恐怖!殺人ケーキ #パルプアドベントカレンダー2024
Prologue AotKC!
その男――ジョン・ファトーは、血管に生クリームを詰められ、心臓を爆発させられて死んだ。
「……は?」
その報告に、ニューヨーク市警の捜査官ガレットは当然の声を上げた。
「まあ、そうなっちゃうよねぇ」
報告者のベリー捜査官も、苦笑気味に同調する。
「見る? 捜査資料」
「見せてくれ、切実に」
ベリーの差し出した捜査資料を丁重に受取り、ガレットは目を通し始める。
――事件が起きたのは、12月16日未明。場所はニューヨークほど近く、ハーレム地区のマンションの一室。そこでテロリストとして指名手配中のジョン・ファトー(35)の変死体が発見された。
第一発見者は、隣の住人マース・クリス(26)と大家のロス・サタク(69)。何かが暴れる様な大きな音で目が醒めたマースは、文句を言おうとノックする。しかし応答はない。ドアには鍵もかかっている。不審に思ってロスを呼び、マスターキーで部屋に入ると、そこにジョンの死体があった。
死因は、生クリームによる心臓破裂死――腕の注射痕の様な所から注入されたと思われる。部屋は荒らされていたが、何も盗まれていない。どころかドアも窓も鍵がかかっていた――つまり、完全なる密室殺人。
謎は密室に留まらない。何故犯人は、生クリームを血管から注入させたのか。大体何を食ったらそんな犯行を思い付き、実行できるのか。テロを殺す義賊にしてはやり口が変哲過ぎ、FBIさえ匙を全力投球している。
極め付けに、殺された被害者は笑んでいた――まるで飢餓状態の釈迦がミルク粥を喰った後の様な、柔らかな笑み。
「……気味悪いな」
「だよね」
「監視カメラ映像は」
「前後数時間分、見直したけど被害者以外の姿なし。動機といい密室の謎といい、そっちも進展なし」
「目撃証言は」
ベリーは肩を竦め、ガレットは肩を落とした。
だが、音を上げる訳にはいかない。
この事件、警察の威信にかけ――
その時。ガレットのスマホが鳴る。
発信者を確認。『ナバナ』とある。極東の島国出身の、NY市警の重鎮として鎮座する女性だった。
……経験則上、彼女からの電話で伝えられた事件に、ロクなモノがない。
溜息と共に通話ボタンを押す。
「もしもし」
『仕事だよ、ガレット君。あとそこにベリー君もいるかな? 是非人手として欲しいんだが』
……俺の同僚を巻き込むなよ。
そう思いながらも、哀しきかな、この世は上の命令が絶対。逆らわずスピーカー機能をONにした。
『さて。ハーレムの変死事件は知ってるね?』
「はい」
『なら話が早い。さっき犯人が見つかったらしくてね。駆除に行って欲しい』
いつもの様に、面倒な仕事が回ってきた訳か――溜息をどうにか噛み殺すが、ガレットには1つだけ気にかかることがあった。
駆除。
逮捕でも制圧でもなく――駆除?
極東出身だから、使うべき単語を間違えたのか?
僅かばかりの可能性に賭け、ガレットは訊き直す。
「駆除、と仰いましたか?」
『言った。そしてその表現で合ってるよ』
何故なら、と。
ナバナは言った。
『犯人は、生クリームとイチゴの乗ったケーキ――いわゆるショートケーキだから。奴らは人間の体内に生クリームを注入し、心臓を爆発させてるらしい』
「「……は?」」
ガレットとベリーは口を揃えてそう言った。やっぱりロクでもない事件だった。
♪ ₍₍⁽⁽ 🍰 ₎₎⁾⁾♪
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♪ ₍₍⁽⁽ 🍰 ₎₎⁾⁾♪
1 ガンファイト・アット・ザ・NGコラル
……そんな訳で。
2人が目指す場所――殺人ケーキが襲撃した場所は、ハイパースーパー。市警から1番近くのスーパーマーケットだった。
しかし。
ケーキが犯人。
実に馬鹿げている。だが、ナバナの言葉はいつだって真剣だった――そも冗談を口にする様なら、彼女は今頃NY市警の重鎮ではない。
「しっかし」ベリーは、まだこの事態を鼻で笑っていた。「現実感が無いよね、B級映画みたいで。ほら、あったじゃん……殺人トマトが暴れ回る映画」
「あー……あったな」
「ああいうバカな絵面思い浮かべちゃうから、何か真面目になり切れないだよね……」
「だが実際、人が殺されてる。笑って済ましていいことじゃない」
「真面目だねえ」ベリーは笑う。「だから彼女デキないんだよ」
「うるせえ」
「仕事はデキるのに」
どんな返しをしたら良いのやら――複雑な気持ちになったガレットを余所に、カーナビが目的地が近いと告げる。
「準備は良いか」
「うん、オッケイ」
「くれぐれも、無闇に銃は抜くなよ」
「分かってるって~」
頷き、ガレットはアクセルを踏む。
瞬間、ショートケーキが道路に飛び出した。
反射的に急ブレーキを踏むが、当然間に合わず、轢殺。
体液を撒き散らしながら2〜3回道路をバウンド。そして2度と動かなくなった。
「「……」」
2人、目の前の光景に釘付けになる。
「ねえ……アレ」
「……ケーキ、だな」
ベリーは自分の頬を抓った。痛かった。
これで確定した――ケーキが元気に街中を闊歩し、殺人を犯すという事実が。
もはや2人とも笑っていない。
「ナバナさんの話、本当だったんだ……」
「一度くらい外れたって良いのにな……」
溜息を吐き、それから真顔で前を向き、ガレットは再びアクセルを踏んだ。ケーキの残骸を踏み潰し、一路ハイパースーパーへ。
🍰
スーパーに着き、店長らと挨拶を交わした後、早速2人は監視カメラ映像の確認を始める。
事件発生は12月18日昼12時。主婦で犇めくスーパーに突如、数百のケーキがぴょんぴょん跳ねて来た。生クリームのない、スポンジとイチゴだけの風体だ。可愛らしいと思ったのか、若い女性バイトが笑顔で近づくと、頸動脈を噛み千切られて死んだ。
当然店内はパニック。
逃げる人々を横目に、ケーキ達は奥へ跳ねて行く。辿り着いた先には、成分無調整牛乳。ケーキ達はパックを器用に噛み千切り、豪快に牛乳を飲み干す。3パック程飲むと、ぐるぐる体を回転させ始めた。
「何してんだろ、このケーキ達」
映像内の謎の挙動にベリーが首を傾げると、ケーキに変化が現れる。スポンジの体に、泡の様に生クリームが湧き出てきたのだ。忽ち全身を覆い、見た目はショートケーキそのものになる。
これを見たベリーは、「あ」と呟く。
「遠心分離!」
「……何だって?」
「遠心分離だよ、ガレットさん。生クリームって、牛乳を回転させて脱脂乳と分離させて作るの。家庭で作る時は、バターとかゼラチンとか混ぜるんだけど」
「……詳しいな」
「へへ。お菓子作りが趣味なモンで」
そんなやり取りをする内、映像の中のケーキ達は全ての牛乳を飲み干した。真っ裸のままの奴もいたが、ケーキ達は用済みとばかり会計も済ませず、そのままスーパーを後にする。
――これで映像は終わり。幸か不幸か被害者は最初のバイト1人だけだった。
冥福を祈りつつ、事件解決へ向けガレットは頭を回す。
ヤツらは一体どこへ?
そもそもどうやって探そうか――とガレットが頭を悩ませ始めたと同時、ベリーが何やら真剣な表情でスマホを弄っていた。
「何してるんだ?」
「勿論、ケーキ探しだよ〜」
何を言っているのか理解できず、ガレットが尋ねようとした瞬間。
「ケーキ見っけ!」
ベリーが、ケーキの所在をあっさり探し当てた。
「凄いな……どうやったんだ」
「ふふん。今の時代、SNSで検索すれば、居場所なんて瞬殺だよ」
「……捜査官がそんなんで良いのか」
「良いの! 泥臭い捜査なんてのは、過去の遺物だよ」
……これが、ジェネレーションギャップなのか?
打ちひしがれるガレットは、ベリーの示す画面を見る。そこにはXツイッターの投稿があった。
……ちなみにこれ以降、アカウント主の投稿は途絶えている。
「この牧場、何処か分かるか?」
「多分…………NG牧場かな。近くならそこしかない」
「流石だな」
「えっへん」
腰に手を当て、鼻高々に胸を張るベリーなのであった。
ケーキ生命体VS人間の次なる戦地――NG牧場へ向け、2人は急ぎ、ハイパースーパーを発つ。
🍰
NG牧場。
乳牛達が長閑に牧草を食む牧歌的な光景は何処へやら、今やケーキ達が乳牛を搾り殺していた。生乳を飲み、体を回転させ、羊の毛の様な良質な生クリームを生成している。
「嘘だ」牧場主、ガッツは頭を抱える。「こんなの、悪夢だ」
だが現実に、元気で可愛い牛達は軒並み死んだ。代々伝わる農場経営も廃業だろう。
そしてガッツ自身も今際の際に立たされていた――目の前に、キラーケーキが3体。威嚇なのか嘲笑なのか牙を鳴らしている。
「悪夢……そう、悪夢……」
必死に現実逃避をするガッツ。そんな彼の頭に、ケーキが1体飛びかかり。
次の瞬間、ケーキの体が爆発四散。
感覚器官や体液を撒き散らし、さながらパイ投げの様にガッツの顔にぶちまけられた。
顔についた死体を拭うと、ガッツの目線の先には2人の捜査官――ガレットとベリーがいた。両名、あんまりな光景に顔を引き攣らせている。
「ケーキが牛殺してるよぉ……クリスマス近いのにケーキ食べらんなくなるじゃん!」
「七面鳥で充分だろ! それより――」
2人に、ケーキ達がぐるりと牙を向けた。
仲間を殺した仇と言わんばかりに、数匹が大口開けて襲い掛かる!
「退がってろ!」
ガレットが銃を抜き、寸分狂わずケーキ達を射殺。咬まれると心臓を爆散させる恐ろしい生物だが、ケーキよろしくその体はヤワで、銃弾1つで御陀仏だ。
弾倉を素早く交換。追加で襲い掛かるケーキ数匹を、ガレットはまたも殺す。
だが。
「キリが無えな……!」
敵の数は多い――ガレットが舌打ちした。
その瞬間、ケーキ達が心臓を爆殺せんと、一斉に襲い掛かる!
「き、来た来た来たあああっ!!」
ベリーの悲鳴をバックに、ガレットは引金を引く。
BLAM, BLAM, BLAM!
豊かな牧草に、生クリームとイチゴ果汁が飛び散る。
撃ち殺す。飛び散る。撃ち殺す。飛び散る。
ガレットが次々撃ち殺す一方。
「こ、来ないで……!」
ベリーは銃も抜かず、複数のケーキににじり寄られていた。
報告書を思い出す――ジョンの笑顔の死体の写真を。最後には笑顔で御陀仏したいと思っているベリーだが。
「あんな死に方、あんまりじゃんかあ……」
追い詰めるのをたっぷり愉しんだのか、1匹がベリーに飛び掛かる。
「や、嫌っ……!」
そして。
ベリーの手が、ホルスターに収めた拳銃に伸び――触れる。
瞬間。
ベリーの口端が吊り上がった。
「――1匹残さず鏖殺だ、ゲボカスがァ!!」
ケーキは噛みついた――ベリーが突きつける銃身を!
ケーキが生命の危機を感じるより早く、目線を飛ばすベリーが発砲。ケーキはクリームを撒き散らしながら爆散――頬につく返り血ならぬ返りクリームを、ベリーは親指でピッと払う。
「ギャハハハハハッ!!」
先程まで怯え切っていた姿は何処へやら、汚い笑い声を放つ。あまりの豹変っぷりに、流石のケーキ達もたじろいだ。
……ベリーは、拳銃を持つと人格が変わる。
なので緊急時以外は拳銃を握らないよう厳命されていた。
今は当然、緊急時だ。
「おら、かかってこねえのかァ?ホネのないこった!ま、ケーキだから骨も無えかァ!」
ベリーは恐怖で固まるケーキに近付き。
撃ち殺す。
「精々」
撃ち殺す!
「喚け叫べ逃げ惑え!」
撃ち殺す!!
「何なら或いは殺す気で来いッ!!オレを退屈させてくれんなよォッ!!」
――こうして、一方的な虐殺が始まった。
とても警察官に見えないが、それでもベリーが警察官を続けていられるのは、ひとえに実績と、人を殺さない分別があるからに過ぎない。
百発百中のガレット。
狂戦士モードのベリー。
ナバナの命令でNY市警から派遣されし2人は、僅か10分でケーキを殲滅。あっという間に、NG牧場に平和が舞い戻った。
🍰
2 ショートケーキ・バスターズ・ウィズ・チーズケーキ
「……大丈夫か?」
「アッ、ハイ……ありがとう、ございました」
ここは、ガッツの家。
ガレット達は憔悴したガッツを送り届け、一先ずソファの上に落ち着けさせる。今は現場検証の為、鑑識を呼んだところだ。その検証次第では災害保険金が下りる筈――ケーキの化け物に食い荒らされた被害に補償が出るか謎だが。
補償されるようガレットは心の中で祈っておくことにした。
「しかし……何ですか、アレ」
「……本当、何でしょうねアレ」
ガレットは首を横に振る他ない。
どこからともなく突如湧いた殺人ケーキ。何故あんな生物が湧いたのか――どうせロクでもない理由なんだろう、とガレットは思考を放棄する。
「ホントさ、ケーキがトラウマになっちゃうよ……」
「そう、ですね……ああ、『ケーキ』って単語だけでも、身が、震えます……」
ガッツの体は実際に震え始めた。ベリーが哀れな彼の背中を摩り、どうにか落ち着かせる。それきり、暫く皆押し黙ってしまった。
……。
……。
……。
……どれだけの時間が経っただろうか。
コンコン、とノックする音が聞こえた。
「あ……鑑識来たかな?」
長い沈黙に耐えかねていたベリーが、真っ先にドアの方に向かい。
迷いなく開ける。
目の前に鑑識は――いなかった。どころかパトカーも、ガレット達のモノ以外は停まってない。
「……あれ?」
確かにノック音が……と思っていると。
「……タス、ケテ」
声が聞こえた。
それも、足元から。
「……え?」
ベリーが、恐る恐る下を向く。そこには。
「タスケテ……」
生クリーム塗れの1/8カット・チーズケーキが、ぐったりと横たわっていた。
ケーキ。
ソレを前に、すぐにベリーの体は動いた。
拳銃を抜く――のではなく。
手を差し伸べる為に。
弱った様子の生き物に拳銃を突きつける程、素のベリーは冷酷ではなかった。
「大丈夫? ケガは――」
「おい、ベリー!」
ガレットは堪らず立ち上がる。
「ソイツ……あの、アレだろ!」『ケーキ』という単語を発しない配慮を、ガレットは忘れない。「危険だ、今すぐソイツを――」
「必要ないと思うよ、私は。殺す気なら、もうとっくに殺されてるもの」
それにこの子、とベリーは続けた。
「助けを求めてる、私達に。困ってたら助けてあげるのが、警察の本分じゃない?」
……そこまで言われると、ガレットは何も言い返せなくなった。
息を吐き、それから命じた。
「……危険を感じたら、ソイツ殺すからな」
「うん、分かった」
頷くベリー。こうなれば、ガレットから言うことは何もない。
「アタシヲ……」チーズケーキは、声を震わせる。「タスケテ、クレルノ……?」
何を言っているんだ、と言いたげにベリーは微笑む。
「その為に、私達の所に来たんでしょ?」
さ、おいで――とベリーはチーズケーキを手に乗せ、パトカーへ乗り込む。
チーズケーキを心の底から信頼してはいないガレットは、ガッツへの対処をテキパキと行い、すぐにベリー達の後を追った。牧場に停まるパトカーは、変わらず1台。
嫌な感じだ。
銃に手をかけつつ、パトカーの扉を開ける。
運転席にはベリーと、その膝上にちょこんと乗るチーズケーキ。生クリームを綺麗に拭い取られたチーズケーキは、今やもしゃもしゃ携帯食料を齧っている。
ベリーが無事なことに安堵しつつ、銃から手を離して助手席に座る。
「チーズケーキ、元気そうだな」
「うん。フロマ、よっぽどお腹空いてたみたいで、携帯食料モリモリ食べてるよ」
「オイシイ……ケイタイショクリョー」
「それは何より!」
「……フロマ?」
「この子の名前だって。ねー」
「ネー」
ベリーはいつの間にかチーズケーキを名前呼びしていた。関係を作るのが早過ぎる――という感嘆交じりのツッコミを、ガレットは心の中でキメる。
他にもツッコミどころは沢山あったが、これ以上費やせる文字数はない。咳払いをし、ガレットはフロマに尋ねる。
「そういや、助けを求めに来たんだよな。一体何があったんだ?」
「……アノネ」
フロマは、非常に簡潔に状況を説明した。
「タイムズスクエア。ソコデ、ヒト、イッパイシンデル……アタシノ、ナカマモ……」
それを聞いたガレットとベリーは、血相を変えた。
タイムズスクエア――NY市街地。
そこには当然、沢山の市民と、市警がある。
思えば、市警から連絡の1つもない。
鑑識からも。
あのナバナからさえも――!
「――っシャァ!」
ハンドルを握ったベリーが、特攻隊長の如き声を張り上げる。
「タイムズスクエアまでブッチ切ってやるぜェ! ケーキ共をブチ殺しになァ!!」
あまりの豹変ぶりに、膝上のフロマは「ヒェ」と震え声を上げていた。
……ベリーは、ハンドルを握っても人格が変わる。何故警察官が務まってるのか、ガレットには毎回不思議だった。
アクセル全開。
法定速度すらブッチ切り、牧場を抜け――いざ、決戦の地・タイムズスクエアへ!
🧀
タイムズスクエア、大広場。
煌びやかで賑やかな雰囲気は影も形もなく、推定200の人間の死体が転がっている。
その傍らで、ショートケーキとチーズケーキが仁義なき闘いを繰り広げていた。戦況は、チーズケーキの敗北濃厚だ。
「残存兵力は」
「19……フロマが逃げ切れてれば20ッス」
思わず舌打ち――目の前のショートケーキの兵力は250程。あまりに差があり過ぎる。
いっそショートケーキの仲間になって人間を滅す側に回った方が良かったのではと思う程の絶望に、親分チーズケーキは襲われた。
だが交渉のテーブルに乗せることは、もうできない。
……あの可愛い同胞、フロマを思い出す。実に可愛らしい彼女は、チーズケーキ達の中でもアイドル的な存在だった。
無事に生き延びてくれと思った。そう思うことしかできなかった。
「俺も逃げりゃ良かったっスねえ。ま、どのみち追いつかれるんスけど」
「そう、だな……」
どうしてこんな目に……走馬灯の様に、これまでの記憶が甦る。
🧀.。oO ホワンホワンホワン
――ケーキ達が目覚めるとそこは、NYの地下だった。酒で赤ら顔のテロリスト達が目を丸くしたのを、今でもハッキリ思い出せる。
ケーキ生命体の起源は、テロリスト達が夜なべして作った心臓を破壊する細菌兵器だった。その完成を祝し、ボスが用意したケーキと酒を楽しんでいたところ、ケーキに細菌兵器を溢して誕生したのである。
「なんでぇ、こりゃあ」
酔った1人が笑いながらショートケーキをべしべしと叩いたところ、手を噛まれた。そしてそのまま心臓が爆発して死んだ。
ショートケーキは短気だった。ショートだけに。
無論、ショートケーキは問答無用で銃殺された。
そうして死んだ仲間とケーキを前に、テロリストは暫し考える。
そして誰かが思い付いた――このケーキ生命体を利用してやろうと。
作戦はこうだ。
クリスマスに向け、今や世間にはケーキが溢れかえっている。そこで、洋菓子店にケーキ生命体を忍ばせ、のこのこやって来た客と店員を殺させるのだ――名付けて『ケーキ・テロリズム』。陽気な笑い声が悲鳴に変わる――自分達を爪弾きにした社会を恨む彼らにとって、その想像は甘美だった。
これを実行すべく、ケーキを箱詰めする必要があった。しかし箱に詰める為にケーキを手懐ける……なんてまどろっこしいことはしたくない。
故にテロリストは、ただのケーキを箱詰めし、例の細菌兵器をぶっかけ、すぐさま箱に封をすることにした。そうすると、箱詰め状態の危険なケーキ生命体の完成だ。
こうして箱詰めキラーケーキを、テロリストは夜なべして作ってゆく。その数しめて500。内300近くがショートケーキ、残りはチーズケーキとチョコケーキとで半々に分けた。顧客の需要をバカ真面目に分析し、それが最適と分かったからだ。
意外にも金がかかってしまい、物価高と政府を呪いながらも、こうしてケーキテロの準備は整った。
だが、テロリスト達はこの甘味生物兵器を甘く見ていた。
そもそもの話。謂れのない理由で狭く暗い空間に幽閉されたら、誰だって怒りを抱く。
その怒りは、箱の中でスクスクと育っていった。
人間は自分勝手だ。
人間は愚かだ。
人間は――
鏖殺すべきだ。
こういう訳で、短気なショートケーキは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の――ケーキ達の命を何とも思わぬ人間を除かねばならぬと決意した。ケーキには加減が分からぬ。故に、自身らの生クリームを使い切ってでも殺す覚悟であった。
この怒りにチーズ・チョコの両ケーキも賛同。箱をブチ破り、共にテロ集団を撃破した――チョコケーキの全滅と引き換えに。今もあのエンパイア・ステートビルの下には、テロリスト共とチョコケーキの死体が埋まっている――命からがら逃げ延び、しかし殺されたジョン・ファトーを除いて。
そして。
ショートケーキは尚も激怒していた。必ず、チョコケーキの仇を討たねばならぬと。
その怒りの矛先は、テロリストである必要はない――ショートケーキは人間を恨んでいて、詰まるところ誰でも良かった。
だが、チーズケーキはそれを良しとしなかった。行き過ぎた暴力は自滅を招くと、テロ集団から学んでいたのだ。そして、ショートケーキの覇道を止めるべく対立する。
ホワンホワンホワン Oo。.🧀
その結果が、コレだ。
そもそも数の利的に、争うべきではなかった――後悔しても、遅い。
ショートケーキが3体襲い掛かる。死を覚悟し、チーズケーキは目を瞑る。
そして3体のショートケーキは、パトカーにダイナミックに轢かれて死んだ。
「気持ち良いぜェェェェッ! クソケーキ共を轢き殺すのはよォォォォッ!」
「コロスノハヨー!」
「おっ、ノリが良いじゃねえかフロマちゃんよォ! このままブロードウェイを爆走するぜェェェェッ!」
「スルゼー!」
パトカーは爆走し、次々にショートケーキを轢殺。ちなみに楽しそうなベリーとフロマの隣の席で、ガレットは頭を抱えていた。
「……アレだけ、手こずったのに」
親分チーズケーキがぼやく。敵がいとも容易く死んでゆくのを見ると、爽快感よりも虚しさの方が優った。
それに何より。
「親分……さっきの声」
「……」
「聞きましたよね、親分」
「……あまり、信じたくないんだが」
あの可愛いフロマ。アイドル的存在のフロマ。
彼女は今。
「ブッ殺しィィィィ!!」
「ブッコロシー!」
見知らぬ人間の女と共に、物騒な言葉を吐いていた。
これは一度、あの女を問い詰めねばなるまい――そう思いつつ親分チーズケーキ達は、ショートケーキ共が亡びるのを、ただ待っていた。
🧀
「ホント、あの、すみませんでした……」
ショートケーキを轢き尽くし、パトカーから降りた後、人間は土下座していた。チーズケーキに。
「銃とかハンドルとか握っちゃうと、その……テンション上がっちゃって……」
「ダイジョウブ? イッショニ、マタ、ブッコロシスル?」
「どうしてくれるんだ」
「本ッ当ごめんなさい……反省してます……」
「オヤブン」
その時、フロマが親分チーズケーキとベリーの間に割り込んだ。
「コノヒトタチ、アタシタチヲ、タスケテクレタ。ソンナニ、イジメナイデ」
まるで上目遣いでもする様に、潤んだ声でそう言いながら。
親分チーズケーキは、体の内に溜めた怒りを溜息混じりに吐き出した。暴言を覚えてしまったとは言え、今も尚、フロマの言葉に滅法弱いのだ。
「……感謝する。俺達の……いや、フロマの助けに耳を傾けてくれなきゃ、俺達は全員死んでいた」
「困ってるモノを助けるのは、警察の役目だからな。……助かって良かったよ」
そのガレットの言葉に、最早嘘偽りは無い。
しかし。
「にしても、これからどう生きてくつもり?」
当然の疑問を、ベリーが尋ねる。ケーキ生命体の生まれた事情は、2人もフロマから粗方聞いていた。
突如生み出された生命体――人間社会において、その前途は多難。
だが親分チーズケーキは、肩でも竦める様な声で答える。
「……まあ、これから気長に探してみるさ」
「一時的に、保護もできるが」
ガレットは善意から提案するが、親分は体を横に振った。
「有難い申し出だが……俺らは誇りあるチーズケーキとして、これからも生きたい」
「……そうか。見つかると良いな、良い生き方が」
ガレットの言葉に「ああ」と親分は微笑む。
そして。
親分は、背後から近づいた人間に持ち上げられ。
食われた。
「……あ?」
全員、状況を理解できなかった。
「……オヤ、ブン?」
フロマの呼びかけも空しく、親分は更に2口喰われ、道路に投げ捨てられた。
親分は死んだ。
「オヤブン!!」
フロマの悲鳴で、全員我に帰る。ガレットは反射的に襲撃者に銃を撃った――客観的に見れば、チーズケーキを食べただけの人間に。
眉間に風穴を開け、襲撃者は倒れる。一撃必殺の即死。
「……何、でだ」
だがガレットに、射殺することへの躊躇はなかった。
何故ならその襲撃者は。
ジョン・ファトー。
ショートケーキに殺された筈の死体だから。
ソイツが、甦って歩いていた。
まるで、ゾンビの様に。
「……ねえ、ガレットさん」
青褪めた声でベリーが指差す。
ガレットは、息を呑んだ。
タイムズスクエアに転がっていた筈の人間の死体が、起き上がっていた。どころか地下で死んでいた指名手配犯達も、マンホールの蓋を開けて這い上がって来る。
推定、250体。
生クリームゾンビが、濁った目と満面のアルカイックスマイルを向け、ガレット達を囲い込む。
3 ウォーキング・クリームデッド
――ところで。
何故、ショートケーキのクリームで人間がゾンビになるのか?
最早ガレット達には知る由も無いが、一言で言えば種の存続の機能――つまり子孫を増やし、社会集団と規則を形成し、絶滅しないよう強固な体制を作る為の機能が、生クリームに備わっているからに過ぎない。
そういう風に、ショートケーキは進化を遂げたのだ。
種の存続の第一歩――子孫繁栄の手段は、何も子供を生むばかりではない。他種族を取り込み支配するのもまた一手段。
――銃声。
ガレットが気付いた時には、もうベリーは拳銃で生クリームゾンビの心臓を射抜いていた。しかしゾンビは死なない。
「まだ遊んでくれんのかァ!? イイぜェ――この弾と命尽きるまでトコトンやってやるよォッ!」
退がってな、とベリーはチーズケーキに命ずる。そうなればもうガレットも、抜いた銃をそのまま構える他ない。
助けを呼ぼうにも通信機はパトカーの中。ゾンビに囲まれて辿り着けそうにない。
つまりはここで、殺るしかない。
250体のゾンビが一斉に襲い掛かる。
ゾンビを殺すには頭――心臓で死なず眉間で死ぬならその筈だ。2人の狙いは自然一択になる。
ガレットは持ち前の射撃技術で、1発も漏らさず頭を撃ち抜く。生クリーム混じりの血液と脳漿がブロードウェイに飛び散り、ゾンビは次々倒れてゆく。
「……クソ! 地獄だなココは!」
「地獄だからこそ笑わなきゃだぜェ、ガレットさんッ!」
全弾命中……とまではいかないが、ベリーも次々ゾンビを撃ち殺す。ベリーの口端は吊り上がっていた。自分の同僚ながら、流石にガレットの背筋が凍る。
ガレットは笑えなかった。死ぬことは怖いが、そこは問題ではなく――死んだら最後、チーズケーキ達も皆死ぬ。
だからこそ、死ねない。
笑う余裕など、ガレットにはない!
BLAM,BLAM,BLAM,BLAM!
ゾンビを頭撃ちし、徐々に数が減る。
だが、拳銃の残弾数も頭打ちになってゆく。
「残弾、足りそうか!?」
「何とかなァ! 最悪数体残っても、殴り殺しゃ終わりだろ!」
「良し――」
そこで、ガレットの言葉が止まった。
何故なら。
ひた。
ひた、ひた。
ひたひたひたひたひたひたひたひたひたひた――と。
数百の歩く生クリームゾンビが、追加で戦場に投入されるのを目にしたからだ。
……ゾンビ全員が、ガレット達に襲い掛かった訳ではない。種の存続という基本原則の為、彼らもわざわざ全滅の路を選ばない。故に内数人が、市街地で住民を噛み殺し仲間を増やしていた。
ゾンビに咬まれた者は、ゾンビになる。
その設定は、生クリームゾンビも変わらない。
「……マジか」
口端を上げていたベリーも、流石に口端を引き攣らせる。
「どうする、ガレットさんよォ」
それでも。
警察に、ここで退くという選択肢は無い。
ガレットは拳銃を構える。ニィ、と笑ってベリーも倣う。
濁流の如く迫り来る生クリームゾンビに、照準を合わせ。
「…………ブッコロシー‼︎」
2人の横を通り過ぎ。
物騒な言葉を吐きながら、フロマが前線に出る!
「なっ!?」
「バッ……!?」
何してんだ。馬鹿野郎。
それぞれそう言いかけたガレットとベリーの口を、フロマは封じ込めた。
ゾンビの首を、噛みちぎることで。
生クリーム混じりのゾンビ体液を浴び、フロマは着地。ゾンビは卒倒。
近くのゾンビが、フロマを敵対生物と見なし、握り潰さんと手を伸ばす。それをするりと避けるどころか、伸ばしてきた腕に飛び乗り。
「ウアアアアッ!」
腕伝いにぴょんぴょん飛び跳ね、ゾンビの首へ真っしぐら。
頸動脈に牙を突き立て、肉を齧り取った。
体液、噴射。
その光景を見て動いたのは――残されたチーズケーキの面々だった。
ただのアイドル的存在だった可愛いチーズケーキに、死んだ親分の影を見たのだ。
「……フロマだけに殺らせてらんねえっス! 親分の仇、ここで必ずや!」
「「「「必ずやッ!!」」」」
チーズケーキ達は跳ね、ゾンビの頸動脈を、頭を、胴体を噛み千切る。
当然、ゾンビに喰い殺されるチーズケーキも現れる。だがソイツは自らを囮にし、他の仲間にゾンビを殺して貰う。
最早ここまで来て、全員で助かるという虫の良い話はない――チーズケーキは覚悟の上で特攻を仕掛けていた。
この光景にガレットは乾いた笑いを浮かべる。
「……俺達も、負けてられねえな」
「あァ!」
発砲――チーズケーキを食わんとするゾンビの頭を、ガレットは的確に撃ち抜く。次々に、次々に。
「危ねえっス!」
その声に振り向くと、ゾンビの首をチーズケーキが噛み殺していた――ガレットに気づかれぬよう、ゾンビが背後から近付いていたのだ。
ゾンビは倒れ、ガレットとチーズケーキは両者背中合わせになる。
「……ありがとよ」
「良いっスよ、このくらい。名は?」
「……ガレット」
「俺はバスクっス。…… ガレット」
「何だ」
「死ぬんじゃねえっスよ!」
「無論。そっちもな、バスク!」
それを合図に両者は駆け、ゾンビ共をブチ殺す。
一方でベリーもゾンビを好き放題撃ち殺していた。彼女の肩に、返り血塗れのフロマが乗る。
「よォ、フロマ。生きてたか」
「モチロン! マダマダ、ブチコロシ!」
「良いねェ、その意気だァ! フロマ、お前本当にホネがあるなァ!」
「エヘヘ」
「ッシャア! まだまだ行くぜ――死ぬなよ、フロマァ!」
「ベリーノホウコソ!」
そしてまた2人は別れ、それぞれゾンビを殺しに行く――まるで、両者とも死なないと信頼し切っているかの如く。
猛攻は功を奏し、400、300、200と、ゾンビの数は減ってゆく。
……だが。
途轍もない戦力差に加え、死も恐れぬゾンビの特性がじわじわガレット達の戦力を削いでゆく。銃弾は尽き、兵数も人間とチーズケーキを合わせて10。対してゾンビは150。
どう考えても、このまま嬲り殺される未来しか見えない。
「ガレットさん、何か武器ねェのか! クリケット棒とかよォ!」
「生憎だが――」
ガレットが言いかけると同時、ショーウィンドウが割れる音。
「……嘘だろ」
生クリームゾンビ達の加勢だ。
ガラス片を踏み砕きながら、ぐるりと視線をガレット達に向ける。
……流石に、万事休すか。
ガレットは、死を覚悟する。
その時。
「――伏せな!」
聞き慣れた声が聞こえる。即座にガレットは、ベリーの頭を下げさせる。
瞬間。
生クリームゾンビが銃弾の雨に撃たれ、バラバラに砕け散った。
「――よく耐えた。ガレット、ベリー」
声の主は、ナバナ。硝煙燻らす拳銃を手に笑みを浮かべている。彼女の周りには、数十人の捜査官が隙なく隊列を組んでいた。先頭は防弾盾を、後方は銃を構えている――古代ローマの密集陣形の如く。
そして先方の盾でゾンビの猛攻を押さえ込みつつ、後方の銃でヘッドショット。
この連携に、堪らずゾンビは逃亡を図るが。
「逃さんぞ」ナバナは笑う。「お前らは既に、包囲されている!」
ゾンビの頭が破裂。
後方にも、ショッピングセンターの中にも、捜査官が盾と銃を構えて待っていた。
こうしてゾンビの包囲網は瓦解。その隙を縫い、ガレット達も無事逃亡する。
銃口の先にはもう、生クリームゾンビのみ。
「幕引きの時間だ」
ナバナは、号令を出す。
「――装填」
息の合ったスライドによる装填。CLUNK! 音が重なり合い、大音量を街中に響かせる。
「狙え」
しん、と。今度は打って変わって静まり返る。
ゾンビは自棄っぱちに襲い掛かるが――もう遅い。
最後の号令が、ナバナから発された。
「撃てェェェェッ!」
轟音。
弾丸の雨が、ゾンビ達に降り注ぐ――。
Epilogue フォーシーズ
――NYのゾンビ騒動は、パニックの拡大を恐れた政府により「突如発生したテロリスト達の暴動」と処理され、他言無用を条件に補修費用と清掃費用、葬式費用は政府持ちとなった。
ケーキが動くという情報だけは抑えようがなかったが、『アタック・オブ・ザ・キラートマト(AotKT)』のパロディ映画のPVと国民に捉えさせることに成功。その話題に乗っかる店も多く、クリスマスケーキの売上は例年以上に景気が良かった。
こうして、NYは急速に日常を取り戻してゆく。
今やタイムズスクエアは年越しイベントの準備に大忙しで、NY市警もその為に慌しい。
「全く良い迷惑だよね〜、アタシ達は年末もお仕事だなんてさ」
「市民を守る為だ。仕方ないだろ」
「そうなんだけど〜……」
と、溜息を吐くベリーに。
「ダイジョウブ?」
チーズケーキのフロマが、携帯食料を齧りながら、慰めの言葉を掛けた。
フロマと生き残りのチーズケーキ達は、ナバナの采配で一時NY市警で引き取られた。中でもフロマは、ベリーと一緒にいることにしたようだ。
「大丈夫。毎年のことだし。まあ今年も、羽目を外して暴れちゃう人がいたら――」
「ブッコロシ?」
「やめてね」
ベリーはフロマを諭すが、無垢な彼女に野蛮な言葉を身につけさせてしまったのは自分なので、何とも怒りづらかった。
こんなことで自らの別人格を恨むことになるとは――ベリーはまた溜息。フロマがまた「ダイジョウブ?」と尋ねるが、ベリーはただ力なく頷くしかなかった。
その時、ガレットのスマホが鳴る。
発信者を確認。『ナバナ』とある。
経験則上、彼女からの電話で伝えられた事件にロクなモノがない――ケーキの事件は本当に散々だった、とガレットは思い返す。
今度はあらかじめスピーカーをONにし、通話ボタンを押す。
「もしもし」
「もしもーし」
「モシモシ」
『やあ、ガレット。それに、ベリーとフロマも。この前はありがとう……大惨事には、なってしまったけどね』
「……ええ」
心の中では、アレで収まったのが奇跡だ、とだけ呟いておく。あの事態は、誰が上に立っても犠牲者が出たに違いない。
「それで、何か御用でしょうか?」
『ああ。……実は、そのことなんだが……また、出動要請をしたくてね』
何だか急に歯切れが悪くなった。
相当に厄介な事件なのだろうか――溜息を噛み殺しつつ、ガレットは尋ねる。
「何か、凶悪事件でも?」
『いや……凶悪っちゃあ、凶悪だが。実は死体が見つかったんだ。
――チョコとチーズ塗れの変死体がな』
「「……は?」」
🍫🧀
ショートケーキ生命体の生クリームには、生物をゾンビ化させる力がある。
生物は何も、人間だけに限られない。
ケーキ生命体も生物である。
生クリームゾンビに殺されたチーズケーキは、無事に眷属と化し、隙をついて地下へ逃亡。
地下に眠るチョコケーキの死骸に生クリームを流し込み、更に眷属化したのだった。
かくして、年末年始のイベントにかまけるNYの地下で、チーズ・チョコケーキ軍団が誕生。
後にフォーシーズ(4Cs、forces)と呼ばれることとなる彼らは、ショートケーキの意志を継ぎ、虎視眈々と待っている。
愚かなる人類を滅ぼす、その時を。
♪ ₍₍⁽⁽ 🍰 ₎₎⁾⁾♪
THE END
♪ ₍₍⁽⁽ 🍰 ₎₎⁾⁾♪
……ということで!
本作は、パルプアドベントカレンダー2024の参加作品でございました!
一昨年は異能生物サンタバトル、去年はクリスマス(概念)と時間遡行、ということで(どういうことで?)今年はクリスマスケーキ(生物)のお話です。お察しの通り『アタック・オブ・ザ・キラートマト』および『デッド寿司』などなどが着想元ですが、この初稿を書き上げるまで双方とも見ないようにしてました(影響をモロに受けそうなので)。他にも色んなものを詰め込んだので、見つけた方はクスッとして頂ければ幸いです。
パルプアドベントカレンダー2024は、開催期間残りわずかとなりました!
が! それはまだ開催されてるということ!
飛び入り参加も受け付けてますので、そこにいる貴方も興味がございましたらぜひ!!
そして他の方の作品も多種多様で面白いのでよろしければ総合目次からぜひ!↓
明日は遊行剣禅=サンです! お楽しみに!