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3年半在籍した富士通を振り返ってみた

皆様、こんにちは。米田です。
今日は、noteの読者の皆様にお知らせがあります。
本日9月30日を以て、2021年5月から約3年半在籍した富士通を退社することになりました。

富士通では、CMO直下でマーケティングの中期/年間計画・予算等の作成、本部全体の変革、ポートフォリオ戦略・市場調査、テクノロジーマーケティングの立ち上げ・運営等、様々な本社業務に関わる機会を頂きました。加えて、事業、営業、研究開発にも部門横断で関わる機会も頂くことができ、マーケティングの観点から富士通という会社全体を見渡すこともできました。

この記事では、個人的な総括と、3年半を通して私が感じた富士通という会社の良いところと課題についてシニアマネジメントの観点からまとめてみました。


個人としての総括

もともと、富士通に入社する前の私の職歴は20年以上に渡りマイクロソフト、オートメーション・エニウェアといった外資系企業でマーケティングを中心に経験を積んできたというものでした。

マーケティングという考え方は外資系企業の方が進んでおり、IT業界においてもクラウドやサブスク等の「根雪ビジネス (=リカーリングビジネス)」やそれにまつわるマーケティングの実装は日本の大手企業で特に遅れているという状況がありました。

そのため、外資系企業で得た最先端の知識を日本企業で実装できると日本企業の役に立つのではないかということで富士通に参加しました。

マーケティング機能の実装は、究極的には前に書いた記事でも紹介した通り、以下のようなバリューチェーンを経営陣の中で構築しつつ、経営機能を有機的につないでいくことです。

図: オーケストレーション機能としてのマーケティング
図: オーケストレーション機能としてのマーケティング

ただし、これを実現するには社長を始めとした経営陣の合意と理解が必須、かつ結構な時間がかかります。

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また、マーケティングの意味そのものも会社によって結構異なっており、求められるマーケティング像も会社が目指したいビジネスモデルによってかなり変わります。富士通の場合だと「根雪ビジネス」 (富士通では「オファリング」と呼んでいる) を目指すのか「コンサルティングビジネス」を目指すのかによって、実装すべきマーケティングの形が異なります。

この方針については実は私が入社して最初に社長とお話する機会があった際に直接聞いたことがあります。しかし、結局のところ富士通ではこの意思が明確に示されていないままで、故に全体としての機能の優先度付けが難しい状況となっています。

私の在籍期間の後半戦ではAIや量子コンピュータ等の研究開発+関連する新規事業といったテクノロジー分野に絞ってマーケティング機能を実装し、広報・ブランディング・リード生成・商談発掘・施策実行のオペレーション構築といった機能を変革して実装をしてきました。

当初は新しい考え方ややり方に対して、関係者からの反発もありましたが、「富士通のテクノロジー戦略をひとつにまとめて社員全員で同じことをいう」という大きな方針を出して、関係者ともよく話し合って理解を得ながら進めていくことで、最終的にグローバルで統一したコミュニケーションと施策実行に収斂していくことに貢献できたのではないかと思います。この過程で、私もヨーロッパ、アメリカ、アジアの様々な国々からの多くの関係者からのいろいろな意見を取りまとめながらあるべき方向に物事を進めていくことについて、多くの学びがありました。

富士通では個人のパーパスも作成し、今後の自分の方向性を考える機会もありました。そして、私の中での仕事がひと区切りついたことと、タイミングもあり、この9月で富士通を離れて次のステップに進むことになりました。

富士通の良いところ3つ

せっかくですので、外資系企業で長いキャリアを持つ私が富士通に転職して約3年半働いてみて感じたことをシニアマネジメントの観点で見たときのトップ3について挙げます。
(先日ご紹介したChatGPTによる「富士通の長所と短所」とは全く違います)

1.人材やネタが豊富
富士通はさすが日本を代表する大企業だけあって、普段の生活の中でもいろいろな場面で富士通と接する機会が多くあります。

ニュースを発表するとマスコミの皆様は一生懸命取り上げてくれます。数や分野も豊富にあります。富士通の広報チームも外資系と比べるとかなりしっかりマスコミとの日々の関係を持っており、かつマスコミ側も日本を代表する富士通を応援したいという気持ちが伝わってきます。また、社会インフラを担う企業でもあるため、良いこと悪いこと色々なことが日々マスコミで報道されます。

本業以外にも、陸上、サッカー (川崎フロンターレ)、バスケ (富士通レッドウェーブ)、アメフト (富士通フロンティアーズ)、ゴルフなど、さまざまなスポーツを支援していたり、これに付随してオリンピックへの選手の輩出、大谷選手の妻・真美子さんの輩出、富士通レディース出雲駅伝への協賛、「世界の車窓から」などさまざまな施策のバックに富士通がいます。

また、私も富士通に入るまであまり意識していませんでしたが、IT業界をはじめ日本の社会の中でも富士通OBで活躍している方と良く会います。経歴を聞いてみると「実は昔、富士通に勤めていました」ということが良くあります。私が富士通の肩書を持ったので先方から言って頂ける機会が増えたのだと思うのですが、思いの外たくさんいることに驚きました。

そして、これらを支えているのが世界全体で12万人、日本国内で7万人を超える富士通社員の皆さんです。年齢層、国籍などさまざまな人材が集まっており、紫綬褒章など国やいろいろな機関から表彰されている人材、社外コミュニティで活躍している人材、政府機関と一緒に日本の国家施策に関わっている人材など、優秀な人材が多く在籍しています。

これは日本で外資系企業に勤めているとなかなか味わえないことでした。

2.従業員が誠実
約3年半、富士通の皆様と働いていて常に感じていたのは、どの方もとても誠実で信頼がおけることです。Fujitsu Wayで定める大切な価値観のひとつに「信頼」が掲げられていますが、この文化はかなり深く浸透しているのではないかと思います。

大きな組織なので縦割り文化はあるのですが、組織間や社員の間で足を引っ張り合ったり邪魔をしたりという文化はないように見えました。この点についてはかなり気持ちよく仕事を進めることができました。

3.働き方改革の推進
2019年の今の時田社長になってから推進しはじめた「FUJITRA」にも含まれる働き方改革は、社員の働き方を大きく変えました。

職種と状況によってはフルリモートも可能な働き方、部門横断での連携によるカルチャー変革、個人のパーパスを設定するパーパスカーヴィング、メンバーシップ型からジョブ型への移行、キャリアのオーナーシップを上司から自分自身に移して社内で自ら異動できるポスティング制度等、様々な変革が行われ実際に効果があがっています。職場も若いメンバー、女性、海外の社員も含めて活躍できるダイバーシティに富んだ環境づくりが進んでいます。

昔からの富士通を知る社員の方々に聞いても、昔とは違う会社になったくらい良くなったと皆口を揃えて言っています。加えて、若い人も含めた社員の平均給与の引き上げも行っており、大企業への入社を検討している若者にとっても魅力的に映るかもしれません。

インターブランド社によるブランド価値調査も富士通は2021年度から一貫して大きく上昇しており理由としてこの変革への期待が大きな要素となっています。

様々な人種の男女が100人集まってガッツポーズをしている集団

富士通の課題3つ

一方、富士通にはいろいろな課題もあります。オープンな場なので詳細には書きませんが、以下の事項がトップ3であると感じます。ちなみに、これらのことの多くは富士通だけにあてはまるというよりは、日本の伝統的企業 (JTC、ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)に共通する課題だと思われます。

1.ビジネスモデルのビジョンの欠如
富士通が今後どの分野のどの方法で利益を上げていくのか、「根雪ビジネス」なのか「コンサルティングビジネス」なのか、その勝てるビジネスモデルは何なのか。この辺の情報が明確に検討され、かつそれをビジョンに落として社内外の関係者 (従業員、投資家等)にわかるようにきちんとコミュニケーションしながら実装していく必要があります。現状はビジョンや方向性が不明瞭で、そのためそれを実現する会社の機能実装も中途半端になっています。

2.データドリブンの欠如
経営陣から中間管理職、現場管理職に至るまで、データドリブンによる意思決定が行われていません。売上やKPI等の必要な情報を必要な人が必要なタイミングで見ることができていないので、意思決定の方法や内容がブラックボックス、かつ完全に決済者に依存してしまっています。外資系IT企業に比べると10~20年遅れています。

3.マネジメント能力
経営陣から中間管理職、現場管理職に至るまで、いくつかの管理職層でそれぞれ共通、独立した課題があり、会社全体のマネジメント能力の課題につながっています。概していうと、書籍等でも出回っているようなマネジメントトレーニングが管理職 (幹部社員)に対して行われていないため、先輩から伝わる古い方法が継続しています。

※ 課題についてより詳細と提言を記載した有料記事を書きました。

次のステップ

富士通では、グローバルでダイバーシティに富んだ環境で関係者の皆さまと一緒に働くことができましたことは私にとっても大変貴重な経験でした。在任中にご一緒させていただきました皆様おひとりおひとりに感謝申し上げます。富士通のことは社外から引き続き応援しています。

10月から、またIT業界で別の仕事を始めます。一段落したらまたnoteでも状況をご報告したいと思います。

では、また!

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