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真夜中のディズニーランド
真夜中に見かける隣の工事中のマンションは、まるでディズニーランドのアトラクションみたいだった。あの街に越してきたとき、そこはまだ閉院したばかりの病院で、しばらくの間廃墟として残っていた。けれど、オリンピックに向けた都市開発で大規模な工事が行われ、いつの間にかタワーマンションの建設が始まった。
アルバイトを終えた帰り道、駅から続くなだらかな坂を上りながら、私はその景色をじっと見つめるの
日曜日の夜、美由紀は考えた。
日曜日が終わる夜に、美由紀は夕食を食べながら考えた。
一人分の料理をするのはもったいないからと買ったスーパーのお総菜コロッケと、温めた冷凍ご飯、せめてもの健康への気遣いで並べたもずくパックと豆腐たちは、なんの味もせずに彼女の舌を滑り去っていくだけだった。そもそも、味なんてなかったかもしれない。音量を落としたテレビの音は、さっきから他人の笑い声ばかりで、なにひとつ面白くない。でも、人生って本来
紫色のチェックのシャツ
占い師の女は私の目を見つめて、こう言った。
あなたの運命の人は、紫色のチェックのシャツを着ています。えっと、他になにか特徴はありませんか、と私はすかさず尋ねたけれど、占い師はもったいぶって残りの十分間うなるばかりで、結局服装以外のヒントはなに一つ与えてくれなかった。
新宿東口の狭い占い屋を出て、とりあえず近くのスターバックスに入り、私は二階から大通りを見下ろしながら運命の人を探した。さっきの
短編小説「ランナー」
「ランナーはな、病気なんだよ」
午後のワイドショーのランニング特集を見て、パパはため息混じりに呟いた。
テレビ画面には、カラフルなウエアに身を包んだ話題のランナーたちが、休日の道路を埋めつくす様子が中継されている。沿道の人々は目を逸らして道を譲り、アナウンサーとカメラマンは、両手の隙間からこわごわと覗く。ランナーたちは頬を桃色に染めて、時に手を叩いて大声で笑ったり、また時に涙を流したりしなが
短編小説「家族写真」
お酒に強くない彼は、ビールを二杯も飲むと饒舌になった。
一杯目ではお互いの近況報告をし、二杯目では彼の営業に回る取引先の愚痴と二人の息子の話をして、そして三杯目にはいつも決まって、初めてする話をしてくれた。雑居ビルの五階にある半個室の居酒屋は、一昨年から通いつめたせいか、まるで私たち二人の小さな家のようにさえ思えた。
「九回裏でサヨナラ満塁ホームランが出たら、だれだって奇跡だって思うだろ。だか