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疫学(エキガク)って知ってる?易学じゃないよ!!

私の専門は「栄養疫学」です。といっても「そんな専門分野があるんですね」という反応をもらうことは多くて、どんな分野なのか、一般の人にはまったく知られていないだろうな、という自覚はあります。

栄養疫学は「栄養」の「疫学」というふうに、2つの用語を合わせた語なんですよね。栄養疫学のイメージがわかない人は、栄養のほうではなく「疫学」がどんな学問かのイメージがつかないようです。耳で「エキガク」と聞いて占いの易学と間違われたり、「疫」の字のせいで「疫病」つまり伝染病を連想させてしまったり、「免疫学」というまったく別の医学の分野と勘違いされたりすることもしばしばです。

このnoteでは、そんな「疫学」がいったいどんな分野なのかを説明していきます。


●キーワード1:ヒト集団

たとえば日本語の疫学の専門書(文献1)には、「疫学」とは何か、このように説明されていました。

人間集団における健康状態とそれに関連する要因の分布を明らかにする学問

中村好一. 基礎から学ぶ楽しい疫学 第2版. 医学書院. 2006.

つまり疫学とは、たくさんのヒトの状態を調べてその結果をデータ化し、そのデータを分析して、どんな習慣を持っている人が健康を保っているか、またはどんな病気になりやすいかといったことを導くような学問になります。ここで重要なのは「たくさんのヒト」で調べているということです。細胞や動物ではないわけですね。

●キーワード2:予防対策への活用

もうひとつ疫学の重要ポイントは、「健康状態と関連する要因は何か」を追求していることです。得られた結果を、病気の予防などの対策を立てるために使おうとしているわけですね。研究者の興味だけで進めるべきではなく、その研究を進めることに意味があるのか、結果は現実に使えるかが常に問われます。

ちなみに、先ほどの疫学の専門書(文献1)には、疫学の実施の目的は、①疾病の予防、②寿命の延長、③生活の質(QOL)の向上、とありました。このような目的のために実施する学問なんですね。

●エビデンスとして臨床に使われる

医療の分野では、ヒトで調べた研究の論文結果を、科学的根拠つまりエビデンスとして参照し、それを活用して臨床判断を下す、Evidence-based Medicine(EBM)と言われれる方法がとられています(文献2)。「たくさんのヒトで調べた研究」というのは、疫学研究のことですよね。

細胞実験などで得られた結果はまだ研究の途上で、日常的に生活している人にも応用できるかはわかりません。そして、たとえヒトで結果が得られたとしても、ヒトは個人差が大きいために、数人などの少人数で得られた結果が他の多くの人でも得られるかわかりません。そのために、たくさんのヒトで調べた疫学研究の論文になってようやく、現実の世界で活用できるようになります。

●健康情報のエビデンスにも使われる

現実の世界で活用できるということは、疫学研究の結果は臨床だけではなく、場合によっては日常生活の中でも使える段階にあるということになります。その結果、疫学研究の結果は「食品○○が病気△△の予防に効果がある」といったような健康情報に加工されて、発信されることもあります。

ただし、疫学研究の結果にもとづいていたとしても、その解釈の仕方を誤っていたり、たったひとつの研究結果にもとづいた情報であったりする場合もあります。その場合には、その健康情報を受け入れたり、活用したりしないほうがよいでしょう。どういう場合に問題があるのかは、今後の日々の発信でお伝えできたらと思います。また、健康情報の信頼度の判断方法は、こちらの記事が参考になります。


●色々な疫学

私の専門分野である栄養疫学は、栄養素や食品の摂取状況などの食事に関わることを扱っている疫学ということになります。疫学には色々な種類があって、たとえば運動を扱えば運動疫学、環境中の化学物質を扱えば環境疫学、疾患のほうではがんを扱えばがん疫学、というぐあいに、それぞれの専門家は自分の分野をそのように名乗っているように思います。図で示すとこんな感じでしょうか。

色々な疫学

●まとめ

栄養疫学は、疫学という学問分野の一種であり、食事に関わることを扱っている疫学のことを言います。疫学とは、たくさんのヒトで健康状態とそれに関連する要因を測定してデータにし、どんな習慣を持つ人がどんな病気になりやすいかなどを明らかにして、予防などの対策を立てるために行われる学問です。栄養疫学の研究結果は、日常的に食べている食事をどうすると健康を維持できるのか、私たちの健康づくりのための様々なヒントを与えてくれます。

病気になった人をすぐに治療できる特効薬のような結果をもたらすことはできませんが、たくさんのヒトを病気から守るため、日々静かに支える学問です。

【参考文献】
1. 中村好一. 基礎から学ぶ楽しい疫学 第2版. 医学書院. 2006.
2. Jenicek M. J Epidemiol 1997; 7:187-97.



すべての100歳が自分で食事を選び食べられる社会へ。

みなさんの人生10万回の食事をよりよい食習慣作りの時間にするため、できることからひとつずつお手伝いしていきます。

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