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短編小説

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2017年5月の記事一覧

きみのことが可哀想

きみのことが可哀想

 

 だれも気づいていないけれど、ほんとうは、きみが特別可愛いものが好きだってことを知っている。ヘアゴムの留め具はよく見ると花柄が入っているし、パンプスに隠した両足のペディキュアだって蛍光のピンク色だ。しかし、残念なことに、それらはどれもほんの少しだけ可愛すぎていた。きみの容姿と言えば長身でスレンダー、黒髪のロングヘアーに切れ長の一重で、おまけに今年の春から新規プロジェクトリーダーに抜擢されるほ

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日曜日の夜、美由紀は考えた。

日曜日の夜、美由紀は考えた。

 日曜日が終わる夜に、美由紀は夕食を食べながら考えた。

 一人分の料理をするのはもったいないからと買ったスーパーのお総菜コロッケと、温めた冷凍ご飯、せめてもの健康への気遣いで並べたもずくパックと豆腐たちは、なんの味もせずに彼女の舌を滑り去っていくだけだった。そもそも、味なんてなかったかもしれない。音量を落としたテレビの音は、さっきから他人の笑い声ばかりで、なにひとつ面白くない。でも、人生って本来

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絵を描く

絵を描く

 絵を描くことが好きだった。
 完成したときに、間違いなく、自分が描いたものだって一目でわかるから。子供の頃、母親に怒られるのに部屋中にらくがきをして回ったのは、そういう特別なしるしを残すことが単純に好きだったのかもしれない。

 高校の美術の先生に勧められるがまま、私はごく自然な流れで、美大受験の予備校に進んだ。予備校にはひどく変わっていると思っていた自分よりも個性的な人がたくさんいて、クラ

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紫色のチェックのシャツ

 占い師の女は私の目を見つめて、こう言った。
 あなたの運命の人は、紫色のチェックのシャツを着ています。えっと、他になにか特徴はありませんか、と私はすかさず尋ねたけれど、占い師はもったいぶって残りの十分間うなるばかりで、結局服装以外のヒントはなに一つ与えてくれなかった。
 新宿東口の狭い占い屋を出て、とりあえず近くのスターバックスに入り、私は二階から大通りを見下ろしながら運命の人を探した。さっきの

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