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はかるだけじゃない!正確な食事記録を作る舞台裏

今回はまた、このnoteで何度も登場している「食事調査」を話題にします。種類が色々あって、目的によって使い分けることになりますが、この調査結果で「食事摂取量」を知ることが、栄養疫学研究を始めるときにも、栄養の現場で食事に関する様々な取り組みを始めるときにも、最初にしなければならないことなんですよね。

習慣的な食事摂取量を測定する方法には質問票法が最適なんですが、この質問票を開発するためには妥当性研究が必要で、作ってすぐに使えるものでもないことは、こちらで紹介しました。

この妥当性研究を行うためには、「食事調査」の回で説明していた「実際に食べたものを具体的に記録する方法」である「食事記録法」や「思い出し法」を、「比較基準」のために実施する必要があります。しかも、本来なら生じるはずの「申告誤差」をなるべくなくして、対象者の方が実際に食べた摂取量に近い値を得なければ「比較基準」には使えなくなってしまいます。

というわけで、今回のnoteでは、私たちが実際に実施した、食事記録法の様子をお伝えします。いかにして、対象者の方から詳しくて正確な食事摂取量を教えていただいていたか、研究の裏側が見えてきますよ!



●挑戦!超高齢者の食事記録調査

今回紹介する食事調査の具体例は、80歳以上の高齢者の方に食事記録をとってもらったときのことになります(文献1)。この年代の人たちでも食事質問票は使えるのかを確かめる妥当性研究の比較基準に使うため、食事記録を非連続で3日分書いてもらう計画にしていました。

高齢者の方への調査となると、説明を理解してもらうのにも時間をかけてゆっくりと行う必要があります。そして、記録内容に不明点がないか、丁寧に聞き取る必要があります。それで、このときは100人を目標に参加してくださる対象者さんを探し、お一人お一人のお宅へ伺って調査内容を説明しました。食事記録を書いてもらった翌日には調査員である私たちが毎回改めて訪問して、その内容を確認することにしていました。最終的に80人に食事記録を書いていただきました。

●記録用の道具を進呈

食事記録法では、料理名だけではなくて、実際に食べた食材の名前とその重量を量ってもらうことになるんですよね。そのためには、食材を秤量するために必要な秤、計量カップ、計量スプーンなどの道具、記録用紙や筆記用具などの記録に必要な道具が必要です。それらと一緒に説明書などをセットした道具一式を対象者さんへお渡ししました(図1)。

図1. 食事記録調査の対象者さんにお渡しした品々

道具の使い方を説明しながら「出来上がった料理全体の重さを量るだけではなくて、そこに使われている食材がそれぞれ何グラムあるのか、味付けで使った調味料はスプーンで何杯だったか、など、その日1日に食べたり飲んだりしたものをすべて記録してくださいね。」という全体像をお伝えします。

●こんなに細かい!

そして、具体的な記録の例(図2)をお見せしながら、記録方法をさらに細かく説明していきます。

図2. 食事記録票に示した具体例

例えば豚肉の生姜焼きであれば、お肉の種類としては豚肉になります。けれども、豚肉はバラなのか、肩なのか、などの部位の違いによって、含まれている栄養素量はかなり違うんですよね。記録をその後データ化するときには、日本標準食品成分表(当時は2010年版(文献2);食品成分表)の食品番号に結びつけないといけないのですが、単に「豚肉」だけだと、豚肉のバラの番号を使うのか、肩の番号を使うのか、決められなくて困るんです。そのために、できるだけお肉の部位の情報までほしいところです。

使われている調味料も、全体の食事量に比べれば微量ですが、大切な情報です。秤で十分に重さをはかることができませんし、出来上がった料理の写真を後で見せてもらっても何が使われているのかを十分に知ることはできませんから、調理のときに計量スプーンなどで量ってもらうことになります。ご家族数人分の料理をまとめて作っている場合には、その料理全体の量ではなくて、対象者の方お1人が食べた量が必要なんですよね。そこで、最終的に出来上がった料理全体のできあがり重量や、対象者の方が食べた1人分を量って「実際に食べたのは全体の6分の1だった」などと記録してもらうようにします。

●とはいえ、できる範囲で

ここまで大変と分かると、対象者の方によっては「できません、やっぱりやめます」とおっしゃる方も…。それでも、少しでも興味を持って説明を聞いてくださったのですから、できる範囲での記録をお願いして、なんとか参加してもらうこともありました。例えば、秤の使い方が難しくて秤量がおっくうだという方の場合には、重量のグラムを記録してもらうのはあきらめて、「茶碗1杯」などの「目安量」を記録してもらうようにしました。そして調査員が記録の翌日に確認に行ったときに、記録してある食品の大きさの記載を見て「このくらいでしたか?」と具体的に尋ねたり、まだ料理が残っているときにはその料理を見せてもらったりして、なるべく実際の重量を明らかにします。

普段料理をしないで、外食や中食に頼っている方の場合には、食べる直前に出来上がり重量を秤量してもらい、そこに入っている目に見える範囲の食材の名前、どんな味付けか、味は濃いか、薄いかなどを記録してもらうようにします。既製品の場合には食品のラベルや包装を保管してもらうようにしました。

記録に残すからといって、普段と違う食生活になってしまっては、日常的に摂取している食事の「比較基準」に使えません。得られた記録を基に食事のアドバイスもすることになっていたため、ご本人の食事改善のためにも、普段どおりの食事を記録することが最も重要です。できるだけ対象者さんの負担にならないように、それで普段どおりの食事を記録できるように、調査員のサポートが必要です。

●記録されていないものを見つける確認作業

こうしてなんとか対象者さんに記録してもらった後は、この記録を現実に食べたものの情報に近づけるための、調査員による対象者への聞き取りが欠かせません。

例えばある対象者の方は図3のような昼食の記録を書いてくださっていました。

図3. ある対象者さんの昼食の食事記録

がんばって記録していただいたところですが、このままではデータ化するために不足している情報があります。そこで調査員が確認のため様々な聞き取りをします。

たとえば記録忘れがないか。書いてあるものが正しいか、だけではなくて、書き忘れがないかの確認も必要です。このときは主食の書き忘れがないか、ごはんやパンは食べませんでしたか?とおたずねしました。朝食を食べ過ぎて、昼ご飯はごはん抜きだったそうです。

唐揚げは既製品で、ご自身で作ったものではなかったため、鶏肉であることは分かりましたが、肉の部位はわかりませんでした。その後、一般的な鶏の唐揚げのレシピを使って食材に分解することにしました。食べるときにはソースやしょうゆを使っていないか、などの確認もします。

みかんは食品成分表に様々な種類のみかんの成分値が収載されています。みかんの種類の情報はほしいですね。「ふつうのみかんだった」そうなので、「うんしゅうみかん」の食品番号を使えばよさそうです。その場合、中の薄い皮を食べたか、食べなかったかによって、使う番号が違いますので、そこまで確認します。3個とはいえ、大きさによって重量はかなり違いそうです。幸い、一緒に箱に入っておくられてきたみかんがまだ大量に残っていたので、見せてもらい、大きさがどのくらいかはわかりました。

せんべいは、どんな味だったか、大きさはどのくらいだったか確認します。残念ながら、パッケージの包装などは残っていなかったので、塩味であったことと、手で「このくらい」と示してもらったので、それをメモしました。

コーヒーは食事のときに一緒に飲んだのではなく、昼食後にしばらくして飲んだということです。では食事のときは?と聞くと、お茶を飲んだとのこと。記録忘れですね。使った湯呑茶碗を見せてもらい、どの程度まで入れて飲んだのかを確認させてもらいました。

こうやって聞き取りを行って、最終的には記録内容は図4のようなデータになり、研究に使えるようになります。

図4. 調査員の聞き取り後に作成した食事記録データ

●まとめ

食事記録をとる、といっても、大変です。食材の種類と重量を量って記録してもらうことになりますが、どんな食材を使っているのか、知識がなければ書けませんし、秤量するといっても、対象者さんの一人分の量を量るには手間や工夫が必要です。日常生活を送りながらだと、記録忘れも生じます。そして、データ化に使う食品成分表の知識がなければ、どの程度詳しい情報を記録しておけば十分なのかも分かりません。こうして作り上げられた丁寧な食事記録だけが、対象者さんの食事改善と、様々な研究に役に立つんですね!

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【参考文献】
1. Kobayashi S, et al. Public Health Nutr 2019; 22: 212-22.
2. 文部科学省. 日本食品標準成分表2010年版. 2010.


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