積み重ねがもたらすもの
中学時代の恩師の絵が、第93回第一美術展で「東京都知事賞」を受賞したそうだ。
先生の作品は、いつも素晴らしく、水のうつくしさ、緑の生命力が抜きんでている。
見る森林浴。
目でするアーシング。
ところで、これを描かれている先生は、美術の先生ではない。
社会科である。わたしたちには「ピテカントロプス」とか「コルホーズ」とかを教えてくれていた。先生が絵を描かれていることを知ったのは、わたしがおとなになってからである。
では、先生はいつから描かれていたのか。
そうお尋ねしたところ、「きみたちを教えていたころから、仕事が終わった夜に描いていたよ」と教えてくださった。
えっ。
先生と同業に就いた今だからわかるが、毎日教壇に立ち、授業をし、担任をするというのは大変なことだ。疲労困憊で帰宅して、のんべんだらりとしたくなるその夜に、絵を描いていたとは。まったく頭が下がることだ。
その一筆、一筆が、今につながる線となり、今日のこの東京都知事賞の作品がある。
イチローのが2004年にシーズン最多安打記録を残したときに語った言葉を思い出す。
「小さなことを重ねることが、とんでもないところに行くただ一つの道」
絵筆の1ストロークが重なって大きな作品が出来上がる。
そう考えると、脳みそが、じり、と焦りの音を立てる。
さあ、わたしは、どんな歩みを重ねて、どこへ行こうか。