受け入れていた。彼女は自分自身を理解し、認め、それが自分だということを受け入れていた。彼女は自分の中にある全ての感情を尊重し、他人との距離を大切にしていた。
美月にとって、その日常は特別なものではなかった。ただ、それが彼女の生き方であり、それが彼女自身だった。彼女は静かに生きていき、自分自身を見つけ、理解し、受け入れていく。それが美月の一日の始まりであり、それが彼女の世界だった。